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2022年3月 5日 (土)

「わが名はキケロ ナチス最悪のスパイ」

 実話に基づく映画だそうです。トルコ映画です。文字も言葉もトルコ語の部分はまったくわかりませんが,面白かったです。アルバニア出身のイリアス・バズナは,コソボでの虐殺で,両親も弟も殺されてしまいました。弟は知的障害者でした。彼は何とか生き残り,虐殺者たち(セルビア人)の小間使いとして働かされていました。あるとき,彼が手引きをして,仲間に虐殺者たちを襲撃させ,復讐をとげます。彼の幼少時代です。それから画面が変わって,彼はアンカラのユーゴスラヴィアの大使館の職員として働いていますが,あるパーティで彼は得意の美声でカンツォーネを歌っていました(イタリアのオペラです)。その声に惹かれたイギリス大使館から執事になるよう誘われます。大使の厚い信頼を得た彼は,大使に睡眠薬を飲ませることができ,極秘情報を奪ってドイツ大使館のモイズイッシュに流します。当初は,そこから流される情報に懐疑的であったヒトラーも,連合軍のブルガリア爆撃の事前情報が正しかったことを知り,イリアスをドイツの正式なスパイとして活用することにします。イリアスは「キケロ」というコードネームで呼ばれました。イリアスは,モイズイッシュの秘書として働くコルネリアと偶然(?)出会います。彼女は知的障害者である長男アグストを育てるシングルマザーでした。イリアスは自分の弟を思い出したのでしょう。アグストに優しく接し,息子を溺愛するコルネリアとも親密になります。
 ドイツは悪名高い「T4作戦」を実行しようとしているところであり,モイズイッシュは,コルネリアにも家族情報を出すよう求めましたが,コルネリアは隠そうとしていました。しかし,それがバレてしまい,このままではアグストはブルガリアに送られて殺されてしまいます。モイズイッシュは,息子を守ることと引き換えに,コルネリアと強引に関係を結びます。しかしモイズイッシュに嫌悪感をいだくコルネリアは,息子を守るためにスイスに脱出しようと考え,イギリス大使館にパスポートの発給を求めます。その条件として,偶然耳にしたキケロという名のスパイから,イギリスの情報がドイツに漏れていることを伝えます。しかしコルネリアは,キケロがイリアスであるということは知りませんでした。
 コルネリアの机をみて,イリアスとの関係を知ったモイズイッシュは,コルネリアとアグストをとらえて人質にし,イリアスに連合国軍の上陸に関するオーバーロード作戦の情報を盗むよう求めます。イリアスはその情報と引き換えに,コルネリアを奪還しますが,アグストはすでに収容所に送られていました。イリアスとコルネリアは収容所になんとかかけつけ,ガス室での間一髪のところで,アグストは助け出されました。このシーンは泣けてきますし,ドイツの「T4作戦」の狂気に背筋が寒くなります。
 ところがイリアスは,実は偽情報を伝えていました。ナチスにとって致命的なことでした。モイズイッシュは処刑されました。
 映画の最後に真相が明かされました。イリアスは,建国されたばかりのトルコ共和国が戦争に巻き込まれないように,建国の父であるアタチュルク(?)から諜報活動に従事する任務を与えられていました(オスマントルコは,第1次世界大戦にドイツ側に参戦して敗北して滅亡していました)。当初からヒトラーを危険視していました。結局,トルコは,イギリスからも,ドイツからも,戦争への参加を求められるなかで中立を守りとおします。イリアスのスパイ活動が,大きく寄与したのです。トルコの現代史を考えるうえで,中立を守ったことは,大きな意味をもったのではないかと思います。
 とても面白い映画でした。登場人物は実在の者ですが,どこまで史実に忠実であったかはわからないものの,第2次世界大戦をトルコ側からみるというのも,世界史を知るうえでは大切だなと思いました。一見の価値はある映画です(イリアス役の俳優は,最初は冴えない感じなのですが,徐々に魅力的になっていきますし,コルネリアは文句なしの美女であり,この二人のロマンスも映画の魅力を引き立てています)。

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