労働者性について
昨日に続いて,労働者概念,労働者性の話題ですが,JILPTから二つの労働政策研究報告書をお送りいただきました。一つは,労働政策研究報告書No.207『雇用類似の働き方に関する諸外国の労働政策の動向―独,仏,英,米調査から』です。鎌田耕一先生が座長のものです。そこには,プラットフォームビジネスのなかでのギグワーカーの出現などの新たな状況が出現するなか,世界中で労働者性をめぐる問題が生じているものの,立法的には,フランスのプラットフォームに関する法律が目につく程度で,どの国もあまりうまい対策ができていないように思えます。外国法を参考にするのもよいですが,私たちが日本で知恵を絞って,うまい方法を試し,その結果を世界に発信するということをやってみてもよいと思います。労働者性についての比較法研究は,私がかつてJILPTの特別研究員をやっていたときに,何度か中心になってやったことがあります(労働政策研究報告書No.18「「労働者」の法的概念:7ヶ国の比較法的考察」,労働政策研究報告書No.67「「労働者」の法的概念に関する比較法研究」)が,そのころと労働者概念をめぐる理論状況は,確かに表面的には変わってきているようにみえるものの,本質的にはあまり進展していないのではないかという印象も受けます。
もう一つが,労働政策研報告書No. 206『労働者性に係る監督復命書等の内容分析』です。これは濱口桂一郎さんが担当しています。労働者性をめぐって現場でどのような問題が起きているのかを,行政の文書である監督復命書と申告処理台帳を分析して解明しようとするものです。行政の現場では,労働者性の判断を実際に求められることがあるわけですよね。実は私の提案する事前認証手続の一つは,そうした行政での労働者性の判断をフォーマルな手続として整備し,その判断をファイナルなものとすることです。これにより紛争防止ができればというのが狙いです。
実は,現行法でも,労働者性の判断についてのフォーマルな事前手続を定めたとみられるものがあります。一つは,労組法関係ですが,地方公営企業等の労働関係に関する法律5条2項は,「労働委員会は,職員が結成し,又は加入する労働組合……について,職員のうち労働組合法第二条第一号に規定する者の範囲を認定して告示するものとする」となっています(労働委員会規則28条以下)。実際にこのような認定・告示がされているのか,よく知りませんが,こういう手続があること自体,興味深いです。あるいは,実態がよくわかってないのですが,生活困窮者自立支援法16条に基づく生活困窮者就労訓練事業では,いわゆる中間的就労として雇用型と非雇用型とがあり,そのどちらに該当するかは,「生活困窮者自立支援法に基づく認定就労訓練事業の実施に関するガイドライン」によると,「対象者の意向や,対象者に行わせる業務の内容,当該事業所の受入れに当たっての意向等を勘案して,自立相談支援機関が判断し,福祉事務所設置自治体による支援決定を経て確定する」となっています。「非雇用型の対象者については、労働者性がないと認められる限りにおいて、 労働基準関係法令の適用対象外となる」とされているので,この手続で労働者性の判断が確定するわけではないのでしょうが,行政が労働者性の判断の前さばきをしているとみることができそうですね。こうした行政実務の実態がどのようになっているのかも知りたいところですね。
やや類似のものとして,障害者の福祉的就労のB型利用者の問題があります。障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)による就労継続支援B型の利用者は,「通常の事業所に雇用されることが困難であって,雇用契約に基づく就労が困難である者」(同法施行規則6条の10第2号)とされ,そこでの就労は非雇用型とされています。ここでの雇用型と非雇用型の線引きが実際にどのようにされているかもよくわからないのですが,よい文献がありました。それが障害者の法制度と実務の関係を分析した,長谷川珠子・石﨑由希子・永野仁美・飯田高『現場からみる障害者の雇用と就労―法と実務をつなぐ』(弘文堂)です。この文献をみると,B型事業所の実態も調査されていますが,そこではやはり労働者性の問題があるようです。とくに「高い工賃を支払い,一般就労への移行が可能となるようにB型事業所を運営するようにとの要請が高まっており,これはB型利用者の労働者性を高める方向に作用する」ことになり,「B型事業所を一つの制度の枠に収め,B型利用者はおよそ労働者性がないとする現行制度の限界を示している」とします(346頁)。同書では,こうした問題意識から,福祉的就労について,Ⅰ雇用型,Ⅱ非雇用の就労重視型,Ⅲ非雇用の社会参加重視型の三類型に分ける提案をしています。これによると,A型事業所のなかの福祉型やB型事業所のなかのビジネス型が就労重視型(非雇用)に分類されます(354頁以下)。
一方,こうした再編をしない場合には,B型でも実態によっては労働者性が認められることを周知徹底したうえで,かりに労働者でなくても,B型利用者に一定の就労条件を保障する法政策を検討すべきと主張しています(346頁)。これは自営的就労者一般について,私が主張しているところと重なっていますね。
労働者性は,いろいろな場面で問題となってきて,私たちは,その都度,その判断の難しさに直面するわけですが,それと同時に,最終的に非労働者とされた者にも,保護を否定するのではなく,何らかのサポート政策をとることの重要性を認識させられるのです。
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