芸術の力
夏目漱石の『草枕』の冒頭のフレーズは,誰もが知っているものでしょう。
「山路を登りながら,こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
法律家というのは,どうしても「智に働く」感じが強く,角が立ちやすいと思います。戦後,東京帝国大学から東京大学に変わってから後の東大法学部出身の首相はいないのですが,人間関係や情が重視される政治の世界では,法律家はどうしても出世しにくいのかもしれません。だからといって情ばかりではいけないのであって,支持団体や地元からの陳情に屈してしまえば,流されてしまい,政治家として失敗してしまうことがあります(賄賂が断れなくなるなどの最悪の事態も起こります)。だからといって「意地」を通すと,いさかいが絶えず,人望が失われます。漱石は人の世の住みにくさを言っていて,ほんとうにそうだと私も実感していますが,政治の世界もそうでしょう。個人的には,智(もしそれがあればということですが)をやや少なめに,情は少し多めに,そして意地はできるだけ張るという按配がよいような気がしていますが,いずれにせよ政治の世界も人の世の縮図であり,自民党は,どちらかというと河野の「意地」,高市の「智」,野田の「情」という感じで,最後は「意地」と「情」のバランスの岸田が天下をとったという感じでしょうかね。立憲民主党は,逢坂氏以外は法学部出身のようでどちらかというと「智」の感じですが,「智」や「意地」を引っ込めて「情」の面でどれだけ訴えることができるかが大切なように思います。
ところで漱石は「人の世は住みにくい」と言っているのですが,だからといって「人でなしの国」はより住みにくいだろうと言っています。そして住みにくい人の世をのどかにして,人の心を豊かにするのが,詩や画といった芸術なのだと言っています(草枕の主人公は青年画家)。そこに音楽も加えてよいのではないでしょうか。いつも応援している辻井さんや,ショパンコンクールで話題となった反田さんたちの演奏を聴いていると,そういうことを感じさせられました。政治の世界でも芸術的な感性を,と言うのは無理な話でしょうかね。趣味でピアノを弾くような政治家が出世してくれればよいのですが。
« ショパンコンクール | トップページ | 大谷のMVP受賞に思う »
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 国産コーヒーに期待(2024.05.23)
- 朝日新聞デジタルに登場(2023.03.05)
- 寒波と第8波に備える(2022.12.01)
- 西川きよし(2022.11.03)
- 企業の社会的責任(2022.10.22)