« 棋士の引退 | トップページ | 人類の愚かさを嘆く »

2022年3月 2日 (水)

道幸哲也他編著『社会法のなかの自立と連帯』

 道幸哲也・加藤智章・國武英生・淺野高宏・片桐由喜編著『社会法のなかの自立と連帯』(旬報社。以下,本書)をいただきました。どうもありがとうございました。帯にあるように「28名の第一線の研究者と実務家」が,労働法や社会保障法に関する「個別テーマを取り上げ,問題意識を前面に出した議論を展開」したものです。北海道大学社会法研究会50周年記念という意味もあるようですが,この研究会は最後に収録されている座談会をみても,まさに道幸研究会のようなもので,本書は偉大な道幸先生の学恩に捧げる論文集というところでしょう。それにしても,社会保障法の研究者も含むこれだけの陣容を抱えながら,うまく道幸先生から國武さんに代変わりが進んでいて,東京から来た池田悠さんなどともうまくfusionしているようで北海道大学社会法研究会は,ますます発展していきそうですね。全国にいくつかこうした大学を基盤とした研究会がありますが,この研究会は最も繁栄しているものの一つだと思います。
 本書は,労働法と社会保障法の両分野にまたがっていますが,前者でいうと,労使自治,正社員・非正社員の格差,差別,就業規則,労働者性,労働時間,育児休業,倒産関連など広範なテーマが論じられています。なかでも小宮文人「解雇の金銭救済立法を考える―不当な雇用終了全般を視野に」では,雇用終了に関する研究の第一人者である小宮先生から,私たちの提案した金銭解決制度(大内伸哉・川口大司編著『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(2018年,有斐閣)を正面から取り上げ,論評をいただいています。批判も含まれていますが,有り難く思っています。
 本書は全般的に,やや細かいテーマのものが多いという印象で,また結論については,その次にどういうことになるかを知りたいと思わせるタイプの論文が多かったように思いますが,もともと道幸先生がそういうスタイルの論文を好まれる感じなので,これが北大シューレの学風なのかもしれません。
 ところで,本書の掲載論文のなかでやや気になったのが,本久洋一さんの「労働者概念の相対性について―橋本陽子『労働者の基本概念』に学ぶ―」です。橋本書への根本的な批判が書かれています。本久さんが分析しているように,Wank理論(目的論的アプローチに基づき,「事業者のリスクの自発的な引き受け」の有無で事業者と労働者を区別するという消極的な労働者定義)は, Wankを賛美する橋本さんにおいても日本法の解釈に取り入れることができなかったのですが,その理由がどこにあるのかが重要な点だと思います。橋本書は「学ぶ」に値する大著ですが,それゆえ厳しい批判にさらされることも,また避けられない運命にあります(日本労働研究雑誌734号の岩永昌晃さんの書評も参照)。橋本書をきっかけに,労働者概念が今後どう展開されていくのかが楽しみです(私はこの議論には,前にも書いたように,正面からはもう参戦しないつもりです)。なお,本書に掲載されている島田陽一先生の「専門職者の労働者性判断基準の検討」も,労働者性の判断基準について具体的な提言をされています。

 

« 棋士の引退 | トップページ | 人類の愚かさを嘆く »

読書ノート」カテゴリの記事

労働法」カテゴリの記事