2024年6月24日 (月)

小池百合子の強み?

  7月7日投票の都知事選は,候補者乱立で大変な状況ですね。もっとも勝負は,小池知事と蓮舫氏の一騎打ちでしょうから,ある意味では単純です。むしろ問題は,この二人しかまともな候補者が出ていないという選択肢の少なさでしょう。
 私もかつて東京都に住んでいたことがありますから,都知事選に投票したことがあります。衝撃を受けたのは,青島幸男知事の誕生のときで,あのときはまだ東京にいたのですが,冗談かと思ってしまいました。でも都知事選の有権者は,当時の私も含めて地方出身者が多いと思いますので,地元のことを考えてくれるからとかそういう基準ではなく,結局は人気投票となるでしょう。「意地悪ばあさん」が都知事になっても,おかしくなかったのです。
 私の記憶にある都知事は,美濃部亮吉以降であり,鈴木俊一,青島幸男,石原慎太郎,猪瀬直樹,舛添要一,小池百合子です。猪瀬氏と舛添氏は途中で辞任ですが,1期で退いた青島氏を除くと,美濃部氏,鈴木氏,石原氏が長くやっているように現職は強いです。小池知事も現職の強みがあるでしょう。
 でも彼女の強みは,それだけではないように思います。1期目のとき,小池知事の当選に大きく貢献したのが,石原慎太郎の「大年増の厚化粧」発言と言われています。現在の日本郵政の社長の増田寛也氏(元岩手県知事)も自民党側で立候補しましたが,小池氏に完敗でした。石原発言への反発で,年配の女性票が大きく小池氏に流れたのではないかと言われました。男性中心社会のなかで,男性をうまく利用しながらも,自分の力でキャリアを切り開いてきた小池氏に,小池氏に近い世代だけでなく,広い年齢層において,憧れと共感をもつ人が少なくないのでしょう。有権者の半分は女性なのです。学歴詐称は,ほんらい大きな問題ですが,それですら小池氏にとって致命的にはならないのは,男性ほどは学歴にこだわらない女性たちにとって(自分の息子には高学歴を期待するかもしれませんが),小池氏が学歴で叩かれることに納得していないのかもしれません(公職選挙法違反などは重要ではないのでしょう)。カイロ大学卒業という肩書は,彼女がのしあがるために必要なことだったのであり,アラビア語のレベルが低すぎるといったことで叩いても,むしろ揚げ足取りのような批判と受け取られ,かえって小池氏への共感の理由になってしまうのです。この程度の嘘で塗り固めなければ,やっていけないのよ,ということへの支持なのかもしれません。「大年増であっても,厚化粧であっても,そのどこが悪い? 私たちは小池氏を何が何でも応援するわ」という人たちに支えられている限り,小池当選は揺るがないでしょう。
 これはあたかもTrumpが,どんなに無茶苦茶なことを言ったりやったりしても,不倫の口止め関係で有罪判決を受けるなどの恥ずかしい犯罪をしていたとしても,彼がアメリカの政界のエリートたちに叩かれるなかで果敢に戦っている「俺たちの英雄」というイメージがある限り,「有罪が何なんだ」というノリになってしまうのと似ている感じがします。Trumpも,叩かれば叩かれるほど,票は減らないどころか,固まる可能性があるのです。
 もちろん小池氏にしろ,Trump氏にしろ,知事や大統領に適していないと冷静に考える人も少なからずいるでしょう。しかし人気投票選挙となると,こういう冷静な票は伸びにくいのでしょうね(もちろん知事選は,蓮舫氏も著名人ですから,反自民票を集め切れれば勝機があるかもしれません)。首相公選制はやめたほうがよいですね。

2024年6月23日 (日)

AI法

 5月21日に,EUのAI法が可決されました。AIに関する包括的な法律ですが,これはAIを規制する一面がある一方,AIの利用に関する見通しのよいルールを設けて,過剰な利用による弊害を回避し,他方で,開発者や事業者たちが慎重になりすぎて過小な利用となることによって,この技術の潜在的な価値を活かせないことがないようにするものといえるでしょう。
 AI法はリスクベースアプローチをとったとされ,AIシステムを,①unacceptable risk(許容できないリスク),②high risk(ハイリスク),③limited risk(限定されたリスク),④minimum risk (最小リスク)というようにリスクの程度に分け,それそれに合った規制の内容としています。①に該当すると禁止となるので,重要なのは禁止するほどではないが,リスクが高い②をどのように扱うであり,AI法の中心も②に関するものとなっています(具体的には,リスクマネジメントシステムの構築などのAIシステムに求められる要件(requirements)と,provider やdeployer の義務が詳細に定められています)。労働に関するものでは,「雇用,労働者管理,自営的就労へのアクセス(employment, workers management and access to self-employmen)」において,募集・選考,労働条件に影響する決定,昇進・契約関係の終了,個人の行動や特徴に基づく仕事の割当,個人の監視や評価のために使用されるAIシステムが,②に分類されています。将来のキャリア,個人の生活,就労者としての権利にかなりの影響を及ぼす可能性があるからだと説明されています。雇用も自営も区別しないところがデジタル社会に適合的ですね。
 ③については,いわゆる透明性の義務のみが課されています。そこには,たとえば生成AIやディープフェイク(deep fakes)も含められ,コンテンツがAIによって生成されたものであることを示しておかなければならないとされています。
 日本でも,従来のAI関係のガイドラインを統合する形で,4月19日に「AI事業者ガイドライン」が発表されています。先日,閣議決定された「骨太の方針」では,「AIの安心・安全の確保」という項目で,「我が国は,変化に迅速かつ柔軟に対応するため,『AI事業者ガイドライン』 に基づく事業者等の自発的な取組を基本としている」とされています。ガイドラインの内容は,まだよくみてはいませんが,一見したところ,たいへんわかりやすく,使い勝手がよさそうです。ここでも,EUと同様,リスクベース・アプローチがとられるとされていますが,雇用や労働面におけるAI利用のリスクについてハイリスクと分類され,強い規制対象となるかについて,今後の動向が注目されます。
 いずれにせよ,個人情報保護と並び,AIの利用規制は,今後のデジタル労働法においても中核的な領域を形成すると考えられますので,私たちも,その議論や規制の動向を注視しておかなければなりません(フォローしていくのは大変なのですが)。

