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2021年11月12日 (金)

労働者代表制

 先日の学会では,三六協定の機能不全という話もでましたし,労働組合はもっとやれることがあるのではないかというメッセージを毛塚勝利先生からお聞きしたような気がします。労働法制に関する将来構想において,労働組合をどう組み入れていくかは難問です。拙著の『人事労働法』(弘文堂)では,現状をみているので,労働組合がなくても労働者の利益を守れるようにしたいという視点で考えています。同書の企業に働きかけることを重視する姿勢(28・29頁)は,労働組合の機能不全を前提としたものです。
 もっとも,私は労働組合には,労働者が自由に結成して,自分たちの力で自分の権利や利益を守っていくという自律性に魅力を感じてきました。その意味で,私の労働法理論は労働組合にロマンを求め,その力に大きい期待を込めるものでした。2007年に刊行した拙著『労働者代表法制に関する研究』(有斐閣)の最後の言葉は,「労働組合を『自由』の理念と結びつけて,その活性化を図ること,他方,『自由』を『放縦』と区別して,『正当性』概念により規律された『自由』のみ認められるということを再確認して,労働組合が(企業を含む)社会の信頼を広く得られるようにすること,それを立法論,解釈論において確立していくことが,労働者代表法制の課題であり,かつ実現すべき目的なのである」(234頁)というもので,ここでは労働組合への当時の私の気持ちが込められています。
 ただ,それから15年近く経った現在,リアルな労働法の制度設計を目指す『人事労働法』では,労働組合が組織されていない企業を想定していかざるを得なくなりました。
 労働組合がないならば労働者代表制をという議論もあります。現時点で,厚生労働省で,この点について,どのような議論がされているのかはよく知りませんが,私には労働組合がないからといって,それじゃ立法で労働者代表制を,ということには,一貫して反対してきました(『労働者代表法制に関する研究』(有斐閣)の第3章などを参照)。
 この問題について,ずいぶん前にいただいておきながらお礼を書いていない本があります。それが小畑明『労働者代表制の仕組みとねらい―QA職場を蹴る切り札はこれだ!』(2017年,エイデル研究所)です。遅くなりましたが,どうもありがとうございました。
 本書は,QA編と座談会と資料編という3部構成ですが,座談会では東京大学の荒木尚志先生が登場されていて,運輸労連中央書記長の著者と,中小企業家同友会の平田美穂(全国協議会事務局長)との公労使三者構成という感じになっています。荒木先生がうまく議論をリードされており,また労働者代表制に関する主要な論点が網羅されていて,この座談会の部分を読むだけでも価値があります。私には小畑さんや連合の構想には基本的には反対ですが,そのことはさておき,そろそろ労働者代表制について議論を総括しておくべき時期に来ている気もします。
 時代は確実にデジタル時代にシフトしているのであり,労働者代表制については既存の議論にデジタルの要素を付加する必要があります。それにより従来の発想が根本的に通用しなくなる可能性もありますが,今後の議論の発展は次の世代の人たちに任せることになるのでしょうね。

 

 

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