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2022年5月11日 (水)

マインド・コントロール

 ロシア国内では,Putinの戦争に対して多数の国民が支持をしているそうです。国外にいると,ありえないことのように思えます。ただ,ロシア人だから,あるいはロシアを愛しているから,Putinを支持しているというわけではなく,実際ロシア人のなかでも国外に逃げている人がたくさんいますし,戦争前から外国に住んでいるロシア人はPutinの戦争に反対をしている人が多いようです。 要するに,国内にいればPutin支持になるということで,そこにはロシア国民が何らかの形で情報統制を受けてマインド・コントロールがあると考えてもおかしくないでしょう。
 岡田尊司『マインド・コントロール(増補改訂版)』(文春新書)を読むと,マインド・コントロールが起こるプロセスを「トンネル」にたとえて説明する話がでてきます。 「トンネル」という言葉には,「外部の世界からの遮断」と「視野を小さな一点に集中させること」という意味が含まれています。これが,たとえば普通の人がテロリストになっていくようなときに,共通して経験することなのだそうです。オウム真理教の修行などにもあてはまるのでしょう。 そういうカルト集団だけではなく,ある特定の組織の中で,その文化にどっぷりつかまって,他の価値観を受け入れることをせず,そういうなかで,その組織のためというような限定された目標を指示され,その指示に従う者は賞賛され,そうでない者は徹底的に非難されるような環境があると,非常にマインド・コントロールが起こりやすい状況となります。もちろんマインド・コントロールされても,支配側が正しくコントロールしてくれる場合であればよいのですが(親が幼児に行う場合など),犯罪組織や独裁者などに利用されてしまうおそれもあるわけです。
 この本では,マインド・コントールの手法だけでなく,マインド・コントロールされる側の特性やする側の特性も示されています。とくに恐ろしかったのは,する側の特性です。「悪しきマインド・コントロールに走る者は,他者を支配する快楽が強烈なのに比して,それを思いとどまる共感や思いやりを稀薄にしかもたないと言える。そうした特性は,精神医学的には,一つの人格構造の特徴に一致する。それは自己愛性である。自己愛性人格構造は,肥大した自己愛や幼い万能感と,他者への共感性の乏しさや搾取的態度を特徴とするもの」なのだそうです(54頁)。そして,「万能感の肥大した誇大自己を抱えた人は,自分が死ぬときには,世界を道連れにしたいという思いを抱きやすい。その人にとっては,自分が世界より重要なので,自分が滅んだのちも,世界が存在するということが許せないのだ」ということです(57頁)。
 Putinはもはや出口のない戦争に突入しているようにみえます。世界を敵にしてもうダメと観念したとき何が起こるのか。世界を道連れに核戦争に突入する危険がないと誰が言えるでしょうか。

 

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