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2019年5月16日 (木)

戦争を知らない愚か者

 今朝の日本経済新聞の「春秋」で,「戦争を知らない子供たち」のことが書かれていて少し驚きました。私も丸山議員の戦争発言を聞いて,この言葉を思い出していたところだったからです。おそらく私やその上の世代は,同じように感じた人が多かったことでしょう。
 1970年の大阪万博の年に生まれたこの曲は,北山修作詞,杉田二郎作曲で,杉田がボーカルをするジローズの曲としてヒットしました。コード進行はきわめて平易で,私もギターの練習に最適だったので,数え切れないくらいギターの弾き語りをしました。当時はあまり歌詞の意味を理解せずに歌っていたのですが。
 この曲がヒットした昭和40年代後半の日本は,日常生活では戦争の名残はほとんどなかったと思います。しかし,自分たちの両親も含め,悲惨な戦争の経験をした人が周りにたくさんいて,戦争の恐ろしさを皮膚感覚で知っていました。戦争というのは絶対ダメというのが,おそらく当時の国民のほとんどに共通していた意識ではなかったでしょうか。
 もちろん戦争をしかけなくても,しかけられる危険性はあるわけで,そのために自衛力をもつ必要があるかどうかは,今日の大きなイシューですが,少なくとも日本から戦争を仕掛けるというようなことは,憲法上どうこう言う前に,そもそもありえないというのが,あまりにも当然のことだったのです。
 しかし,こういう国民共有の意識や認識というのは,最初はあまりにも当然と思っていても,時代とともに変わっていくのでしょう。だからきちんと文章化しておかなければならないのです。憲法とは,そういうものであり,とりわけ9条は,そうした文章化されたものなのです。だから憲法9条を無視するような発言をする国会議員が出てきたことは驚きです。
 憲法の第2章の表題は「戦争の放棄」です。憲法91項には,「武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する」と明記されています。そして,憲法99条は,「天皇又は摂政及び国務大臣,国会議員,裁判官その他の公務員は,この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と定められています。丸山議員は,反憲法的な国会議員であり,憲法を最高法規とする現在の法秩序の下では,非常に危険な存在であると思います。反憲法的に行動したいのならば,一市民に戻るべきでしょう。
 もちろん憲法改正を議論すること自体は悪いことではありません。国会議員であっても,自分自身の見解として,憲法に改正されるべき部分があると指摘し,それを政治的な信念として発表することが許されるのは当然です。憲法自身,改正されることがあることを想定しています(第9章)。しかし,国会議員としての活動において,現行憲法を遵守しない言動をすることは許されません。改憲論を唱えることと,現行憲法を無視することを混同してはなりません。維新はこの議員を除名するのは勝手ですが,それで済むわけではないでしょう。きちんと教育をしていなかった責任は問われるのではないかと思います。
 なぜ日本が戦争の放棄を宣言したか。単に平和を希求したというようなことではありません。あの戦争によって自分たち日本人が苦しみ,そして多くの人を苦しめたことへの深い悲しみと反省があるのです。前の天皇(現在の上皇)が退位のときに,平成の間,戦争がなかったことに言及しました。彼の父である昭和天皇が最高責任者として起こしてしまった戦争に対する責任に彼も苦しめられてきたのでしょう。戦争への反省,この点で,天皇は国民は結ばれ,国民の象徴としての役割を果たしたのです。
 それのみならず戦争放棄は,私たちにとって大きなメリットをもたらしました。戦争放棄のおかげで,ここまでの経済的な繁栄を享受できたし,国際的な地位の向上にもつながったのです。今日の日本人としてのプライドは,戦後の戦争放棄という姿勢からくるものなのです。こういう過去をわかっていない者が議員となっているのは,ほんとうに嘆かわしいことです。
 「僕らの名前を覚えてほしい 戦争を知らない子供たちさ」
 これからの子供たちが,未来永劫「戦争を知らない子供たち」であることを,心より祈るばかりです。

 ちなみに,終戦時のことを考えると,ロシアは私たちにとってとても恐ろしい国です。最後までソ連は中立を守ってくれると信じていた当時の日本政府の甘さはともかく,日ソ中立条約を破棄して日本を奇襲し,中国大陸では,たくさんの日本人女性がレイプされたと言われています。また多くの日本人がシベリアに連れて行かれました。これも原爆投下と並ぶおぞましい戦争の傷跡です。その恐ろしい国と必死に外交交渉をし,奪われた領土を取り戻そうとしているのです。歴史をふまえた日本人の悲しみや怒りや反省を共有しない者に,国の代表として,軽々しくロシアとの問題にタッチしてもらいたくはありません。

*タイトルを曲名をもじって「馬鹿者たち」としていましたが,単数なので「たち」をとり,4文字はおさまりがわるいので,「愚か者」に変えました。

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