テレワークの協力要請を成功させるためにやるべきこと
首相が経団連に行って,テレワークへの協力を要請したと報道されていました。ただ,テレワーク(ここでは主として在宅勤務)を人流を抑えるための手段と捉えているだけではダメなのは明らかです。テレワークをしようにもできない企業もたくさんあるわけです。それに経団連に行っても,会員企業の多くは大企業で,テレワークを既にやっている可能性は高いのです。問題は日本の企業の大半を占める中小企業です。そこでのテレワークを広げるにはどうすればよいかです。政府に,それについての知恵がないから,いつまで経ってもテレワークは広がらないのです。では,どうすればよいのか。
テレワークは,DX時代の標準的な働き方になるというのが,私の主張です。先日のトークイベントでもその話をしましたし,詳しくは拙著『誰のためのテレワーク?―近未来社会の働き方と法』(明石書店)を読んでもらいたいのですが,首相に謹呈しましょうかね(読む時間はないでしょうから,スピーチライターに送ればよいのでしょうかね。それが誰か知りませんが)。テレワークは単なるコロナ対策ではなく,DX時代に適合していくための不可欠の要素であるということを首相自身がしっかり理解し,咀嚼して,自分の言葉で,国民(経営者や労働者たち)に伝えてほしいのです。首相はデジタル化ということも言っていましたが,これをテレワークと連動させることはできるのです。ほんとうは,もっと前にやっておくべきだったのですが,テレワークをコロナ対策としてしかみておらず,コロナ対策はワクチン接種で十分という大きな戦略ミスをしていたから,いまのような状況を招いてしまいました。テレワークの普及に地道に取り組むことをしていれば,現在の状況は大きく変わっていたかもしれません。
テレワークの普及は,突貫工事的にやるとしても,最低1年はかかるでしょう。まずDX(デジタルトランスフォーメーション)を少しでも前に進めていくことです。行政から始め,中小企業には助成金をつけるべきです。企業には10年後も生き残りたいのなら,絶対に必要な投資であると説明し,政府も金銭的に後押しするのです。そうしたDXへの取り組みの延長にテレワークがあるのです。テレワークをコロナ対策の緊急避難的なものと位置づけて,せめて短期的でも我慢してやってほしいというような協力依頼ではどうしようもありません。そもそもコロナとの戦いはまだまだ続くのです。
季刊労働法の次号で,「テレワークを論じる」という論文を執筆しました。3月にテレワーク関係のシンポジウムを二つやり,その総括のようなものです。上記の拙著『誰のためのテレワーク?』は一般の人向けなので,これをやや専門家向けの論文に書き直したものです。政府や世間にうまくメッセージが届けばよいのですがね。
« 中止の決断が遅い主催者 | トップページ | 深水黎一郎『トスカの接吻』 »
「政策」カテゴリの記事
- 保護司の仕事の重要性(2024.06.10)
- 定額減税政策に思う(2024.05.30)
- 小嶌典明『新・現場からみた労働法』(2024.03.22)
- 社会保障の再構築(2024.02.26)
- 岸田減税に思う(2023.10.25)