英語での発信
昨年,英語で論文を書く機会が続けてあり,とても苦労しました。それでも,神戸大学の法学研究科では,ネイティブチェックについて費用負担をしてくれる制度があり,助かりました。
書いたテーマは,自営的就労者,解雇,労働協約であり,まだ刊行されていないものとして,労働組合(団結の自由)をテーマとしたものがあります。
自営的就労者は,昨年2月に神戸大学で開催した国際シンポジウムで出したペーパーを改定した“New Technology and Labor Law: Why Should Labor
Policy Address Issues of Independent Contractors in Japan”というペーパーで,Comparative
Labor Law & Policy Journalという比較労働法では権威のある雑誌(Vol.39, number3)に掲載されました。有り難いことです。
解雇については,以前にイタリアで刊行された本に掲載した論文をリバイズしたものですが,八田達夫先生との共編者でSpringerから刊行された“Severance Payment and Labor
Mobility- A comparative Study of Taiwan and Japan”に,”Why should the monetary compensation system be introduced in Japanese dismissal regulations ”という論文名で掲載されています。この本の企画は,八田先生が主導されたもので,日本と台湾の解雇法制の比較研究を法と経済の両法から行うという野心的なものでした。海外でも注目されればよいなと思います。日本からは,八代尚宏先生の論文が掲載されています。また台湾からは,私の下で博士号をとった世新大学の李玉春先生も寄稿しています。
そして,もう一つは,イタリアの雑誌であるVariazioni su Temi di Diritto del Lavoro(4
Fascicolo-2018)に,“Relations between collective
agreements of different levels in Japan”という論文を寄稿しました。英語のまま掲載されていると思いますが,それはWEB用で,ひょっとしたら紙媒体では,イタリア国内で,イタリア語バージョンも掲載されているかもしれません(もし翻訳版を出すのなら,事前にチェックしたかったですね。英語からイタリア語へはちょっと遠いので,機械的にできるから著者チェックは不要というわけにはいかないと思います)。テーマは,異なるレベルで締結された労働協約間の関係で,たとえば全国協約と企業別協約との関係といったことが論点なのですが,この依頼があったときに日本では同様の問題はないが,なぜ問題はないかということを書いてよいのなら引き受けると返事をすると,それでよいということでしたので,書いたものです。比較法的には,興味深い素材を提供しているかもしれません。他国の情報もあるので,時間があれば,この号全体をゆっくり読んでみたい気もします。
もう一つ未刊行の雑誌もイタリアなのですが,昨年の5月くらいに提出しているので,どうなっているのかわかりません。これも多くの外国の執筆者に依頼しているようなので,原稿がなかなかそろわないのかもしれません。
いずれにせよ,ナショナルレポート的なペーパーは,私が勝手に日本代表として試合に出ているようで申し訳ないので,こういう役割はもっと若手か,きちんとした研究者に譲るべきだと思っています。ただなかなか引き受け手が見つからないのです。
日本の労働法に関心をもつ外国人は少なくないようなのですが,発信側に問題があり,実際には,きちんと労働法のトレーニングを受けていない人(日本人,外国人)の英語での発信が流通しているということもあるようです。経済学や理科系と異なり,法学とくに労働法学は,市場がドメスティックなので,研究者は,国際的な発信になかなか手が回らないのかもしれません。しかし,こういう時代ですから,日本でも比較労働法の専門サイトを作って(雑誌はたいへんですから),きちんとした研究者が英語で発信することが必要かもしれませんね(私が知らないだけで,そういうものはすでにあるのかもしれませんが)。
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