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2021年11月11日 (木)

エスコヤマの時間外労働問題に思う

 神戸の近くの三田(さんだ)市にある,有名なパティシエ エス コヤマで,時間外労働に関して労働基準監督署から是正指導が入ったことが報道されていました(【独自】人気洋菓子店で「やりがい搾取」、残業100時間超が常態化…超過分未払いも : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp))。エスコヤマのHPにも,会社としての説明が掲載されていました。クリスマスケーキのシーズン前のかき入れ時にイメージダウンかと思いましたが,あまりマイナスにはなっていないようですね。高い定評のある商品クオリティへの評価は,これくらいでは揺るがないということかもしれません。それに従業員の働き過ぎくらいでは,消費者にはそれほどマイナスイメージにならないのが,多くの日本人の反応かもしれません(もしそうなら,それには問題があるのですが)。記事のなかには,労働組合の人の言葉をつかって「やりがい搾取」とも書かれていました。修業時代には,時間に関係なく頑張ることも必要なのかもしれず,それは自分の大学院生時代のことなども振り返ると,まったく理解できないものではありませんが,もちろん限度はあるのであり,言うまでもなく労基法違反は許されません。
 こういう報道をみたとき,法律で,違法な時間外労働を撲滅することは難しいということを改めて感じます。私はかつて『君の働き方に未来はあるか?―労働法の限界と,これからの雇用社会』(2014年,光文社新書)のなかで,第3章「ブラック企業への真の対策」というところで,ブラック企業とホワイト企業のことについて,次のように書いています(89頁以下)。「たとえば勤務時間が長く,メンタル面で問題のある社員がかなりいるけれど,育成はしっかりしてくれて,やりがいのある仕事をどんどんさせてくれる企業があったとします。こうした企業は,ワーク・ライフ・バランスを重視している人にとってはブラックでしょうが,働きがいを強く求めている人にとっては,ブラックではないでしょう。後者のタイプの人は,むしろ,勤務時間が短く,法律はすべてきちんと守られているけれど,仕事がつまらない企業のほうに不満を感じるのです」。
 このような観点からは,「やりがい搾取」という表現は,場合によっては,ちょっときつすぎるかもしれません(もちろん,ほんとうにそう表現すべきような事例もあるのですが,エスコヤマのケースがそうなのかは,私にはよくわかりません)。
 ただ,現在の議論は,さらに先に進んでいて,将来につながると思って「やりがい」を感じているけれど,実はそんな修業をしなくてもよいといえることもあるのです。デジタル時代には,かつて長年の修業により習得すべきことを,より効率的に習得できる可能性もあるのです。もちろん最低限の実習は必要でしょうし,パティシエ業界がどういうものかはよくわかりませんが,一般的に言って,ある仕事のプロフェッショナルになるときの方法は,デジタル時代には大きく変わっていきます。こういうことを若者たちは知っておく必要がありますし,親世代も昭和時代の価値観を自分の子どもたちに押しつけないようにしなければなりません。そのことも,ブラックな働き方に巻き込まれるのを回避するために必要な知識です。『会社員が消える―働き方の未来図』(2019年,文春新書)や『誰のためのテレワーク―近未来社会の働き方と法』(2021年,明石書店)などでも,これからの働き方について展望しているので,参考にしてもらえればと思います。

 

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