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2021年9月 3日 (金)

判例評論に登場

 予告していましたように,判例評論(判例時報)の最新号に,福山通運事件・最高裁判決(令和2228日)の判例評釈が掲載されています。7年ぶりの登場です。ビジネスガイドで連載の「キーワードからみた労働法」でも「逆求償」というテーマで,この判決を取り上げていましたが,今回は判例評釈ですので,書きぶりや視角が異なります。この判決については,多くの評釈や解説が出ていて,民法学者のものも含めて,すべてに目を通したつもりですが,労働法的な観点からは,この問題のエキスパートである細谷越史さんの著書と本判決の評釈,それと季刊労働法の富永さんの論文が最も参考になったので,紙数の関係もあり両文献のみを挙げました。不法行為については,個々の論文以外は,同僚の窪田充見さんの決定版といえる本とよく参照されている潮見佳男さんの本(信山社の本のほうが,情報量が多いようですが,より最近に改定されている新世社の本にしました)を参照しました。
 私の論考は,多くの方とはやや違い,補足意見に割と多く言及しています。たくさん評釈があるので,同じようなものを書いても仕方がないからです。本判決のインプリケーションも私の視点で書いています。
 民法715条の使用者責任自体は,労働契約関係以外も含む広い射程をもつ条文ですが,本来はメインの領域は労働契約関係となるはずで,私たちももう少し関心をもってよいかもしれません。とりわけ逆求償は労働法にとってはほとんど未知の領域です。労働者が先に不法行為の損害賠償をしたあと,どこまで使用者に求償できるのか,というのは,ほとんど検討されてこなかったのです。民法における代位責任論にしたがっているかぎりは,使用者にも不法行為責任がある共同不法行為の場合以外は,逆求償は無理なことなのですが,ここはむしろ民法のほうが,逆求償の可能性を模索してきていました。これをどう労働契約論の観点から理論構成するかが今後の課題で,國武英生さんが本判決の評釈で言及していたと思いますが,これまではこのテーマは細谷さんしかやっていませんでした。
 昔々,関西労働法研究会で,たぶん細谷さんが大学院生のときだったと思いますが,報告を聴いて,指導教員の西谷先生にこのテーマにした理由をうかがったとき,こういう事件が増えている(使用者から労働者への直接損害賠償請求の話です),というようなことを言われた記憶があります。ドイツでも議論があるので,西谷シューレの比較法のテーマとしてもよいのでしょう。
 私自身も,その後,この種の事件の裁判例が出てくるなか,このテーマは面白いので,ドイツ以外の国の比較もやってみればどうかと神戸労働法研究会の場で若手に声をかけたことがあるのですが,冷ややかな反応で,がっかりしたことを覚えています。
 それはさておき,判例評論はどういうように割り当てをしているのかわかりませんが,とくに私の専門とするテーマ(といっても,実はとくにないのですが)で依頼してこられるわけでもなく,これまでも管理監督者,外国人研修生(労働者性),雇用保険法上の被用者,そして逆求償というテーマで,どことなくマニアックな論点の判例を担当してきました。
 判例評釈は苦手ですが,ある程度,好きに書ける枠をいただけるのならば,声がかかれば今後もやってみたいという気持ちはもっています。

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