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2022年4月18日 (月)

『労働法における最高裁判例の再検討』

 注目していた労働法律旬報の連載が書籍化されました。『労働法における最高裁判例の再検討』(旬報社)です。お送りいただき,どうもありがとうございました。いまやマスメディアで労働法というと,濱口さんか沼田さんかというくらいの存在感のある沼田雅之さんが筆頭編者で,浜村彰,細川良,深谷信夫共編という書籍です。労働法学の重鎮と次代のエースが編者に入ったという感じでしょうか。この連載では,石田信平さんの三菱樹脂事件の論文をゼミで扱ったこともありました。
 古い判例を検討し直すという企画はとても重要だと思います。採り上げられている最高裁判決は,いずれも重要で,LS生などが深く学習するのに役立つでしょう。解雇に関するものやロックアウトに関するものが落ちているのは,前者は制定法となったから,後者は実際上の重要性が低下したから,ということでしょうかね。日本食塩製造事件などは,解雇の観点からも,ユニオン・ショップの観点からも,採り上げてもらいたい判例でしたし,このほか第二鳩タクシー事件も,労働委員会関係者としては気になるところですが,ないものねだりですね。
 第四銀行事件では,私の判例評釈も批判的に検討され(沼田さん),また,日新製鋼事件では,私の論文が批判的に検討されています(井川志郎さん)。前者については,第四銀行事件の評釈を書いたころ,私自身もともと判例の就業規則法理に批判的な集団的変更解約告知説を発表していて(『労働条件変更法理の再構成』(有斐閣)で書いた集団的労働条件の段階的構造論),ただ,それはそれとして判例をどう評価するかという難しい作業をしていた頃のことを懐かしく思いだしました。第四銀行事件の最高裁判決は,みちのく銀行事件の最高裁判決とともに,『最新重要判例200労働法』(弘文堂)に掲載はしていますが,先週から始まった今学期の学部の授業で,いきなり就業規則の話をしたときには,秋北バス事件以外は,詳しくふれませんでした。就業規則論自体は重要ですが,私の『人事労働法』(弘文堂)では,すでに新たな理論フェーズに入ってしまっています(詳細は,同書34頁以下)。後者のほうは,日新製鋼事件について,デロゲーションを認めた判決だという私の理解への批判がありましたが,前からこの点は,皆川宏之さんの指摘もあり,それはおっしゃるとおりかもしれないと思っています。ただ,労働基準法の強行規定性というのは,それほど絶対的なものではないのであり,この判決をそうしたことを示したものとして挙げてもよいだろうと思っています。もっとも,この点についてもまた,『人事労働法』では,上記の就業規則論と関係して,新たな理論フェーズに入っていて,判例がどうかということより,強行規定の任意規定化を理論的にどう展開すべきかということに関心が移っています。
 ところで,私も実は判例を新たな視点で学生たちに学んでもらいたいという観点から,10年前に『労働の正義を考えようー労働法判例からみえるもの』(有斐閣)を刊行しています。今回の沼田さんたちの本のような硬派なものではなく,軽いタッチで描いています(ただし内容は決して軽くはなく,もしかしたらむしろ難解もしれません)が,比較して読んでもらえれば,労働判例を多角的に理解できるのではないかと思います。

 

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