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2021年8月20日 (金)

アフガニスタン問題に思う

 アフガニスタンが大変なことになっています。米軍の撤退は計画どおりなのかもしれませんが,軍がいなくなり始め,タリバンがたちまち首都を制圧したのを想定外であるとBiden大統領が述べているのを聴くと,日本の防衛についてこの国を頼りにしていてよいのかということが不安になってきました。Bidenは,アフガニンスタン人が自分たちの国を守ろうとしないことに驚いたと言っていましたが,アフガニスタン政府や軍への影響力をもっていたアメリカの責任も大きいはずで,都合のよいときだけ乗り込んできて,確かに平和と秩序の実現にはある程度役立ったのでしょうが,20年経って自分たちにとって駐留する意味がなくなったら,とっとと撤退して,最後は自己責任として放置してしまうところは,明日の日本をみるような気がしないわけではありません。これが米軍の駐留を減らすか,費用を負担せよと言っていたTrumpであればわからないこともはないのですが,民主党のBidenも同じだったのです。要するにアメリカとはそういう国だということなのでしょう。もちろん日本人は,日本に原爆を投下したアメリカのことを,安易に信用するようなことがあってはならないのは当然です。自衛隊の増強をせよということではありませんが,少なくとも外交力を高める必要は緊急の課題でしょう。
 ところでタリバンが支配すると,女性の人権が抑圧されるということが言われています。確かに前のタリバン政権のときは,そういうことが起きていました。ただ現代において,ほんとうにそんな抑圧的統治が可能かは大いに疑問です。25年くらいしか経っていないとはいえ,世界の状況は変わっているはずです。タリバンも,ここを間違ってしまえば,世界から孤立してしまうでしょう。 
 むしろ,あまり報道されていませんが,アフガニスタンの少数民族のハザーラ人のことが心配です。20013月に世界中に衝撃を与えたバーミヤンの石仏爆破ですが,あの地域に住んでいたのがハザーラ人でした。ハザーラ人は,イランでは主流のイスラム教のシーア派の民族で,アフガニスタンでは宗教的少数派であるだけでなく,アジア系の顔をしていることなどから,社会的差別を受けてきたようです。スンニ派のタリバン(パシュトゥーン人)の復活で,いっそう過酷な状況となるのではないかという不安が出てきています。女性の人権は仮に認めることがあったとしても(イスラムの許す範囲で?),宗教対立や民族対立は止めることが困難でしょう。日本に住んでいると,こういう少数民族が武力で虐殺される危険があるという状況はなかなか想像ができないのですが,それが世界の現実というものです。
 アフガニスタン問題は,現在の国際社会が,現代人の人権感覚などに照らして受け入れられない政権の誕生に直面したとき,どれだけの力を発揮できるかの試金石となりそうです。もちろんイギリスがこの地域の問題について率先して解決に乗り出すべきなのは,かつてアフガニスタンを保護国としていた歴史からみても当然のことでしょう(パシュトゥーン人は,イギリスにより,パキスタンとアフガニンスタンに分断されました)。

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