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2021年12月 5日 (日)

日本通運事件

 ビジネスガイドの「キーワードからみた労働法」の第164回のテーマで扱った「無期転換阻止目的の雇止め」について,そこで採り上げなかった裁判例を補足しておきたいと思います。それが日本通運事件・東京地方裁判所2020101日判決です。先日の大学院の授業で扱いました。結論としては雇止めが有効とされたのですが,会社側が無期転換を阻止する目的で,更新の上限条項を設けて,かつ,最後の方では不更新条項を挿入するという念の入った手順をとっていたケースでした。客観的にも,当該有期雇用の目的とされた業務がなくなるという事情がありました(特定企業からの受注の存在を前提とした有期雇用で,そのことは労働者側も認識していました)。本件では,労契法191号の実質無期型には該当せず,2号の更新期待の合理性が問題となりました。判決は一般論として,不更新条項が,山梨県民信用組合事件(最2小判2026218)の示した基準に照らして自由な意思によるものと判断されれば,更新期待の合理性を放棄したと認められるとしたうえで,本件では,自由意思は否定されました(管理職からの不更新条項の法的効果などの説明が不十分とされました)。しかし,その他の事情から更新期待の合理性は否定されて,いわゆる雇止め制限法理の第1段階の審査をパスしませんでした(客観的合理性・社会的相当性を判断するまでもなく雇止めは有効ということです)。ただ,最後の関門は,無期転換回避目的の更新の上限設定や不更新条項の挿入が,無期転換ルールを定めた労契法18条の潜脱となるかです。これについては,ビジネスガイドの上記論考でも論じたように,そもそも労契法18条の適用要件を充足しないように5年に到達するまでに雇止めをすること自体は,雇止めの有効要件を満たしているかぎり,法的な問題がないと解すべきです。本判決も,「労契法18条は,有期契約の利用自体は許容しつつ,5年を超えたときに無期雇用へ移行させることで,有期契約の濫用的利用を抑制し,もって労働者の雇用の安定を図る趣旨の規定である。原告は,5年を超えて雇用されておらず,かつ,労契法192号の適用により5年を超えて雇用されたことになるともいえないのであるから,原告について,労契法18条の保護が及ぶことはなく,本件雇止めが同条の潜脱となるとはいえない」と述べました。法の潜脱というためには,労契法18条の要件を充足しているか,充足する可能性が高いにもかかわらず,それを不当に回避しようとしたという事情が必要で,そうした事情が本件にはなかったということです。
 本件では,会社は原告労働者が加入する労働組合との間で「有期労働契約の更新に関する運用基準」について合意をしており,それによると2014430日時点での勤続年数の長さによって,更新期限を設けない(したがって無期転換を認める)者とそうでない者とが分けられ,原告労働者は後者に該当するものでした。会社はこの基準を適用して選別したうえで,無期転換が起こりうる直前の20183月末に雇止めをしていました。この運用基準は労働協約ではない単なる労使間の合意であり,原告労働者らには通知されていませんでした。この基準により,同じ職場の有期雇用労働者でも,雇止めされる者とそうでない者との選別が起きて,不公平感が生じてしまったのであり,会社側がこの運用基準について丁寧に説明していなかった点は,労働組合の組合員であるからあえて説明する必要がないと考えたのかもしれませんが,やはり人事管理的には望ましいとはいえないように思います(実際に,裁判となってしまいました)。また理論的には,この種の運用基準を労働組合が合意できるのかという点も問題となりえます。もし労働協約として締結していても,雇用の喪失につながる内容なので,協約自治の限界論から規範的効力が否定される可能性があります。
 こうした問題点は気になりますが,これまでの判例を前提とすれば,雇止めを有効とする判断に違和感はありません。本件は,いわゆる労契法18条の副作用(無期転換ルールがあるから,それを避けるために早期雇止めが起こること)が問題となっているケースではなく,整理解雇と類似のケースですが,不更新条項の位置づけなど理論的にも興味深い論点を含むものですので,ビジネスガイドの論考の補遺として挙げておきます。

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