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2022年4月17日 (日)

社会的共通資本としての医療とDX

 4月15日の日本経済新聞の出口恭子さんの経済教室は,医療介護DXが成長を底上げするという内容でした。DXが私たちの最も深刻にとらえるべき医療や介護という社会的課題の解決に役立つことがわかりました。医療や介護の現場におけるアナログ体質はつとに指摘されており,私も父のことを通して,それを実感していました。医療や介護において,もっとデジタル技術をうまく活用できないかと思うことがよくあります。いつも書いていることですが,医療や介護に従事する人たちの献身的な働きぶりには,ほんとうに頭が下がる思いなのですが,もっと効率的に働く方法があるはずだと思うこともよくあります。これは現場の労働者ではどうしようもないことでもあるので,経営者たちがデジタル技術を使えるところはデジタル技術を使うというデジタルファーストの精神で臨んでもらう必要があります。そのためにもデジタル人材が,もっと各所で活躍するという状況が出てこなければなりません。そのうち,きつい仕事には人が集まらなくなり,ほんとうに医療や介護が回らなくなる可能性があります。コロナ禍で露呈した医療提供体制の問題点は,将来における医療介護従事者不足の問題を前倒しで国民に示してくれたという面がありました。医療や介護は人間がすべてやらなければならないというのは大きな間違いであって この経済教室の論考でも出てきたように,プロセスにおけるデジタル化によるイノベーションがまずは重要なのです。日々のちょっとした作業をデジタル化することだけでも,ずいぶん仕事が楽になるでしょう。そしてその浮いた時間は,別の肉体労働に充てるのではなく,DXをどのように活用すれば,医療や介護の目的を実現できるかということに知恵を絞る作業に充ててもらいたいのです。 医療介護サービスの目的は何なのかを定義し,そのために,いまやっている作業はほんとうに必要なのか,同じ目的を達成するために別の効率的な方法はないかという視点で事業の再検討をしていくことが大切です。
 もちろん医療や介護の効率性というのは,それはFriedman 的な市場メカニズムをどんどん導入して行くべきという話とは全く違います。むしろこの分野は,政府が徹底的にサポートすべきものであって,病院の経営者が金策を考えなければならないということでは困るのです。医療や介護こそ税金で支えるのに適した分野です。経済学者の宇沢弘文の有名な「社会的共通資本」 という考え方があります。医療はこの社会的共通資本の代表例です(同タイトルの岩波書店の本の第5章も参照)。医師たちの育成や業務(治療など)の費用(もちろん報酬も含まれる)は,社会で支えるべきものです。国民も医師も,この貴重な社会的共通資本を無駄に使わないように,互いに倫理的な行動をとっていくことが,求められているのです(医師側は「ヒポクラテスの誓い」)。デジタル技術を活用した効率化と人々の倫理的な行動とは,よりよく社会課題を解決するという目的のための車の両輪です。こういうことをサポートするための制度設計をすることこそ,法の役割ではないかと思っています(国民皆保険などの日本の制度は世界に誇れるものではありますが,なお課題は山積しています)。



 

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