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2019年2月 7日 (木)

玄田有史編『30代の働く地図』

 玄田有史編『30代の働く地図』(岩波書店)をいただいておりました。どうもありがとうございます。

 30代の働く人に対して,これから生き生きと働くためには,どうすればよいかの道標となる情報を与えようとするのが本書の目的です。11のテーマで,それぞれの専門家が執筆しています。

 本書は,「ですます」調で書かれているので,一見,平易そうではありますが,内容はあまり簡単ではないなと思いました。まずは玄田さんの書かれた「序」と「結章」を先に読めばよいと思います。そこから興味をもった部分を,本文でしっかり読むというのが,専門的な知識のない一般の方にとっての,お勧めの読み方ではないかと思いました。

 30代というのは,確かに難しい年代だと思います。本書では直接的には扱われていませんが,AIのインパクトが直撃するのが,この世代です。働き方の常識が大きく変わります。玄田さんは職場の上司とのコミュニケーションの重要性を指摘していますが,会社のほうはその必要を強く感じていても,若者のほうからは,上司とのコミュニケーションなんて無理だよな,ということも多いでしょう。 

 だから,玄田さんも,会社や上司に頼らず自分でしっかりやっていくために,少しは政府の出したガイドラインとかを読んでおけよ,と言うのでしょうし,行政の相談窓口なども活用したらいいよ,ということになるのでしょう。ただ,現実には,ガイドラインは難しすぎるし,行政の相談窓口では,窓口のおじさんたちとのコミュニケーションがなかなか思うとおりにいかないことも多いでしょうが。

 いかにして信頼できるエキスパートを知り合いにもてるか,これが大切ですね。労働に関する情報は,ネット上に山ほどありますが,そのどこまでを信頼してよいか。それはちょうど自分が,労働以外の法律相談を受けたとき,どの弁護士を推薦したらよいかわからないとか,病気になったときに,どの医師のところに行けばいいかわからないとかと同じようなことでしょう。おそらく労働問題を抱えている人の多くは,どの情報が正しいか,あるいは誰に相談をするのが最も適切かわからず,頭を抱えているのではないかと思います。自分の悩みに答えてくれる信頼できる専門家をどのように見つけるかの道標を得ることが,生きていくうえで大切なことですね。その意味では,良い「つながり」を持っておくことが必要なのでしょう。

 本書の中身に戻って,私が注目したのは,第1章の佐藤博樹さんの書かれたところです。共感したのは,真の働き方改革は,「時間をかけた働き方を評価する職場風土の解消」と「時間意識の高い仕事の仕方への転換」にあるという指摘です。労働時間の規制が大切なのは誰も否定しないし,無駄な残業が駄目なのは誰も思っていることですが,どんなに法律が頑張っても,実際の会社には時間意識が希薄なことが多いのです。時間の問題は,法律マターにするのではなく,職場風土や意識の問題としてみるべきだというのが,本質をみた議論だと思います。

 体力もあり知力も向上の余地のある30代は,まだ可能性が大きく広がっています。仕事に無駄な時間を奪われないようにし,そして,自分の人生の戦略をしっかりと立てることが大切な年代です。本書は,そうした人たちにとっての,確かな道標になることでしょう。

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