冤罪の生まれ方
昨日,紹介した岡田尊司『マインド・コントロール』(文春文庫)の続きです。この本では,人間を使った実験において,外界からのあらゆる刺激を遮断してしまうと,人間は簡単におかしくなってしまうことも紹介されています。脳というのは情報から遮断されてしまうと,情報飢餓状況が生まれ,そうなると,どんな情報でも受け入れてしまうのです。これがマインド・コントロールの一つの手法であり,監禁状態に置くと,その期間がそんなに長いものでなくても,こういう状況が生まれてしまうようです。拘留されて,外界から遮断されてしまい,そして連日厳しい捜査を受けると,早くそのような状況から解放されたいというように脳が欲して,捜査機関のいう情報を受け入れてしまうこともあるのです。いったんそうなると裁判でも,証言は真実を語られることがなくなります。嘘と分かっていて嘘をつくのではなく,本人は吹き込まれた情報が正しいものであると心の底から信じているのです。誤った情報の受容が無意識に行われるのが怖いところです。このため,裁判になっても,吹き込まれた情報を真実と信じて証言をしてしまうので,注意深い裁判官であっても,それがマインド・コントロールされた証言と見破ることができないのです。ただ,どこかの段階でマインド・コントロールが解けると,本人は真実を語れるようになります。それが間に合えばよいのですが,処刑されてしまうと,その機会もありませんし,独裁政の国では,絶対にマインド・コントロールが解けないようにし,とっとと処刑してしまうのでしょう。
そういえば少し前に北朝鮮を旅行していたアメリカ人大学生が窃盗で逮捕されて有罪とされ,結局,廃人同様の状況で帰国し,そのまま亡くなったということがありました。拷問されたのではないかと言われていましたが,肉体的には拷問はされていなかったようです。しかしながら本人はやはり脳に大きな損傷を受けていた可能性があります(精神的な拷問)。彼は謝罪会見も行っていましたが,強いマインド・コントロールにより,自分が北朝鮮側の言うような犯罪をおかしたと信じ込まされていたのかもしれません。その会見の直前にはおそらく過酷な監禁や精神的な負荷が与えられて,自分の無意識の認識が書き換えられてしまった可能性があるのでしょう。脳というのは恐ろしいものです。
ところで,この本では,マインド・コントロールの5つの原理というものが示されています。①情報入力を制限する, または過剰にする,②脳を慢性疲労状態におき,考える余力を奪う,③確信をもって救済や不朽の意味を約束する,④人は愛されることを望み,裏切られることを恐れる,⑤自己判断を許さず,依存状態に起き続ける,です。
例えば,過剰な情報にさらされ,脳が疲労状態に陥るなかで,他人からの優しい言葉をかけられてしまい,その相手を信用し,その相手から自信たっぷりの指示を受けて,これに従えば大丈夫と言われてしまうと,簡単にそれに従ってしまうかもしれません。マインド・コントロールの罠に落ちないように,日頃から気を付けて生きていきたいものです。
« マインド・コントロール | トップページ | 『コリーニ事件』 »
「読書ノート」カテゴリの記事
- 『Q&A現代型問題管理職対策の手引』(2024.08.31)
- 柴田哲孝『暗殺』(2024.08.28)
- 大局観(2024.06.09)
- 『法学部生のためのキャリアエデュケーション』(2024.06.03)
- 『仕事と子育ての両立』(2024.05.25)