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2022年4月24日 (日)

人事労働法からみた労働者派遣法40条の6の問題点

 昨日の神戸労働法研究会で,東リ事件・大阪高裁判決についてオランゲレルさんに報告してもらいました。何度検討しても,いろんな論点が出てくる判決です。
 私は,ビジネスガイド(日本法令)に連載中の「キーワードからみた労働法」の第177回「労働契約申込みみなし制part2」のなかで,この判決に言及しています。その原稿のなかでもふれたのですが,労働者派遣法40条の8(厚生労働大臣の助言等の規定)が注目される規定です。発注企業は,偽装請負かどうかの判断について,厚生労働大臣(都道府県労働局長)が判断を示せば,それに従った行動をとるかどうかが,免責につながる法適用の潜脱目的や善意無過失性の成否とリンクさせる解釈をとることが望ましいのではないか,ということが昨日の研究会でも少し議論されました(労働局が偽装請負と判断したにもかかわらず,請負を継続すれば潜脱目的ありとし,労働局が偽装請負でないと判断したのであれば,それを継続しても潜脱目的なしとするなど)。人事労働法の観点からは,行為規範性を重視するので,偽装請負の該当性というような,一般の人には(のみならず専門家にとっても)判断が難しい規範が問題となる場合には,ことのほか,行政の事前の関与が重要となると思います。立法論的には,本格的な事前審査手続を導入すべきだと考えています(拙著『人事労働法』(弘文堂)88頁)。
 ところで,規範の曖昧性というのは,実は,労働者側にも影響することがあります。「キーワードからみた労働法」の上記論考のなかでは,日本貨物検数協会(日興サービス)事件もとりあげていますが,そこでは労働者の(みなし申込みへの)承諾の有無が問題となりました。承諾の意思表示については,1年間の制限があるのです(労働者派遣法40条の62項を参照)が,この事件では,所属する労働組合が団体交渉で直接雇用を求めているだけでだったため,これでは承諾の意思表示にならず,その後に個人が意思表示をしたときは1年を経過していたので,労働契約の成立は認められないとされたのです。しかし私は,この判断には疑問があると書いていました。私は,40条の6の立法政策的な面からの妥当性については疑問をもっているのですが,それはさておき,法律でこういう制度を設ける以上は,その趣旨に沿った解釈が求められるのであり,そうした観点から,労働者の意思表示の有無を厳格に解釈するこの判決には違和感をおぼえたのです。この事件には控訴審判決(名古屋高判2021年1012日)が出ていたのです(「キーワード」の執筆時には,控訴審判決のことは知りませんでした)が,それは地裁判決の結論を維持したものでした。裁判所は,40条の6のような規定は,立法論的に望ましくないものであり,解釈論としても,直接雇用の成立要件を厳格に解して,同条があまり強いインパクトをもたないようにしたとみることもできるかもしれません。ただ,労働者側からみると,前述のように偽装請負の成否の判断が難しいために,承諾期間(「当該労働契約の申込みに係る同項[40条の61項]に規定する行為が終了した日から1年を経過する日までの間」)の1年の起算点も不明確になるのであり,しかも承諾の方式について明文の規定がない以上,労働組合に直接雇用のことを任せていた労働者の行動をネガティブに評価することは,労働者にやや酷な気がします。
 派遣先に偽装請負などに関して説明義務があったとまでいうのは行き過ぎであり,その点では判旨相当ですが,曖昧な規範に翻弄される労使双方の状況をみると,この規定はそれ自体に根本的に問題があるという気がします。
 偽装請負などの違法派遣があれば,派遣先と直接雇用が成立するという立法政策は,前述のように私は反対ではありますが,それを導入する政策的立場があることまでは否定しません。ただ,そうした政策的立場を立法化する以上,きちんとその制度を前提に当事者が行動できるようにし,裁判をしても不意打ち的な結果が出てこないような制度にしなければなりません。そういうことをせず,しかも日本貨物検数協会(日興サービス)事件のように不明確な規範の影響が労働者側にネガティブに出てくるとなると,いったい何のための法改正であったのかということになります。
 企業側は「法適用の潜脱目的」や「善意無過失」の免責によって,不明確な規範の弊害をある程度緩和することができるようではありますが,「法適用の潜脱目的」や「善意無過失」自体が明確な概念ではありません。実際に,偽装請負とされたときにも,なおこの概念によって制裁を免れることができるかは,裁判をしてみなければわからないでしょう。一方,労働者側は,承諾の要件や承諾期間についての規定が曖昧で(そもそも労働者の承諾期間の制限ということが正面から規定される内容になっておらず,みなし申込みの拘束期間が1年という定めが同条2項および3項で定められているにすぎません),あとは裁判所にしかるべく解釈してもらえばよいということになっています。以上のことは,裁判法学的労働法の欠点そのものなのです(前掲・拙著の序章も参照)。こういう欠点は,40条の6の政策的・理論的問題を論じるより前に,労使双方のウィン・ウィンを目指す人事労働法の観点からして,容認しがたいものです。
 以上のような問題意識を共有してもらえる研究者や実務家が増えればいいのですが。

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