« オミクロン | トップページ | Business Lawyersに登場 »

2021年11月30日 (火)

NECソリューションイノベータ事件

 昨日,大阪地方裁判所で,生活上の不利益などを理由に転勤命令を拒否した労働者に対する懲戒解雇の有効性が争われた事件で,転勤命令は権利濫用ではなく,懲戒解雇も権利濫用でないと判断した判決が出されたようです(https://news.yahoo.co.jp/articles/74551cda80616d2d5472b69fccc3906f5b0d201f)。私は,事前に,ある新聞社から,この事件についてコメントを求められていて,事案の詳細はわからなかったので,とりあえず転勤についての一般的な説明として,東亜ペイント事件・最高裁判決や育児介護休業法26条のことや,これからの雇用社会における転勤の意味の変化などについて説明をしました。この判決で労働者勝訴となれば,判決をふまえた私のコメントが出るはずでした。しかし労働者敗訴となったので,コメントはお蔵入りになったようです。労働者が敗訴となればニュース価値がないというのは変ですよね。重要と考える事件は,勝敗に関係なく報道してよいと思うのですが。
 それはさておき,判決文を読んでいないので,この判決の当否自体については,論評できません。ただ事前に聞いていた限りでは,結論はどちらもありうるのではないかと思っていました。労働者敗訴となる可能性としては,裁判所が東亜ペイント事件・最高裁判決以来の判例における転勤命令の権利濫用法性を狭くとらえる考え方(すなわち,業務上の必要性を広くとらえ,通常甘受すべき程度を著しくこえる不利益を厳格に解すこと)を踏襲する場合,もう一つは,本件の転勤(および職種転換)がリストラが進められるなかで,解雇を回避するためにやむを得ないものであったといえる場合です。今後,判決文を読んで検討しなければなりませんが,転勤については,なお東亜ペイント事件・最高裁判決が影響力をもっているように思います。もちろん多くの企業は,リストラと関係するものであろうとなかろうと,転勤の際には,従業員に誠実説明をして納得同意を得るよう努めていると思います。従業員が不満をかかえたまま転勤すると生産性が下がる可能性があるからです。「人事労働法」の観点からは,そうした手順をふんだ転勤をしているかぎり問題はありません。ただ東亜ペイント事件・最高裁判決は,そうした丁寧な手順をふまなくても転勤させてよいという不適切なメッセージを経営側に送っているのではないかと懸念しています。その意味でも東亜ペイント事件・最高裁判決の見直しが必要です。
 今回の判決はともかく,今後は,事実審レベルにおいて,業務上の必要性を厳格に解したり,通常甘受すべき程度を著しくこえる不利益を広くとらえたりする判決が出てくるのではないかと予想しています。とくにNECソリューションイノベータ事件のような事案では,育児介護休業法26条を組み込んだ権利濫用性の判断をどのようにすべきかを,ぜひ上級審で示してもらいたいです。法的明確性のためには,一定の条件を充足する労働者は,本人が希望すれば,住居の移転をともなう転勤を命じてはいけないといった法改正をするのも,一考に値します。私はもともと転勤については否定的に考える意見を唱えていて,従来,あまり相手にされてこなかったのですが,近時は社会通念が大きく変わってきています。またテレワークの推進は,まさに転勤否定論につながるのであり,労働者に場所主権を回復させるという観点からも,もっと注目されるべきです(拙著『雇用社会の25の疑問―労働法再入門―(第3版)』(2017年,弘文堂)の第2話「社員は,会社の転勤命令に,どこまで従わなければならないのか」も参照)。


 


 

« オミクロン | トップページ | Business Lawyersに登場 »

労働判例」カテゴリの記事