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2022年3月18日 (金)

会社員になりたい子どもたち

  第一生命保険の(「第32回大人になったらなりたいもの調査結果」)によると, 小学生,中学生,高校生のいずれにおいても,将来なりたいものは,男女を問わず「会社員」 が1位でした(例外は小学生の女子で,それでも「会社員」は4位でした)。『会社員が消える―働き方の未来図』(文春新書)という本を書いている私としては, 頭を抱えてしまいそうな結果であり,子供たちはほんとうに大丈夫かと,思わず言ってしまいそうです。しかし,この調査結果に付されている的場康子さん(第一生命経済研究所・ライフデザイン研究部・主席研究員)のコメントをみると,その考えは変わりました。
 的場さんは,「会社員」の人気が高いことの背景について,「コロナ禍で在宅勤務が広がり,親の働く姿を身近にみるようになったこともあると思います。親の背中を見て,自分も『会社員』として頑張ろうと,子どもながら現実的に考えているのかもしれません。でもそれだけではなく、自分の可能性を広く考えているとの見方もできるのではないでしょうか。AI(人工知能)やロボットなど技術革新が進み,子どもたちが大人になるころには,今は想像できないような会社が創られ,新しい職業も生まれる可能性があります。そのような社会の変化を敏感に感じて,子どもたちなりに新しい『会社員像』を思い描いているのかもしれません」。
 コロナ前であれば,親の会社員としての働き方を,子供たちが直接目にすることはほとんどなかったでしょう。家で見るのは疲れて帰ってくる両親であり,子どもにとっては自分たちの生活が,親の都合,そしてそれは通常は会社の都合によって左右されていたのです。「仕事だから」というと,あらゆることに優先されてしまい,子どもたちは自分の希望が言えなくなってしまっていたことでしょう。ところがコロナにより,テレワークが増えて,自宅で働く両親の姿を直接目にすることによって,会社員としての親の働き方への評価も変わったのかもしれません。あるいは,テレワークという働き方であれば,自分の生活がそれほど犠牲にならないとわかって,それならやってみたいと思ったのかもしれません。つまり「会社員」が1位になったのは,伝統的な働き方をしている会社員ではなく,ワーク・ライフ・バランスを両立できているテレワークをしている会社員なのでしょう。そうだとすると,彼ら,彼女らは,将来「テレワークができないような会社員にはならないよ」ということになるかもしれません。
 もう一つ,後半のコメントも示唆的です。 私が「会社員が消える」と言っているのは,典型的には大企業で雇用されている労働者がいなくなるということであり, 自分で独立して働くフリーワーカーが増えていくと予想しています。 こうしたフリーワーカーには, 自ら起業して会社をたちあげる人も含まれます。DX時代のこれからは, 雇用されて働くというスタイルは廃れていくことになります(詳細は拙著を読んでください)。子供たちがなりたいと思っている会社員とは,決して従来型の企業に雇われて指揮命令を受けてガッツリ働く会社員ではないのでしょう。会社は,あくまで自らが知的創造性を発揮して働く場を提供してくれる存在にすぎないのであり,そうした会社で働くことを前提とした会社員なのです。そうだとすると私が考えていることと,まったく同じとなります。子どもたちが,ほんとうに,このような展望をしっかりもって将来になりたいもののことを考えているならば,日本の未来は明るいと思います。
 会社員を希望する者が多いということだけが見出しにでてくると,おそらく大きな誤解が生じてしまいそうな調査結果です。その意味で的場さんの解説は非常に重要だと思いました。

 

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