« 昭和ホールディングスほか2社事件 | トップページ | 「悪人」 »

2022年1月28日 (金)

Gran Torino

  吉田拓郎の大ヒットアルバム「元気です」のなかに,「加川良の手紙」という曲があります(加川良の「教訓Ⅰ」は名曲です)。その歌詞のなかに,「あの日の映画"ダーティ・ハリー"はどうでした 君はニュースの方が楽しそうだったけれど クリント・イーストウッドっていいでしょう」というのが出てきます。クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)の名前はもちろん知っていますが,有名なダーティハリー(Dirty Harry)を実は観たことがなく,また彼の映画を観たことはあるはずなのですが,何も記憶に残っていませんでした。そんななか,JT関連の研究機関が出している「TASC Monthly」という雑誌(二度,私も寄稿したことがあります)に野村正昭さんが書いている「映画と嗜好品 食して,ふかして,飲みほして」というエッセイ(毎回,楽しみにしています)があり,最新号で「Gran Torino(グラン・トリノ)」というEastwoodが監督・主演した映画のことが採り上げられていたので,Amazon Primeで観てみました。
 Fordの自動車工を定年退職し,妻を亡くして一人で暮らしているポーランド移民のWalt Kowalski(Clint Eastwoodが演じる)は,日本車を嫌い,黒人や黄色人種を蔑視する差別主義者ですが,それだけでなく家族との折り合いも悪く,とくに長男の嫁や孫娘に毛嫌いされています。そんな現在は一人住まいの彼の隣人は,アジア系のモン族の人たちです。そこに住んでいるThaoという男の子が,従兄弟の不良グループに無理矢理仲間にさせられてWaltの愛車であるGran Torinoを盗もうとして失敗します。そのため,Waltはますます隣人に不信感を募らせ,とくにThaoのことを馬鹿にします。こうした険悪な隣人関係なのですが(日本のように壁があるわけではないので,空間的に遮られているわけではありません),Waltのビールと乾き物ばかりの食生活とは違う,モン族の豊かな食事にひきつけられたことをきっかけに交流が始まります。またThaoも,償いのためにということで,無償でWaltの命じる雑用をし始めます。Waltは,そんなThaoのまじめさを次第に評価して,建設業の仕事を紹介したりもします。ところが,あるとき,Thaoは不良グループから抜けたことを責められて,ひどいケガをさせられます。怒ったWaltは,不良グループの一人を襲ってケガをさせます。ところがその復讐でWaltThaoの家に銃弾が撃ち込まれ,またThaoの姉が誘拐されレイプされてしまいます。Waltは冷静に復讐の計画を練ります。何度も喀血することから,おそらく余命が長くないと考えたのでしょうか,自分の命をさしだすのです。Waltの遺言状には,Gran Torinoは,それを欲しがっていた孫娘ではなく,Thaoに譲ると書かれていました。
 Waltは,朝鮮戦争に出兵して,無辜の人を多数殺してしまったという罪悪感を抱えていました。彼にとっての闇は深く,教会での懺悔でも,それは口にしませんでした(亡妻から懺悔をするように求められていました)。Waltのアジア人に対する思いはアンビバレントなものだったのかもしれません。しかもモン族は,ヴェトナム戦争でアメリカのために貢献したけれど,戦後,本国から迫害されたためにアメリカに逃げて来た人たちであり,アメリカにとっては恩人といえるアジア人だったのです。周りの米国人は,黒人も,自分の家族の白人でさえも,人間的にもの足りないものを感じていたWaltは,(自身も実は同じ移民である)そんなモン族の人々に,大切なものを教わり,心の安らぎの場をみつけたのかもしれません。
 上述の命を差し出すシーンでは,Waltは,タバコを吸うために,ライターを取り出そうとしたのですが,その仕草は拳銃を取り出すように誤解させるものであり,そう誘って不良たちに自分を撃たせました。Waltは丸腰であったので,射撃した者は長期刑になることが予想されました。これがWaltの復讐でした。
 タバコがこのシーンだけでなく,ときどき出てくるのですが,エンドロールの最後に,次の言葉が出ていました。

  No person or entity associated with this film received payment or anything of value or entered into any agreement in connection with the depiction of tobacco products. 

 要するに,タバコ製品の描写に関して,誰もお金をもらっていない,ということです。純粋な芸術的な必要性でタバコが使われているにすぎないと言っているのです。野村さんは,実はEastwood は,タバコ嫌いでしたが,「こうした表記自体が,イーストウッド作品には珍しく,彼がいかに煙草に対してナーバスになっているかも推測できる」とコメントしています。
 タバコ嫌いの私ですが,JT系とはいえ,この雑誌は,掲載されている論考(AI関係が多い)のクオリティの高さと,タバコに対するニュートラルな姿勢の野村さんのエッセイが掲載されているところなどがが気に入っています。

« 昭和ホールディングスほか2社事件 | トップページ | 「悪人」 »

映画・テレビ」カテゴリの記事