1年を振り返って
2021年も,コロナに振り回された1年でしたね。今日の日本経済新聞の「<コロナと世界 針路を聞く5> 社会と共に考える大学に」という東大学長の藤井輝夫氏のインタビュー内容は,共感できるものでした。多くの教育者がデジタルの利点を認識でき,国境の垣根を越えて一堂に会して,研究者だけでなく一般の人や学生も交えて議論できるフォーラムが出現したことを指摘されていたと思います。藤井氏は,対面授業の重要性を否定していませんが,むしろオンライン授業が標準で,対面授業はどうしてもその必要性がある場合の補足的な手段として位置づけるべきものでしょう。
藤井氏は,研究環境の変化にも言及し,「コロナという人類共通の脅威に直面したことで,多様な背景を持つ専門家が一つの問題にともに取り組む現象が生まれている」というのは,そのとおりです。文理融合というだけでなく,より具体的なテーマについて,いろんな専門性をもつ研究者が知見を寄せ合って,新しい知や価値を生み出すことこそ,大学の役割だと思っています。隣接領域であっても,専門外のことは知らないという「たこつぼ」主義では,これからは意味ある研究はできません。私の例でいえば,労働法以外の法分野だけでなく,法学以外の学問分野にも関心をもって研究の視野を広げなければいけないということです。私も,定年までそれほど多くの時間があるわけではないなか,どこまでのことができるかわからないので,大学という場にはこだわっていきたいものの,かりにそういう場がなくても,研究ができる環境をいまからつくっておく必要があるように思っています。
ところで今年は,単著を3冊上梓しました。『人事労働法』(弘文堂),『誰のためのテレワーク?』(明石書店),『労働法で企業に革新を』(商事法務)です。個人的には,どの本についても刊行できて,とても良かったと満足しています。『人事労働法』は既存の労働法への挑戦という理論的作業の成果,『誰のためのテレワーク?』はテレワークを通したDX社会への展望を一般の方に向けて書いたもの,『労働法で企業に革新を』は普通の労働法の本にはないような小説仕立てで旬の労働法のテーマを扱ったもので,それぞれ違う目的や個性をもつ本となりました。2022年には,従来の本の改訂版を出す予定ですが,新作も一つ企画しています。
論文についても,DXやテレワークが中心でした。エッセイ的なものを除くと,1月に「旧労働契約法20条をめぐる最高裁5判決の意義と課題」をNBL1186号に,8月に「DX時代における労働と企業の社会的責任」を労働経済判例速報2451号に,9月に「テレワークを論じる―技術革新と社会的価値―」を季刊労働法274号に発表しました。判例評釈としては,9月に福山通運事件・最高裁判決を扱ったものを,判例評論で発表しました。このほか,1月にインターネット白書の2021年版で「DX時代におけるテレワークの可能性と課題」を,3月に月刊企業年に「デジタル変革と高齢者雇用」を,4月に学士会会報に「デジタル変革と日本の労働と法」を,5月に日本経済新聞の経済教室に「ギグワーカーの未来(下)―新しいルール,企業誘導型で」を,8月に月報司法書士に「私たちの働き方はどう変わるか」を発表しました。またインタビューではありますが,6月に刊行された『逆境の資本主義』(日本経済新聞社)に登場しました(錚々たるメンバーの中に入れてもらい畏れ多いです)。
書評としては,森田果『法学を学ぶのはなぜか?』(有斐閣)が労働新聞に,水町勇一郎『詳解労働法』が判例時報に掲載されました。このほか,NBL1200号の巻頭言,Learning Solution への寄稿などもありました。
外国語では,イタリアの「Alternative Labour Dispute Resolutions- A collection of Comparative Studies」という本に,"Labor ADR in Japan"を寄稿しました(英語),また「Lavoro Diritti Europa」という雑誌に,”Lo Statuto dei lavoratori e il diritto del lavoro giapponese"(日本語では,「労働者憲章法と日本の労働法」)を寄稿しました(イタリア語)。
業績の自己採点としては可もなく不可もなくというところですね。今年はアウトプットの年と考えていましたが,トータルでみると,来年以降に向けた準備期であったと位置づけられるかもしれません。
来年は授業も含めて少しずつ対面型の活動も増えていくかもしれませんが,基本的にはICTの恩恵に浴しながらムーブレスで活動していければと思っています。
みなさん,どうぞよいお年をお迎えください。
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