谷川17世名人
谷川浩司九段が,17世名人を襲位することになりました。すでに名人位5期で引退後には17世永世名人を名乗る資格はありましたが,この4月に還暦を迎え,これまでの抜群の実績を考慮して,中原誠16世永世名人の例にならって,現役での襲位が認められました。谷川九段という呼び名は,いまはすっかり慣れてしまいましたが,最初は違和感がありました。これからは谷川17世名人と呼ぶことになります(叡王の段位戦では九段戦に出るのでしょうね)。
21歳で史上最年少の名人につき,その記録は,まだ破られていません。藤井聡太竜王(五冠)が,記録を破るかが注目されていますが,その結果は来年わかります。勝利数も羽生善治九段,大山康晴15世名人に続く歴代3位です。その偉大な業績は,まばゆいばかりです。ご本人は30代の時期にもっとタイトルをとれていればと思っておられるようです。ファンもそう思っています。でも,当時の多くの若手棋士が,打倒谷川で襲いかかっていた時期です。そのときでも谷川さんは勝って多くのタイトル戦に登場してきたのです。あと一歩でタイトルがとれなかったものもたくさんあります。谷川17世名人は,羽生九段と異なり,勝負術という点では長けているとはいえません。もっと勝負術に長けていれば,もっと多くのタイトルをとっていたでしょう。でも,そういう泥臭い勝負をしないのが谷川将棋でした。タイトル27期は,数字的にはやや物足りないですが(それでも羽生,大山,中原,渡辺明名人に次ぐ歴代5位),ファンは「光速の寄せ」にこだわり,かかんに攻め込んでいった谷川勝利に魅了されてきたのです。
ところで谷川さんが還暦ということは,1歳違いの私ももう少しで還暦に近づくということになるのですが,労働法の世界では,どうも還暦になると何かお祝いをするという慣習があり(かつてのように本を刊行するということはさすがになくなってきていると思いますが),弟子や下の人たちがいろいろと気をまわさなければならないようです。谷川さんのように,たぐいまれな業績があり,それに敬意を表して永世名人を襲位するのは,とても素晴らしいことです。
しかし,研究者が研究以外のことで,たんに年齢到達や叙勲などでお祝いをされるというのは,なんとなく感覚的に受け付けません。研究以外で社会貢献などをしっかりしていて,その貢献に対して,お祝いをするというのであれば理解できます。実は多くの研究者は,そういう社会貢献をしっかりしてきているので,その面でのお祝いをするのにふさわしいのだと思います。私のように自分の好きな研究をやってきているだけのような人は,主観的には,少しは社会課題の解決に貢献しているつもりではありますが,実際には害悪をばらまいている可能性もあるので,その評価は死んだときにしてもらえればと思っています。
ところで,そういう私も,昔は他の先生の還暦祝いなどをやってしまったことがあり,いま思えば,その先生はおそらく望んでおられなかったのに,無理強いしてしまったのではないかと悔やんでいます(そのときの気持ちは怖くて聞けません。最近,このセリフが多いですが)。正直にいうと,無理強いしてもよいのではというお節介な気持ちをもっていたのですが,これは独善的なことで,本人の迷惑を考えず,結局,やったほうの自己満足でしかなかったのではないかと猛省しています。若気の至りでした。尊敬する先生方にできることは,学問で恩返しをすることしかないのです。
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