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2022年2月 1日 (火)

偽装請負と労働者派遣法40条の6

 昨年114日に出た東リ事件の大阪高裁判決は,裁判例上はじめて労働者派遣法40条の6に基づく派遣先による労働契約申込みみなしによる直接雇用の成立を認めたものとして注目されています。「偽装請負」の事案で,派遣先に法適用潜脱の目的があったと認定され,また善意無過失の抗弁も認められず,さらに従前の労働契約の期間が無期であったと認定されて,派遣先でも無期労働契約が成立するとされました。2012年の労働者派遣法の改正の際に,採用の自由を真っ向から否定するようなこの制度が割とすんなり導入されたのは,労働者派遣法40条の61項柱書は,違法行為の「時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす」となっており,偽装請負のケースの多くでは従前の労働条件は有期と考えられるので,直接労働契約が成立したとしてもそれほど大きな影響がないと経営側は高をくくっていたからかもしれません。しかし本件のように無期労働契約と認定されますと,この規定は大きな影響を与えることになるでしょう。兵庫県労働委員会にかかっていた紛争でもあるので,判決に対するコメントは控えますが,理論的にも実務的にも注目度が大きい判決だと思います(今月の神戸労働法研究会でも,検討してもらう予定です)。
 ところで,このような紛争をとおして思うのは,偽装請負の判断の難しさです。この難しさについては,これまでもわかっていたことですが,本件のように1審と控訴審とで判断が分かれるとなると,法的安定性という点では改善が必要ではないかと思います。労働局は労働者からにせよ,経営者側からにせよ,相談を受けた場合には,できるだけ速やかに判断を示すことが望まれるでしょう。労働者派遣法40条の8は,厚生労働大臣による助言を定めており,菅野和夫先生の見解では,この助言内容は,善意無過失の判断に影響するのです(『労働法(第12版)』(2019年,弘文堂)412頁)が,立法論としては,この助言手続を偽装請負かどうかの事前手続としてフォーマル化し,裁判所を拘束するようなものとすればどうかと思います。
 これまでの裁判例は,労働者派遣と請負の区分について行政の出している告示基準(労働省告示昭和6137号,厚生労働省告示平成24518号)を参照しているものの,その基準の解釈は困難なものなので,客観的に労働者派遣法に違反する請負がなされていたからというだけで,派遣先に法適用潜脱目的があるとするのは公平ではないという判断になっています。こうした処理はバランスのとれたものと評価されがちで,基準が曖昧でも何とか妥当な結論が得られるからそれでよしとするのが「裁判法学的労働法」の発想ですが,事業者側からすると,東リ事件・高裁判決のような判決が飛び出す可能性もあるので,危なくて業務請負の発注はできないということになりかねません。それでよいという考え方もあるのでしょうが,それはいささか乱暴でしょう。人事労働法的には,適法な請負の基準を設ける以上,それを実際に守らせなければ意味がなく,そのためには行為規範としての明確性を高める必要があるという発想になり,それを徹底すれば,事前の認証手続を導入すべきだというところに行き着きます(拙著『人事労働法』88頁を参照。裁判法学的労働法への批判については,同書序文を参照してください)。
 こうした立法論はともかく,労働契約申込みみなし制については,次号の「キーワードからみた労働法」で採り上げて解説する予定です。

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