東野圭吾『ラプラスの魔女』,『魔力の胎動』
東野圭吾は,脳のことを扱った話が多いような気がしますね。『ラプラスの魔女』は,脳の手術により,特殊な能力をもつようになった人の話です。
お父さんが著名な脳神経外科である羽原円華は,母親を竜巻の被害で亡くすという悲劇に見舞われます。そんな彼女が,温泉地(赤熊温泉と苫手温泉)での硫化水素の死亡事故の現場に現れているのが目撃されます。それを目撃したのが,この問題に詳しい大学教授の青江です。最初に亡くなったのは水城という映画プロデューサーですが,同行していた年の離れた若い妻は,途中でカメラを取りに引き返したために助かります。この妻は,多額の保険金を受け取ることになり,そうとうに怪しいのですが,硫化水素中毒で人を殺すというのは不可能というのが,専門家の青江の判断でした。もう1件の硫化水素中毒は,遠く離れた温泉地でしたが,そこで亡くなったのは,目立たない俳優でした。二人に関係する人物として映画監督の甘粕才生が浮上します。彼は,妻と長女を自宅の硫化水素事故で亡くしており,長男もこの事故で脳に重篤な障害を受けていました。事故の原因は,長女の自殺で,妻と長男はそれに巻き込まれたとされました。甘粕は,その後,この事故の顛末をブログに書いて,素晴らしかった家族に襲いかかった不幸をつづりました。ところが,このブログの内容は,ほとんど嘘で固められていたことがわかります。実は家庭は崩壊していたのです。
青江は事故のあったそれぞれの温泉地の依頼を受けて調査に出かけます。この事件をしつこく追っている刑事からは,殺人の可能性を質問されますが,それは否定します。しかし実は,彼の想像を超えるようなことが起きていたのです。
脳に甚大な障害を受けていた長男の謙人は,奇跡的に復活していました。羽原教授の手術の成果です。彼は単に復活しただけでなく,脳の神経回路を新たにつくる能力が格段に速くなっていました。それゆえ様々な物理法則も瞬時に分析して,次に起こることが予想することもできるようになっていました。風の動きを分析して,発生した硫化水素が次にどこに流れていくかも予想できました。
謙人は,入院中に父親の独白を聞いていました。父親は謙人が植物状態であり,また過去のことについて記憶喪失に陥っていると聞いて安心していたのですが,それは謙人のフェイクでした。実は甘粕家の事故は,事件だったのです。才生が仕組んだことでした。謙人は姉と母を殺した二人に復讐をしていたのです。そして,最後に,父親を殺そうとしていました。
羽原教授は,彼の手術のおそるべきインパクトに驚いていましたが,これが手術の成果なのか,謙人のもともとの能力なのかは明確ではありませんでした。その再現性を確認するために,なんと娘の円華に対して,同様の手術をしたのでした。もちろん,それは,円華が自ら望んだことだったのです。もし竜巻を予測できていたら母親を救えていたかもしれないと考えた円華は,その能力を得ることを望んだのです。
謙人と円華は,同じ病棟で知り合うことになるのですが,謙人は失踪をします。円華は,謙人が硫化水素で二人を殺したと考えて,事故のあった温泉地に姿をみせ,そこで青江教授と遭遇していたのです。円華は,謙人が父親を殺すことを阻止しようと考えて,奔走します。最後,円華は,謙人が才生を犯そうとするところを,彼女が新たに得た予知能力を使って寸前で阻止します。しかし,才生は結局,自殺してしまいます。
という話なのですが,その続編が,『魔力の胎動』です。こちらは短編なのですが,円華の特異な予知能力が,いろんな人を救っていくという話です。才生の映画の犠牲者といえる鍼灸師の工藤ナユタが主人公なのです(前作と同様,才生の映画への異様なこだわりが,周りに不幸をもたらします)が,青江教授もまた登場します。うまい続編になっています。私は続編のほうから読んだのですが,それでも十分に楽しめるものでした。
久しぶりに東野ワールドに浸ることができて良かったです。
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