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2022年2月21日 (月)

労働者情報保護法の必要性?

 最近では,労働法においてもガイドライン(あるいは指針)が使われることが多く,ガイドラインをみることも,法律の勉強をする際に必要となりつつあります。とくに法律において大臣の指針策定権限を規定し,指針の法的根拠が明確になっているものは,重要性が高いといえるでしょう(短時間有期雇用法15条に基づく指針など)。もちろん,指針の内容は司法を拘束するものではありませんが,そこでは行政の解釈が前提となっており,とくに新しく制定された法律においては,立法趣旨(実際の立法担当者は,労働法規でいえば多くの場合,国会ではなく,厚生労働省といってよいでしょう)は行政が示した指針で具体的に示されているとみることができるので,事実上,大きな影響力があるといえます(なお,菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂)275頁では,男女雇用機会均等法の指針について,「専門的行政機関が専門家の研究会の検討と関係審議会の審議を経て提示したものであり,客観的に妥当な法解釈として裁判所によって是認される可能性が大きい」とされています)。
 ところで,一昨日のこのブログで,個人情報法保護法19条(不適正な利用の禁止規定。条文は2022年4月施行後のもの。以下も同じ)の「不当」概念の不明確性にふれましたが,この点についてもガイドラインで一定の明確化が図られています。例えば,19条に抵触する例としてガイドラインが挙げているものに「採用選考を通じて個人情報を取得した事業者が,性別,国籍等の特定の属性のみにより,正当な理由なく本人に対する違法な差別的取扱いを行うために,個人情報を利用する場合」があります。言わんとする気持ちはわかりますが,「正当な理由」(不当でないこと)と「違法」が概念として混在していて,わかりにくい気がします。違法な差別であれば,正当な理由があってもダメなわけで,差別があっても正当な理由があれば違法ではありません……。これは揚げ足をとるような指摘で大して重要ではないのですが,いずれにせよ,研究者は,ガイドラインや指針について,たんに実務上の運用ルールや行政機関の公式見解を知るということで満足せず,もっとその妥当性も含めて批判的な目を向けて分析対象とする必要があるのかもしれません(ちなみに,短時間有期雇用法15条に基づく指針については,その原案のときから私は批判的です)。
 ところで個人情報保護法のガイドラインにおける性別による差別の例でいうと,差別は法律で禁止されており(男女雇用機会均等法5条,6条),個人の性情報を利用しない性差別というのは考えにくいので,性差別と性情報の差別的利用は一体のように思えます。この場合,実はより重要な問題は,差別につながるような個人情報を,そもそも取得してよいのかということです。個人情報保護法は,事前の同意が必要な要配慮個人情報を除くと,情報取得のところの規制が比較的緩やかで(20条),利用のところに重点をおいた規制をしているように思えますが,労働法の立場からはこれでは不十分な可能性もあります(加えて,要配慮個人情報の取得などにおいて,同意があればよいという点も,その同意がどういうものでなければならないかについては,労働法的な観点からの固有の議論ができます)。個人情報保護法は,デジタル社会の基盤となる重要な法律ですが,労働関係については,職安法上の規定や指針をはじめとして,労働法規に点在している関連規定を包括的に扱う一つの法分野として,労働法独自の考察を加えていく必要があるかもしれません。そこで労働者情報保護法という分野の創設を提唱したいです。いまのところ,この分野では,弁護士の松尾剛行さんの『AI・HRテック対応 人事労務管理の法律問題』(2019年,弘文堂)が最良のテキストでしょう。

 

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