労働組合をめぐる日米の違い
今朝の日本経済新聞で,「米アマゾン・ドット・コムが南部アラバマ州で運営する物流施設で労働組合結成の是非を問う従業員投票があり,反対多数で否決した」という記事が出ていました。詳細はよくわからないところがあるのですが,排他的交渉代表権限を得るための選挙がなされたということでしょう。アメリカでは,この組合化(unonization)をめぐる選挙が,労使のたいへんな攻防となることがよくあります(日本の労働組合がいとも簡単に団体交渉権を得ることができるのと大きな違いです)。
アメリカの労働組合は,単に結成しただけでは,使用者と団体交渉をすることはできません。使用者が任意に応じてくれればともかく,そうでないかぎり,一定の交渉単位(NLRBという日本の労働委員会に相当する機関で決定する)の範囲で,選挙を実施して過半数の支持を得なければなりません。その選挙の実施を申請するためには,30%以上の支持の署名を得ていなければなりません。選挙が実施され過半数の支持を得た労働組合は,当該交渉単位において,排他的交渉代表権限を得ることができます。その労働組合に投票をしなかった従業員も,その交渉代表権を得た労働組合によって代表されます。
こうした独特の制度があることを知らなければ,アメリカの労働組合の話はよく理解できないでしょう。日本では,過半数を得なくても,いかなる労働組合であっても団体交渉を申し込むことができます。排他的交渉代表権をもつ労働組合はありません。また労働組合が,組合に加入しない従業員を代表するということもありません(締結された労働協約が,一定の要件を得れば,非組合員にも適用される一般的拘束力という制度はありますが)。
排他的交渉代表権をもつアメリカの労働組合は,当該交渉単位におけるいわば公的な代表というイメージです。自らを支持していない従業員の利益も公正に代表しなければなりません。これが公正代表義務と呼ばれるものです。
日本の労働組合法制は複数組合主義であり,組織原理としては,私的な任意団体とみるべきものです。アメリカは,労働組合の結成自体は複数組合主義的ですが,実際に団体交渉という場面になると違っています。アメリカ法の影響を受けた日本の研究者は,労働組合をアメリカ風に公的団体ととらえて解釈論を展開する傾向にあります(公的団体論については,拙著『労働者代表法制に関する研究』(2007年,有斐閣)の118頁も参照)。例えば,過半数の支持を得ていない少数派労働組合が,団体交渉ができることについて疑問をなげかける見解がそれです。しかし,これまでの憲法解釈上は,少数派の団体交渉権を否定する解釈はとれないとされています。もっとも,就業規則の意見聴取を受けたり,三六協定の締結をしたりする過半数代表の地位には,少数派労働組合はつくことができないのであり,アメリカ的なmajority rule の発想が,労働組合法ではなく,労働基準法において認められているのは興味深いです。
なお,アメリカ法の交渉代表制度の正確な説明については,中窪裕也『アメリカ労働法(第2版)』(2010年,弘文堂)104頁以下で,ぜひ確認してください。
« 阪神が好調 | トップページ | ドイツの労働政策の動向 »
「法律」カテゴリの記事
- フリーランス新法の立法趣旨(2023.10.06)
- 興津征雄『行政法Ⅰ 行政法総論』(2023.10.02)
- 法学の課題(2023.08.13)
- 官報のデジタル化(2023.07.13)