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2022年2月10日 (木)

デジタルクローン

 インターネット白書編集委員会の『インターネット白書2022』が刊行されました。私もテレワーク関係で,昨年に続き執筆しています。拙稿はともかく,この白書は,これからDX時代がどういうものとなるかを知るうえでの役立つ教材になると思います。今回の白書は,次の10のキーワードから構成されています。
 それが,NFTnon-fungible token:非代替性トークン),XR(クロスリアリティ)/メタバース,デジタルツイン,オンライン診療,改正プロバイダー責任制限法,フェイクニュース,デジタル社会形成基本法,DFFTdata free flow with trust:信頼性のある自由なデータ流通),宇宙インターネット,グリーン by デジタルです。
  Web3.0という言葉もありますが,インターネット上の世界が,リアル世界と融合することが本格的に起きようとしています。私の分野でいえば,この技術が,どこまで労働の世界に及んでくるかが注目されます。とくにデジタルツインが気になります。この言葉が出てきてから,もうかなり経ちますが,工場のスマート化の手段として使われてきたものが,いまや人間のデジタルツイン(デジタルクローン)の実用化の段階になってきています。デジタルヒューマンという言葉もありますが,おいしい料理のつくり方とか,薬の飲み方についての相談とか,特定の分野でのデジタルヒューマンは実用化されていて,専門家に相談しているような感じで,しかも相手はほんとうの人間ではないのに感情がある感じで,今後は私たちはこういうものに頼ることになるのだろうと思います。
 すでにNTT関連のシンクタンク(情報通信総合研究所)でも,DTCDigital Twin Computing)の研究が進められており,私も1年ほど前に少しだけ参加しました。この技術が実用化されると,労働の世界にどんな変化や影響が生じるのかは,想像するだけでワクワクします。かなり前に,このブログでも,美空ひばりのデジタルクローンのことを紹介しましたが,将来的には,私のクローンが授業や講演をして質問にも応答するといったことになるかもしれません。ちょうど1月はじめにどこかのテレビ番組で,橋下徹さんのデジタルクローンが出ていましたが,外見もさることながら,応答内容もそれなりのもので,驚きました。
 デジタルクローンの法律問題というと,例えば,その労働の成果をめぐる知的財産法上の問題というのがまず出てきますし,またデジタルクローンでは,開発会社は本人の個人情報を使うでしょうから,個人情報保護法も関係するでしょう。クローンが不法行為をした場合の責任主体はどうなるのか,といったことも問題となります。クローンの開発を許可したとき,そのクローンの利用については,おそらく個人と開発会社で契約が結ばれ,その内容如何で,クローンの対外的な行為についての責任も決まっていくでしょうが,その契約については,通常は技術面において大きな情報の非対称性があるので,法的なルールは必要となるでしょうね。また,今後,デジタル環境でできる仕事について,労働者が,クローンにやらせる場合,民法6252項により,使用者の承諾が必要なのか,それともクローンは本人と一体なので,承諾は不要なのか,といったことも気になります。あるいはクローンは,自分とは別の法人格をもつ「ヒト」として擬人化していく立法もありえるでしょうし,単なる道具(モノ)とみる考え方もあるかもしれません。クローンを擬人化すると,そのしでかした不祥事は,民法715条で本人が使用者責任を負うなんてことになるのかもしれません。またこれとは別に,一般のAI代替と共通の論点として,デジタルクローンが広がると,雇用が減る可能性があります。単純にいうと,優秀な人材が2倍あるいはそれ以上になる(24時間稼働するので,労働できる時間が長くなる)ということですから。
 以上はまだ序の口であり,今後次々と問題が現れるでしょう。リアル空間と融合するデジタル空間で,アバターというデジタル分身にとどまらず,自分のクローンが出てきてしまうというのですから,根本的に思考方法を変えてしまわなければ,ついていけないかもしれません。デジタル労働法の守備範囲についても,最終的には,デジタルクローンにまで視野を広げていかなければならないのでしょうね。こういうことも,大秀才の人のデジタルクローンがいれば解決してくれるのかもしれませんが。

 

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