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2021年11月28日 (日)

飲食店の「お手伝い」労働は合法か

 飲食店のアルバイト不足を補うために,客に料理を無料で提供する代わりにボランティア(無償)で働いてもらうという方法があると,NHKのニュースで堂々と報道されていました。こういうのは客も納得してやっていることが多いので何もなければ問題はないのですが,たとえば働いている途中に転んだり,他の客にからまれて殴られたりしてケガをしたというようなことがあると,厄介な問題が起こります。一番,厳格な法律論を立てると,次のようになるでしょうかね。
  労働者は事業に使用されて働いているので,労働基準法上の労働者に該当する(9条)。
  労働の対償として支払われるのは料理の提供というものなので,賃金通貨払いの原則に反する(24条)。
  労災保険に未加入であり,事業者は保険料が遡って徴収されるほか,種々のペナルティがある。
    労働者性の有無に関係なく,安全配慮義務が課されるので,事業者は損害賠償責任を負わなければならないことがある。
  以上の法律構成をとれば,当事者が事前に「お手伝い」に同意をしているかどうかは関係ありません。労働基準法などの労働保護法規は強制的に適用される強行法規だからです。強行法規で保障される権利は,自由意思であることが明確なものであれば放棄できますが,判例によると,自由な意思に基づくものであると認められるに足りる合理的な理由が客観的に存在していなければなりません(シンガー・ソーイング・メシーン事件・最高裁判所第2小法廷1973119判決,拙著『最新重要判例200労働法(第6版)』(弘文堂)の92事件などを参照)。というようにハードルが高いものとなります。
 一番,緩やかな法律論をとると,当該契約は,ボランティア契約であり,労働契約ではない,あるいは労働保護法規の対象となる労働者ではないとするものです。世の中にはいろんな無償労働があり,それが誰かの指揮命令下で遂行されることがあります。それがすべて労働法の世界に入ってくるのは適切でないでしょう(すべて最低賃金は支払えというのは現実的ではありません)。西欧でいえば「修道院における勤労」のように,労働法の世界に入れるべきではないと考えられる働き方もあります。修行中で寺掃除をしている僧侶がケガをしたときに,「労働者」の業務災害として労災保険の対象となるでしょうか。より一般的にボランティア(有償ボランティアも含む)はどうかという問題もあります。賃金が支払われないことが社会通念上当然とされている労働については,労働基準法9条の労働者概念における「賃金を支払われる」という要素が欠落しているので,労働者ではないという整理も可能ではあります。その場合には,労働契約とは異なる特殊な無償の役務提供契約が締結されていることになります。ただ,そうみるか,賃金が払われるべきなのに払われていない最低賃金法違反の労働契約とみるかの区別は容易ではありません。
 また,上記の「お手伝い」については,業務委託契約と構成することも理論的にはあえります。そうなると,労働法の世界から離れ,通貨払いの原則や最低賃金などは適用されなくなります。ただ,アルバイトの代わりの「お手伝い」について,指揮命令関係がないというのは苦しいでしょうね。なお,労基法116条2項は,労基法は,同居の親族のみを使用する事業には適用されないと定めていますが,逆にいうと,このような場合しか適用除外されないということでもあります。
 「人事労働法」の観点からは,お手伝いをしてくれる人に,労働者でない扱いをすることについて誠実説明をして納得同意を得ていれば,そのような取扱いを認めてよいと考えることになるでしょう(拙著『人事労働法』(2021年,弘文堂)80頁以下も参照。「誠実説明」や「納得同意」は独特の概念ですので,同書を参照してください)。「お手伝い」がなければ飲食店が回らないという事業者側やそれによって困る国民のニーズがあり,同時に働き手も食費が浮くことに大きなメリットを感じていることが少なくないと推測されることから,こうした働き方を頭から違法視したり,過度に規制したりするのは望ましくないと思います。だからといって,本人が知識不足のまま,安易に労働法の適用外の働き方を容認することがあってはなりません。事業者は,この働き方がコンプライアンスの点でどのようなリスクがあるかを,まずはしっかり理解し,そのうえで「お手伝い」の人に誠実説明をし,納得同意を得るという手順をふんでもらう必要があるというのが,私の考え方です(もちろん裁判官は私の立場とは異なるので,実際に裁判になれば,納得同意を得ていても,事業者側が負ける可能性は十分にあります)。それが面倒だという事業者は,他人の労働力を利用して事業を営む資格はないと考えています(むしろ人間を使わず,ロボットの導入を考えるべきであり,それはそれで今後有望な事業戦略ですし,実際にそうしたことを始めている店もあるようです)。

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