プライバシーポリシー
2年生相手の基礎科目(基礎法政論)は新年に入り,残りの授業は一人ずつ自由にプレゼンをしてもらうことになっています。初回は,Webサイトで掲載されている会社のプライバシーポリシーが読みにくく,私たちの個人情報を事業者相手に十分に守ることができないという問題関心をもった学生が,プライバシーマークのようなものを応用した第三者評価を活用すべきではないかという提言をするプレゼンをしてくれました。
学生は読みづらいプライバシーポリシーの例としてGoogleのものを挙げていました。オンライン授業なので,すぐに学生が画面に映してくれて,みんなで検討できました。これをみると,確かにきれいにつくられていますが,長大で動画まであり,これをどれだけの人がすべて読んでいるかははなだだ疑問です。でもプライバシーポリシーをきちんと読まなければ,私たちが個人情報を提供できるだけの信頼ある事業者かの判断はできません。
読みやすさを向上させる手段の一つとして簡素化が考えられます。例えば重要な情報だけアップすれば簡素化はできますが,必要な情報があるのに無理に簡素化すると,利用者の利益を損なう心配があります。情報のランク付けをする(重要な情報はフォントを大きくするなど)というアイデアもありますが,低ランクのものは読まないことになり,それでよいのかという問題もあります。
そこでプライバシーポリシーを検証して,ランク付けをしてくれる第三者機関があればよいということになるのですが,そういう機関は,政府系のところが多くて,ほんとうに市民目線で判断してくれるのだろうか,という不安があります。プライバシーマークのほうは,一般財団法人日本情報経済社会推進協会というところが評価して付与することになっています。民間での取組といえそうですが,経済産業省がしっかり関係していて,この協会の会長も経産事務次官経験者で,天下りポストのようでした。だから悪いということではないのですが,なんとなく政府色が強い点で,気持ちがよいものではありません。
自分では対処できないことは,信用できる他人に託すということはありうることで,実は情報銀行はそういうものなのですが,あまり普及していないような気がします。情報銀行が信用できるのかという問題はあるのですが,これにも認証制度があって,一般社団法人日本IT団体連盟というところが所管しています。ここの会長は,Yahooの川邊健太郎氏でした(現在は,Zホールディングス社長)。これは純粋に民間団体と考えてよいのでしょうね。
学生には,個人情報は重要だけれど,うまく活用されることは,自分にも社会にもプラスになりうるので,どのようにうまいシステムをつくっていけるかを考えてほしいというアドバイスをしました。官に頼るのは,権力と私的領域は対立関係にもなりうることは忘れてはならないし,だからといって,いたずらに権力と敵対してもダメで,権力をどう統制して国民のためになるようにしていくかが,民主主義社会における知恵の出しどころなのです。そこにデジタル時代ゆえの知恵も加味されるべきです。プライバシー侵害を,デジタル環境でのものに限定すると,プライバシー・バイ・デザインという発想は有用だと思います。プログラムの設計段階から,プライバシー対応仕様にするということです。
ところで1月17日の日本経済新聞の複眼「個人データ,活用と保護」では,このテーマに関係する論考が集まっていました。利用者の合意を必要としても,合意の強制になっているだけではないかという指摘は重要であり(ショシャナ・ズボフ氏),他方で,東京大学の宍戸常寿さんが言うように,「何でも同意を求めると『同意疲れ』にもつながる。データが生む価値とのバランスを考え、顧客と信頼関係を築きメリットを提供する企業は同意がなくてもデータが得られるといったルールを整備してはどうか。産業界も丁寧に説明し、適切な範囲で活用する体制づくりが急務だ。」という提言は,ほぼ我が意を得たりという感じです。
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