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2021年5月24日 (月)

AIの経済学

 鶴光太郎さんから『AIの経済学―「予測機能」をどう使いこなすか』(日本評論社)をいただきました。どうもありがとうございました。経済学の立場からのAIについての議論は,AIの活用が労働市場にどのような影響を及ぼすかといったテーマではよくみられたものの,AIについて本格的に論じている人はそれほど多くなかったように思います。私が45年前に,政府関係のAIに関する会合によくでていたころも,経済学者にはほとんど出会いませんでした。実証的な研究をするうえでのデータが十分にそろっておらず,アカデミックな議論をすることが難しい分野であったからかもしれません。そのようななかで,鶴さんの本が登場しました。これは専門書というよりも啓蒙書ですね。あまりにもわかりやすく読めるので,AIとうまくやっていけそうだと思う人が多いのではないでしょうか。
 ちなみに私はAIについてどんな議論をしていたかというと,今後,AIなどの先端技術を使わない経済は考えられないという将来予想を前提に,そうなると雇用の新陳代謝が起こるので雇用政策上の課題が出てくること(「解雇は避けられないので注意せよ!」),企業内の人事でもAIが活用されることにより,それにともなう可能性と課題を検討する必要があること(「HRテックで人事は変わる!」「プロファイリングは危険をはらむ!」),従属労働が減少して自営的就労が増えることにともなう政策的課題を検討する必要があること(「フリーワーカーの時代が来る!」)を,『AI時代の働き方と法―2035年の労働法を考える』(2017年,弘文堂)以降,主として論じてきました。
 鶴さんの新著は,労働問題を専門に扱っているわけではありませんが,私の扱ってきたテーマと重なっているところも多いです。ただ私と違うのは,私は自営的就労の増加という問題を大きくとらえていることでしょうね。AIの雇用への影響は,それほど悲観的ではない展望が出されていて(第2章),経済学の分析からはそうなるのでしょう。しかし,個人で働く人が増えるという大きな流れもまた,政策的に大きな課題を突きつけるものではないかと考えています。個人で働くというと,ギグエコノミー関係の議論が多いのですが,それだけではなく,普通の人がフリーで働くのが標準的なものとなるというなかでの政策のあり方が問われているのです。雇用という働き方がAI時代の経済システムに合わないからなのですが,この視点をもつと,人々はもっとAIに警戒をして,自分の生き方や働き方や学び方を見直さなければならないということになりそうです。もちろん,鶴さんも,終章では,AI時代の経済政策のあり方を論じていて,おそらく似たような問題意識をもっておられるのでしょうが,読者は,鶴さんのような有力な学者が,きちんとAIの利点や欠点を理解されているから,政府に助言することによってしっかり対応してもらえそうだと安心してしまわないか心配です。
 それはさておき,本書は,経済学という観点よりも,AIについてのわかりやすい入門書というほうがよい本です(「あとがき」からも,そうした狙いをもった本であることがわかります)。多くの人が手に取って,AIに対する理解を高めてもらいたいです。そのうえで読者の方には,悲観はしなくてよいのはわかったけれど,でも警戒しなければね,という気持ちになってもらえたらよいなと思います。

 

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