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2021年2月14日 (日)

濱口桂一郎『新型コロナウイルスと労働政策の未来』

 濱口桂一郎さんの『新型コロナウイルスと労働政策の未来』(JILPT)を,かなり前にいただいていました。どうもありがとうございました。濱口さんの講演をまとめたものです。わかりやすい内容で「未来」というよりは「現在」の新型コロナ下での様々な施策を「過去」からの沿革もみながら読み解くという感じです。資料が充実していて,講演の内容を理解するうえで,とても役に立ちます。テーマは4つあり,雇用調整助成金,非正規雇用,フリーランス,テレワークです。それぞれ参考になる話がありました。
 雇用調整助成金では,休業支援金・給付金の体系的な位置づけがよくわかっていなかったのですが,この本を読んで,なぜわかりにくいかが,よくわかりました。休業手当との整理がよくできないまま突っ走った施策ということなのですね。休業手当を支払うことは法律上の義務なので(労働基準法26条),それを支払わない場合に支払われる休業支援金・給付金というのは何なんだというのは,当然出てくる疑問です。本来は事業主が休業手当を支払い,その支援は事業主に対して雇用調整助成金で行うという建て付けのはずなのですが,労働者に直接支払う休業支援金なるものを同時に作ってしまったために,「せっかく法律まで制定して作った制度なのですから,できるだけ活用してほしい制度であるはずなんですが,一方でできるだけ使ってほしくない制度でもあるという,政府としてはアンビバレントな制度になってしまっている」(11頁)のです。
 労働者に直接支払うという発想は,本書でも説明されているように海外にもあるもので,イタリアでも所得保障金庫(CIG[Cassa Integrazione Guadagni])が有名です。イタリア人から日本で類似の制度があるかと聞かれたときに,雇用調整助成金(むかしは給付金)があるが,でも日本では事業主に支払うところに違いがあるという留保をつけるのが一般的でした(CIGについては,情報がかなり古くなりましたが,拙著『イタリアの労働と法―伝統と改革のハーモニー』(日本労働研究機構)の53頁以下を参照)。いずれにせよ,休業手当の支給をすべきときは休業手当で,それ以外の場合は,国の支援でというように,明確に分けておかなければ,体系上はむちゃくちゃになると思います。支援金・給付金は,「休業手当を受けられない労働者」に支給されるものとなっていますが,「受けられない」とは休業手当の支給要件を満たさない場合のことなのか,満たしている場合だけれど,企業が支払っていない場合(つまり違法状態)のことなのかが明確ではありません。後者については休業手当を支払うように裁判を起こしたり,労働基準監督署に申告して是正指導を求めたりするのが正しい対処方法でしょう。支援金・給付金は,大企業の非正規労働者にも拡大されることになったようです。公平性ということからすると,こういう流れになるのでしょうが,そもそも理屈が通らない制度を導入してしまい,それが公平性ということでどんどん拡大して,矛盾もまたどんどん拡大していくという感じなので,困ったものだと思います。政府が支援をするのはいいですが,よく考えてやるべきで,労働者から陳情を受けたからということで,それにホイホイ応えていると,制度はむちゃくちゃになります。陳情を受けるのはいいですが,きちんとしたスキームをつくったうえで,やってもらいたいものです。
 ちなみに本に書かれていたので確認したら,しっかり次のように厚生労働省のHP(休業支援金・給付金に関するところ)に記載されていまいた。


「事業主の皆様へ ~まずは雇用調整助成金の活用をご検討ください~」


 第2の非正規のところでは,アルバイト学生の位置づけが興味深かったです。アルバイト学生は,労働基準法では労働者に含まれるので,他の労働者と変わりありませんが,雇用保険の対象からは明文で除外されています。でも今回コロナ禍では,雇用調整助成金は使えないけれど,緊急雇用安定助成金として実際上は対象に含められて,そのうえ文科省がアルバイト学生を対象に学生支援緊急給付金を作っていて,こうなると雇用保険のほうも,アルバイト学生を排除していてよいのかが問われる,という問題提起がされています。大学教師の建前論でいうと,大学生がアルバイトをするのは,勉強の妨げになるので,ほんとうは望ましいことではないのであり,大学生がアルバイトをしなくても生活できるようなサポートをするのが国としては正しい政策だと言いたいところです。ただ労働法の観点からは,アルバイト学生とパートを区別する必要はないと思うので,雇用保険法は今後,この点について,検討が必要となるでしょうね。同じようなことは社会保険においても出てくる問題でしょう。
 第3のフリーランスのところでは,税法上の扱いについて,報酬を給与所得として申告するよう指導されていたという話は知らなかったですね。役所関係の仕事で,明らかに単発的なものなのに給与所得扱いされていて疑問を感じたことはあったのですが,これと関係しているかもしれません。研究者としては,自分のことについて,もっと詰めて考えておくべきだったのかもしれませんが,税法上の給与所得概念については,いちおう実質をみていくということで,それなりに納得していました(例えば,大内編著『働く人をとりまく法律入門』(ミネルヴァ書房)で,いまは慶応大学におられる佐藤英明さんが担当された「給料や退職金はどのように課税されるのか」の149頁などを参照)。ひょっとすると,税務当局のほうが,個人の自営業者は,名ばかり自営業者が多いとみていた,ということでしょうかね。小学校休業等対応支援金についても,フリーランスに対する支給要件をみると,実際上,名ばかり自営業者(実質は労働者)に該当する者にしか支払われないことになっているとの指摘も合わせて,たいへん興味深かったです。私に言わせれば,フリーランスの政策を,雇用類似の者や名ばかり自営業者だけをターゲットにしているのでは,ダメなのですが,このことはいつも述べているので繰り返しません。また失業給付については,所得保障制度の統合という構想のなかで考えていく必要があるのであり,これは私自身,研究を深めていくべきテーマだと考えています。
 第4のテレワークは,濱口さんも厚生労働省の検討会に入っておられるということなので,どのような成果が出てくるか楽しみにしています。


 これで1000円というのは,お得すぎますね(Amazonの値段はおかしい?)。

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