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2022年2月18日 (金)

違法と不当

 改正個人情報保護法の19条は,「個人情報取扱事業者は,違法又は不当な行為を助長し,又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない」とさだめています(41日施行で,現時点では16条の2)。「違法」はわかるとして,「不当」とは何かというのは,気になるところでしょう。通常は,「不当」とは「違法」ではないけれど,法の目的に照らして適切でないことを指す,というような説明がなされます。行政不服審査法の冒頭(11項)にも,「行政庁の違法又は不当な処分」という言葉が出てきます。個人情報保護法のガイドライン(通則編)では,上記の規定の文言について「直ちに違法とはいえないものの,法(個人情報の保護に関する法律)その他の法令の制度趣旨又は公序良俗に反する等,社会通念上適正とは認められない行為をいう」という解釈が示されています。
 概念的には「違法」と「不当」は違うのですが,一般の人にとってみれば,あまり区別に意味があるものではありませんし,より重要なのは「不当」とは具体的にどういう場合を指すのかが明確でないことです。個人情報の保護自体が歴史があるものではありませんし,社会通念上の適正さは現在揺れ動いているようにも思います。
 解雇についても,違法解雇と不当解雇を分けて議論することがあります。違法解雇とは,法律の明文で禁止されている解雇です。例えば,育児休業を取得したことを理由とする解雇は,法律で禁止されています(育児介護休業法10条)ので,違法解雇です。一方,解雇に客観的合理的理由がなく,社会通念上相当と是認できない場合,つまり権利濫用の場合は,形式的には労働契約法16条に反するという言い方もできますけれども,実質的には一般的な権利濫用法理に照らして無効になるということなので不当解雇と分類できます。ただ,法律の具体的な内容の規定によらないので,どのような場合に不当解雇となるかが明確でないということが,解雇法理の予想可能性の欠如といった問題を引き起こすことになります。労働法上は,不当労働行為という言葉もありますが,これは「不当」という言葉がややミスリーディングであり(アメリカのunfair labor practice unfair の訳語)ますが,いずれにせよ,その内容については,労組法7条に規定があり,さらに具体的な内容について膨大な判例や命令例により,かなり明確にされてきています。しかし個人情報保護法での「不当」は,どういうものであるかは,法律では定義しないということで(裁判所や行政に任せる),規制の名宛人となる当事者は,何をしてはならないかがわからず困惑することになるでしょう。とくに個人情報というのは,どのように利用してゆくべきかという基本的な方向性が法律上必ずしも明確ではなく,十分な社会的コンセンサスもありません(前述のように社会通念も揺れ動いています)。具体的に言うと,個人情報はできるだけ利活用したほうがよく,ただプライバシーを侵害するような場合だけは規制に服せしめるべきであるという立場が一つの極にあれば,いやそうではなく個人情報というのはそれ自身個人がしっかりコントロールすべきであり,かつそうできるものであって,他方,個人でコントロールしきれないものはしっかりと政府がパターナリスティックに保護すべきであって,その利用をとりわけ営利目的等で行う場合については厳しく規制しなければならないという立場も,もう一方の極にあるように思います。このどちらの立場に立つか(あるいはその中間的な立場もあると思いますけれども)によって,「不当」という概念の内容も変わってくるように思います(たとえばプロファイリングのように,既存情報から推知することも19条に抵触する利用と考えるかなど)。
 「違法又は不当」という概念の使い分けは法律家的には違和感がないものですが,実際にこの規定をふまえて行動しようとする人にとっては「不当とはなんぞや」ということになるわけで,こういう行為規範を意識した法律論というのを我々はもっとやっていかなければならないというのが『人事労働法』(弘文堂)を執筆したときの問題意識です。

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