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2022年5月10日 (火)

吉野家の外国籍学生排除問題について

 吉野家が,新卒採用の説明会に外国籍の大学生の参加を拒否していたことが報道されていました。拒否の理由は,就労ビザの取得が困難で,内定を出しても入社できない可能性があるため,ということのようです。これがどこまで説得的な理由となるかはよくわかりません。過去にそうした例があったからといって,そういう取扱いを一律に行うのだとすると問題でしょう。差別というのは,そういうステレオタイプな発想による取扱いから生じるのです(「君は黒人だから・・・」「君は女性だから・・・」という発想がダメということです)。
 法律論でいえば,労働基準法3条は均等待遇原則を定め,国籍を理由とする差別的取扱いを禁止していますが,通説は,これは労働契約成立後を対象とするものなので,採用前の段階には適用されないとしています。ただ,労働契約締結前を対象とする職業安定法の3条も,均等待遇原則規定を置き,「何人も,人種,国籍,信条,性別,社会的身分,門地,従前の職業,労働組合の組合員であること等を理由として,職業紹介,職業指導等について,差別的取扱を受けることがない」と規定しています。今回の吉野家のケースは,「職業紹介,職業指導等」をどこまで広く解釈するかによりますが,たとえ法律に抵触しないとしても,採用時の公正な取扱いは,企業の社会的責任として果たすべきものです。どのような基準で選考をするかは企業の裁量があるとしても,基本的には能力と適性に結びつく基準で採用選考するというのが,公正な採用のポイントです(拙著『人事労働法―いかにして法の理念を企業に浸透させるか』(弘文堂)63頁)。今回は採用基準の問題ではないともいえますが,たとえそうであるとしても,企業には,とりわけ性,年齢,障害,国籍などに関係する取扱いは差別的であると誤解されないような慎重な行動が求められ,「強い」対応(就職説明会から排除するなど)をする場合には,本人に納得をしてもらえるように誠実に説明すべきとするのが,人事労働法の発想です。
 採用前なのだから,そこまでやる必要があるのかという疑問も企業側にはあるかもしれません。しかし,就職説明会を実施するなど一般的な形で求人をしている企業は,そこに参加を求めてきた求職者との間では,信義則が適用されるべき社会的接触が生じているとみることもできるでしょう。そうなると法的な関係があることになります。かりにそこまで言えなくても,企業は求職者との社会的接触がすでに生じている以上,求職者の人格的利益に配慮した行動をとるのが,企業の社会的責任として求められるのです。こうした非法的な責任まできちんと果たすことは,企業に求められる良き経営の基本といえるのであり,それが企業価値を損なわないためにも必要なのです。ESG投資の時代の株主は,そういう点を見逃さないでしょう。
 私は吉野家の牛丼には関心がありませんが,誰もが知っている著名な企業が,今後,どのように変化していくかについては関心をもって見ていきたいと思います。

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