文句なく強かった藤井二冠
藤井聡太二冠(王位,棋聖)が,竜王戦2組ランキング戦準決勝という,一般の人にはわかりにくい対局において,松尾歩八段に,豪快な勝ち方をしました。竜王戦には1組から6組まであって,上位の組への昇級は,順位戦と同様,1年に1つずつしかできないのですが,たとえ6組であってもランキング戦に優勝すれば,竜王戦の決勝トーナメントに出場できます。そこで勝ち抜けば,竜王に挑戦できます。ということで一番下のクラスにいても竜王を獲得できる可能性がある点は,A級に昇級しなければ名人に挑戦できない順位戦との大きな違いです。藤井聡太二冠は,デビューしたときは6組でしたが,そこでランキング戦に優勝して決勝トーナメントに出ました。残念ながら,佐々木勇気六段(当時は五段)に敗れましたが,これがデビューして29連勝したあとの,初黒星でした。翌年は5組に昇級してそこでもランキング戦に優勝して決勝トーナメントに出ましたが,増田康宏六段に破れました。その翌年は4組に昇級して,再びランキング戦に優勝して決勝トーナメントに出ましたが,豊島将之竜王(当時は名人)に敗れました。その翌年は3組に昇級してまたもランキング戦に優勝して決勝トーナメントに出ましたが,丸山忠久九段に敗れました。そして今年です。2組のランキング戦の準決勝に勝ったので,2位以内が確定です。2組は2位までが決勝トーナメントに進出できます。また来期の1組昇級も決まりました。1組となれば,5位まで決勝トーナメントに出れますので,挑戦者になりやすくなります。今日は,そういう意味のある対局でした。相手の松尾八段も順位戦のB級1組に長年いる実力者で,今日もあと1手余裕があれば,勝勢となるというところまで行ったのですが,藤井二冠の長考の末の4一銀というただ捨てが妙手で,それにより,たちまち松尾玉は窮屈となり,藤井勝勢となりました。素人目には,この手もあるかなと思っていたのですが,そこからどう相手玉を寄せるかはよくわかっていませんでした。すごい攻めで,神業ですね。こういう勝ち方をみれば,今年は決勝トーナメントを勝ち抜くような気がします。
藤井二冠にとって,これが今期最後の対局で,最多勝利,最高勝率(驚異の8割超え),最多連勝(ただし連勝は続いているので,翌年度の記録となる)となり,最多対局数を除き年度成績のタイトルを総なめにしました。もちろんタイトルを二つ取ったこともすごいです。棋戦も二つで優勝しています(朝日杯と銀河戦)。順位戦も全勝でB級1組に昇級を決めています。渡辺明三冠も強いですが,数字的には,藤井二冠が完全に凌駕しています。今年の冬には竜王を取っているでしょうか。そして2年後の夏くらいには名人を取っているでしょうか。
大学に進学せずに,将棋一筋で生きていくと決めた決意もすごいです。すでに将棋界の歴史に名を残す活躍をしていますが,今後どこまで成長するか楽しみです。