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2022年1月27日 (木)

昭和ホールディングスほか2社事件

 今週の大学院(研究者コース)の授業では,昭和ホールディングスほか2社事件(東京地方裁判所2021324日判決)をとりあげました。団交拒否事件で,親子会社の類型における完全親会社の使用者性,親会社と子会社(2社)の誠実交渉義務,および労働委員会の救済命令の裁量が問題となったもので,典型的な論点についての判断を示しているのですが,気になる部分もありました。とくに都労委,中労委,地裁と微妙に判断が違っているところが興味深いです。
 使用者性の判断については,東京地裁は,いつものように朝日放送事件・最高裁判決(拙著『最新重要判例200労働法(第7版)』(弘文堂)の179事件)の判断枠組みを援用し,これが親子会社の事案の親会社の使用者性の判断にも適用できることを確認したうえで,本件の親会社は経営について相当程度の支配力をもっているものの,経営戦略的な観点から行う管理や監督の域を越えて,子会社の従業員の労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実かつ具体的かつ具体的に支配,決定していたとはいえないとして,その使用者性を否定しました。子会社は独立した存在で,子会社だけで人事労務委員会をつくり親会社とは独立した人事管理をしていたことなども考慮されました。株主としての支配力だけでは使用者性は根拠づけられず,集団的な「労使」関係の当事者としての実態が求められるということでしょう。この点は,都労委の段階から使用者性が否定されていて,結論は変わっていません。
 この事件では,子会社の工場があった土地を親会社が所有して子会社に賃貸していたところ,この土地を親会社が売却したことから,「土地譲渡にともなう雇用問題」などについて,子会社の従業員で組織された労働組合が,団体交渉を子会社だけでなく親会社にも申し込んでいました。土地売却に関係する事柄であるので,親会社こそが団体交渉に応じる主体としてふさわしいという組合側の主張については,東京地裁は「団交のテーマそのものから直ちに使用者性が判断されることになるものでもない」と述べています。この判断は,個々の団交事項ごとに使用者性の判断をしていこうとする学説や裁判例があるなか,そうではなく使用者性は義務的団交事項の判断よりも前に決定される先決事項であるとする私の立場と親和的なものではないかと思っています。もっとも,そもそも土地売却それ自体は義務的団交事項ではありませんから,もともと組合側の主張には苦しいところがあります。
 この土地売却問題の義務的団交事項性について,都労委は否定したために,子会社との関係での不当労働行為も否定されました。都労委は,土地売却により組合員の労働条件が現実に変更されること,あるいは変更されることが見込まれることについて組合による疎明がなく,実際に本件土地売却により組合員の労働条件に何らかの影響があった事実も特に認められないので,この議題は,組合員の労働条件との関連が明らかであるとはいえず,義務的団交事項とはいえない,と判断したのです。ところが,中労委は,この点について,団交事項は,抽象的ではあるものの,「実質的に見て,雇用主であり,本件工場に係る事業の主体である子会社2社に対し,本件土地売却により本件工場等で勤務する従業員の処遇や勤務地等の労働条件等について何らかの影響があり得るのかについて,説明を求めたものと解することができる」とし,子会社は,「本件土地売却による当時の時点における組合員の勤務地,労働条件の影響の現実的可能性の有無,事業用定期借地権の法的性質等については,回答する必要があった」と判断しました。いわゆる経営事項については,それ自体は義務的団交事項ではありませんが,労働条件や雇用に関係する部分については義務的団交事項に該当すると解するのが通説ですが,同様に,親会社にのみ処分可能な事項(土地売却)であっても,それが子会社と密接に関係するものであれば(子会社の事業用地に関係する事項であるなど),労働条件や雇用に関係する部分については義務的団交事項に該当する,ということでしょう。この点は都労委より中労委の結論のほうが妥当だと思います。東京地裁も,団交事項は,本件土地売却にともなう子会社の従業員の処遇や勤務地等の労働条件等への影響の有無や程度について説明を求める趣旨であったと解釈し,このように土地売却自体は処分可能でないとしても,それに関する雇用の問題として,この事項が議題と解されるかぎり,処分ないし説明は可能であって,なお義務的団交事項に該当すると述べており,中労委と基本的には同様の立場であると考えられます。
