解雇の金銭解決
昨日の厚生労働省の研究会で,「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の報告書がまとまったそうです。ずいぶん時間がかかりましたね。参加者には,私がよく知っている人もたくさんかかわっているので,悪口を言うのは控えたい気分ですが,私からすると,あまり意味のない検討会という評価になります。優秀な先生方の貴重な時間を奪ってしまい,もったいないという感じです。
解雇の金銭解決を,労働者からの申立てのみに絞ることからして,本質からずれてしまっているのであり,間違った行き先のレールに乗っているから,どんなに頑張っても望ましい結果はでないでしょう。この検討会は,親会合のほうで,法技術的な議論になりがちだったから,まずは法学のほうでしっかり検討してくれということでタスクフォース的に始まったのでしょう。法技術的な問題は,法律家だけが集まると喜んで何時間でもやれますし,私たちのやっている研究会なども,そういう議論をよくやっています。しかし,法律の専門家以外の人が入ると,そういう議論はできるだけせずに,より大きな視点から相互に建設的な議論ができるようにする必要があるわけですが,解雇に関しては,そういう議論ができなかったから,法律家だけでやってくれという話になったのでしょう。国民はこの検討会の報告書の意義はよくわからないでしょうし,おそらく報道しているマスメディアもよくわからないまま,解雇に関するルールが変わりそうだから,たぶん大事なことだろうと思って報道しているのではないかと思います。
私たちが提案しているのは,解雇の金銭解決は,使用者が完全補償をしなければ解雇できないという厳しい規制です。これを反対するのは,むしろ経営者側のほうであり,そこをどう連合が説得して妥協点を探るかという手順を踏んでいくのが,解雇規制をめぐる議論の行き詰まりをブレイクスルーする唯一の道です。そのためには,連合がまず私たちの提案している制度をよく理解してくれなければなりません。
コロナ禍での補助金の大盤振る舞いが終わると,大リストラが起こるおそれがあります。そのとき現行法では,解雇が有効で,労働者には失業給付しかないということが起きてしまいます。私たちの提案している金銭解決は,企業にとって帰責性がない場合も含め,完全補償をしなければ解雇を有効としないので,こういう悲劇を避けることができるのです。もし労働組合側が,それでも,私たちの提案する金銭解決制度に反対するのであれば,その理由を知りたいところです(実現が難しいというのであれば,わからないわけではありませんが,本質的な反対理由にはなりませんよね。それを突破する政治力がないと言って白旗をあげているのと同じですから)。
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