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2019年2月10日 (日)

濱口桂一郎『日本の労働法政策』

  濱口桂一郎『日本の労働法政策』(労働政策研究・研修機構)をいただきました。
 どうもありがとうございました。 この本は,まさに菅野和夫先生が帯で書かれている「労働政策関係者の座右の書 日本の労働政策の歴史,基本思想,決定プロセス,体系,個々の制度内容,実施機構,等を余すところなく考察した労働政策の体系書。働き方改革関連法の深い理解のためにも必読。」という評価がぴったりのものです。
 そこでいう「労働政策関係者」に,研究者が含まれるのかわかりませんが,研究者にとっても,菅野和夫先生の教科書と並んで,座右において置かなければならない本でしょう。労働政策の形成過程は,近年の労働基準法改正や労働契約法の制定・改正くらいになると,かなりの情報もあるのですが,古い法律になると,立法の経緯がよくわからないところもたくさんあり,自分で調べていちおうこんなものだろうと思っても,自信がないことがよくあります。 この点,労働行政に精通されている濱口さんの書いたものであれば信頼性があるし,たいへん助かります。これからの研究は,個人で過去の立法政策を最初からたどる必要はなく,この本を出発点にできます。
 労働立法が,どういう社会的事情を背景に,どのように議論され,どのようなメンバーの委員で,どのように立案されてきたのか。今後は,こうしたこと自体が学問的な評価の対象となるのだろうと思います。立法政策学です。私がきわめてプリミティブなアプローチですが,昨年5月に「法律による労働契約締結強制-その妥当性の検討のための覚書き-」法律時報90巻7号7頁以下を執筆したのは,労働立法の政策決定過程そのものや,労働立法の事後評価も,アカデミックな検討の対象とすべきだという思いを示すためでした。立法政策学をアカデミックな分野にするためにもエビデンスが必要なのです。これまでだと,立法担当者の書いたものを読んだり,直接インタビューをしたりという手法が取られてきたのですが,ここまで精密にまとめられている本が出た以上,少なくとも労働法分野では,これ一冊で十分であると思われます。加えて,今後の政策課題が何かを考えるうえでも,この本が有用であることは間違いないでしょう。
 ところで私が,おそらく唯一,労働政策でかかわったことのある「働き方政策決定プロセス有識者会議」は,8行にまとめられていました(50頁)。あのとき自分自身は一委員としてそれなりに頑張ったつもりですが,不満も残る会議でした。いま振り返り,あのときのことが1000頁を超える大著のなかの8行に凝縮されており,不思議な感覚にとらわれています。歴史とはこういうことなのでしょう。 
  それはともかく,ちょっと調べたいことがあったので,索引をと思おうと,なんと索引がない!!!。若手を使えば作成できそうなものですが,それをさせなかったのは,上司として偉いと言うべきなのかもしれません。でも,この本には索引は必須でしょう。次の版で索引がつくのを祈っています。

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