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2022年3月 6日 (日)

森ます美・浅倉むつ子編著『同一価値労働同一賃金の実現』

 森ます美・浅倉むつ子編著『同一価値労働同一賃金の実現―公平な賃金制度とプロアクティブモデルをめざして』(勁草書房)をいただきました。どうもありがとうございました。「同一労働同一賃金によって格差はなくならない」というサブタイトルのついた書籍『非正社員改革』(中央経済社)を刊行している私にとっては,気になるタイトルの本ではありましたが,私の議論とはほとんど接点はなさそうでした。本書は,同一(価値)労働同一賃金について,男女差別の問題と正社員・非正社員(正規・非正規労働者)との格差問題を合わせて論じようとしています。職務評価を公正におこなって同一価値労働同一賃金を実現することを目指すという点で統合できるということでしょう。ただ,本書は,正社員間の格差はターゲットとしていないようであり,同一(価値)労働同一賃金論を,賃金理論として純化させるためには,すべての労働者を対象としなければならないのではないかという疑問は残ります。
 ただ本書が,プロアクティブなアプローチを指向し,労働法の履行確保という観点から,企業側の作為義務に着目している点は,私の問題関心と合致するところがあります(本書がカナダ法をいささか強引に比較法の対象としたように思えるのは,同法にみられるプロアクティブモデルというものを提示したかったからでしょう)。ところで拙著『人事労働法』でも,従来の裁判法学的労働法への批判として,労働者に権利を付与してそれを司法的プロセスで実現していても労働者の利益を守る手段としては不十分で,むしろいかにして企業が義務を履行できるかという仕組みを考えなければならないと主張しているので,実はプロアクティブな発想なのです(前にこのブログで巴機械サービス事件・横浜地判2021・3・23を採り上げたときに,裁判をとおした男女差別の是正の限界ということを指摘したのも,この観点からです)。ただし,どのように企業に義務を履行させるかというところには,企業へのインセンティブも必要で,その点で私は行為規範の明確化が重要だとしています。この点は本書の立場とは異なっているように思います。私見の詳細は,拙著を読んでもらいたいですが,いずれにせよ近時の労働法の履行確保論において,いかにして企業を動かすかという「義務」に着目する議論はまだ少数だと思います。今後,行動経済学の知見も参考にしながら,この分野での議論を深めていきたいです(法律時報の最新号の坂井岳夫論文も参照してください)。
 なお,プロアクティブな規制手法という点で共通するとはいえ,人事労働法の提案は,本書とはまったく異なっています。これは実体法についての考え方の違いからくるものです。実体法の面での差別についてどう考えるべきかは,これはまた別の論点として深く論じる必要があります。私は,差別は何かにこだわるより,差別なき人事とは,企業が男女や雇用形態の違いに関係ない共通の就業規則を正当な手続をとおして設けて,それを納得規範を遵守しながら適正に適用していくことであるという立場にあります(『人事労働法』59頁以下を参照)。

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