 この事件では,最初の団交で,上記の事項について団交拒否され,その後,組合はさらに3回の交渉申入れをし,そのいずれも書面での簡単な回答だけで交渉拒否されています。事後の3回の交渉においては,雇用面についての議題は明示的には掲げられておらず,議題とされたものは親会社しか処分できない事項であり,子会社の義務的団交事項ではないので,中労委は,団交拒否は不当労働行為ではないと判断していました(都労委は,前述のように初回から不当労働行為でないと判断)。ところが,東京地裁は,初回の団交拒否があり,組合がきちんとした回答を得ていない以上,初回における要求事項は,第2回以降の団交の議題にも含まれているという解釈をして,事後3回の交渉でも,初回における義務的団交事項について団交拒否をしていると判断し,不当労働行為の成立を認めました。
 東京地裁は,「確かに,団交事項は,団交申入れの相手方である使用者が団交に応じる義務があるか否かを判断することを可能にするものであることを要するというべきところ,団交申入書に記載された団交事項は,労働組合が交渉を要求する事項の内容及び範囲を相手方にも明らかにするため記載されるものと解されるから,申入れに係る団交事項もその文言を基礎に判断されるべきである。 もっとも,団交申入書に記載された団交事項の意味内容を,団交申入書のその他の記載文言や団交申入れに至る経緯を踏まえて確定することが許されないものでもない。」としており,その内容自体は,異論はないものの,後半部分に示された基準に則して,どこまで団交事項の範囲を広げて解釈できるかが重要となります。団体交渉は使用者の「応諾」義務であることを考慮すると,不明確性があった場合には組合に不利に解釈されるべきであるようにも思いますが,本件では,会社側にとって団交事項になっていたとみても不意打ちにはならないような事情があったと判断できる余地がありそうです。中労委と東京地裁と,どちらの判断が妥当か微妙な事案ですが,そういう場合には,労働委員会に要件裁量はないものの,中労委の判断を尊重するという姿勢をもってもらえればなと,労働委員会関係者としては思ってしまいますね。
 結局,初回の団体交渉についてのみ不当労働行為と認める内容の文書交付を命じる救済命令を出していた中労委は一部取り消されました。東京地裁は全4回の団体交渉についても不当労働行為と認める内容の文書交付を命じるべきであったとしたのです。
 ところで,組合側は,救済命令としては,文書交付にとどまらず,団交応諾命令も出すようにと求めていました。この点は,東京地裁は労働委員会の裁量の範囲内であると言っています。団交拒否が認められたからといって機械的に団交応諾命令を出すべきではなく,中労委は,「現時点でこれを敢えて団交において再度説明することに意味があるとは言い難いこと,子会社2社は,本件以外の労働条件に係る団交には応じていることなど」を考慮して,文書交付にとどめていると判断し,東京地裁もこの点は受け入れました。また東京地裁は,中労委が,本件命令の確定に伴い,上記団交に応諾することを見込んで,「今後,このような行為を繰り返さないようにいたします。」という内容の文書交付でよいとしたとみています。ただ中労委は,そもそも初回の団交拒否のみを不当労働行為だとみていたし,義務的団交事項性も都労委との判断が分かれるほど微妙なところもあったことから,あえて団交命令を出す必要性に懐疑的であったことに加え,本件では,土地売却にともなう雇用問題について,組合には答えずに,従業員向けの説明でやっているところに,いわば組合の頭越しをするという組合否認がありました。実際,中労委は,支配介入の成立を認める判断のなかで,「労使関係が緊張状態にある中で,このように組合らからの団交申入れを拒むと同時に,あえて従業員宛てとしてその団交事項に係る内容について書面での回答を行うことは,殊更に組合らを無視し,組合員らやその他の従業員をして,その交渉力に疑問を抱しめ,組合を弱体化させるおそれがある対応というべきであり,このことは,子会社2社も十分に認識していたということができる」と判断しているので,この点こそ労使関係において看過できない問題であるとみていた可能性があります。そのため,この支配介入という点をふまえて,救済命令としては文書交付が適切と判断したのではないかと勝手に想像しています。

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