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2021年6月25日 (金)

資格審査は必要か

 中央労働時報1276号に,都労委の,資格審査がパスしないので不当労働行為の救済申立てを却下したグランティア事件の命令について,JILPTの濱口桂一郎さんの評釈が掲載されていました。そのなかで,学会から完全無視されていて,存在しないかのような悲しい扱いを受けていた拙稿(「労働組合の資格審査は必要か-組合自治と行政サービスの効率性の観点からの再検討」季刊労働法265号)を拾い上げてくださって,有り難く思っています。
 私の論文は,資格審査不要論を,組合自治という原理論をベースにしたうえで,多角的に論じたつもりですが,力不足なので,学者の世界では,まったく誰からも相手にされてきませんでした。ただ,こういう超マイナーで地味な論点でも,これだと思うテーマについては論じていくことこそ学者の仕事だと思っていますので,めげずに頑張っていきます。
 それはさておき,実は資格審査不要論は,労働委員会の会議(近畿ブロックの会議だったかと思いますが)でも報告したことがあります。そこで出てきた意見の一つに,労働組合の実態がなさそうなところからの救済申立てがあったときには,やはり資格審査は役立つのではないかというものがありました。私の論文でも,それは使用者利益論というところで論じています。具体的には,労働組合性が形骸化しているような団体からの救済申立てによって手続に巻き込まれないようにするという使用者の利益は保護に値するとしたうえで,だからといって資格審査制度を存続するというのはコスパ的に合わないし,またかなりの場合,「申立人の主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかなとき」(労働委員会規則3315号)に該当するとして却下するという形で対処できると論じています。
 確かに資格審査制度があれば,グランティア事件のような労働組合を手続から排除できるのですが,これは資格審査存続論の一つの論拠になるでしょうが,十分ではないというのが私の考え方です。
 ところで,濱口さんの立論の面白いのは,労働委員会が実質個別紛争を扱うのは制度の本来の趣旨に合わないということ(これも私が一貫して主張している論点ですが,学会では相手にされていません)から,不当労働行為の救済申立てをするのであれば,外形上,法適合組合の形を整えろと述べている点です。これは,普通の研究者にはなかなか出てこない視点で興味深いです。私は,ここは二段構えの議論で,実質個別紛争はそもそも義務的団交事項ではないし,またかりに義務的団交事項となるとしても,個別の紛争なので,労働組合の自主性や民主性といった資格審査でチェックするような内容は関係ないから,やっぱり資格審査は不要だということになります。濱口さんは,不当労働行為審査で実質個別紛争を扱うのはイレギュラーだけれど,それを扱っているという現実をみているのです。私の見解は,実質個別紛争を拒否しても不当労働行為とならないので,「申立人の主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかなとき」に該当して却下すべきであるという議論になるのです。濱口さんとは全然ちがうことを言っているようですが,たぶん考え方の根本は同じなのではないかと思います。要するに,実質個別紛争を不当労働行為事件で扱うな,扱おうとすると,いろいろ問題が出てくる,ということです。
 もちろん,私のような却下論が適切か,解釈として通用するかはさておき,グランティア事件をみると,資格審査は使用者からの新たな対抗手段となりうるのだろうかと思っていたら,最後に佐田事件をもってきたところは,さすがです。
 一般論として,労働組合の活動資金は企業からの協賛金でまかない,労働者からは不徴収とし,協賛金を出してくれているスポンサー企業との関係では,ものわかりのよい労働組合となって,戦闘的な組合の防波堤になり(company union),他方,協賛金を出していない企業との関係では,紛争があれば無料で労働者からの申込みを受け付けて,団体交渉をして和解金を得て,その手数料はしっかり取るというようなビジネスは,これはやはり問題があると言わざるを得ないでしょう。Company unionへの資金提供は経費援助になるのです(不当労働行為)が,それ以上に,こうした労働組合に対して法がどういう対応ができるかはよくわかりません。
 資格審査をして,資格を否定して不当労働行為の救済手続を利用させないというだけでは十分ではないでしょう。その活動自体は阻止できないからです。労働組合がビジネスをすること自体を否定するものではありませんが,企業の枠を超えて横断的に活動する労働組合に対して,労働組合法が本来もっているはずの教育的機能を発揮すべき場合があるかもしれず,もしそうなら,それをどうやって進めていくかは今後の新たな課題となるかもしれません。だからといって,資格審査がその機能をになうべきとは思わないのですが。

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