2024年6月22日 (土)

ライドシェア問題

 ライドシェアについての政府の消極的な姿勢は,いろいろな角度から批判がなされています。なかでも,移動難民や(地域的ないし身体的理由などによる)移動困難者の問題の解決より,結局は,タクシー会社の既得権を守るだけではないのかという点は重要な論点です。一部解禁されているとはいえ,現状は,ドライバーは,タクシー会社に雇用されなければならないのであり,これは少なくとも,ライドシェア解禁論として待望されてきたものとはまったく違うものです。この点で,早急な制度改正が必要という制度・規制改革学会有志による「ライドシェア法制化に関する緊急提言」は重要な内容を含んでいます。そこではタクシー業界の既得権益批判が中心となっていますが,この提言には含まれていない,もう一つの規制問題として,労働法に関係するものもあります。
 もしライドシェアが全面解禁されると,その就労形態は,業務委託となると考えられます(そうなるとフリーランス法の適用対象下となるでしょう)。現状のライドシェアでは,雇用形態しかできないので,通常のアルバイトやスポットワークと同様,労働法が全面適用され,その他の問題としては,会社員が副業的にやる場合に,就業規則における副業規定との関係など,副業に関する一般的な論点が出てくるだけとなります。しかし,雇用に限定しないとなると,まさに海外で起きているドライバーの労働者性という論点が出てくることになります。
 おそらく安全性や事故時の責任といったライドシェアでしばしば指摘されている問題について,プラットフォーム事業者の責任を高めようとするならば(上記の緊急提言でも,「ライドシェア会社と乗客との直接の契約を義務付けることにより,事故の際の責任を明確化することで対応することも考えられる」と書かれています),それにより労働者性の問題は解決するかもしれません。というのはプラットフォーム事業者が責任をはたすためには,直接契約をするだけでは不十分で,雇用して指揮命令をすることが必要となるだろうからです。これはライドシェアサービスを業務委託で行ってはならないことと同義であり,これはこれで一つの解決方法ではあります。後発国の日本だからこそ,最初から労働者性の問題を(労働者性を肯定する形で)回避できるという見方もできます。海外では,プラットフォーム事業者が仲介者(契約当事者ではない)としてマッチングをするビジネスモデルから出発し,そのあとから労働者性や使用者性はどうするのか,という既存の法理との関係が問題となったのです。日本はライドシェアビジネスが封じられてきたので,労働法の問題を考えてから解禁ということができそうです。
 では,ほんとうに業務委託型ではダメなのでしょうか。ドライバーのなり手のなかには,隙間時間を使って,空いている自家用車で,困っている人を運び,報酬を多少得て生活の足しにするというような働き方を望んでいる人は少なからずいるでしょう。そういう人は,雇用されなければライドシェアのドライバーになれないというのは,硬直的な規制だと思うかもしれません。そうしてドライバーのなり手が減ると,移動困難者などの問題の解決は難しくなるでしょう。安全の問題は,デジタル技術を駆使して解決できるのではないかと思います。プラットフォーム事業者が,自動車メーカーとも協力しながら,いかにして指揮命令をしないで安全確保をするかが,ポイントではないでしょうか。そして,それは,交通事故の防止といったより一般的な問題の解決にもつながる技術革新へのインセンティブとなるかもしれません。危ないから規制しようでは,なかなか技術革新は生まれないのではないでしょうか。
 整理するとこうなります。現在の技術水準であれば,プラットフォーム事業者の安全責任を重視すると,ライドシェアは雇用形態に限定されるかもしれない(業務委託契約であっても,安全管理をしっかりすればするほど,労働者と判断される可能性が高まる)のですが,安全管理をできるだけ自動的にできるようにし,社内の状況もつねに遠隔で監視できるようにすること(遠隔監視だけであれば指揮命令があるとはいえないでしょう)などができれば,業務委託契約でも安全なライドシェアは可能となり,これはプラットフォーム事業者,ドライバー双方にメリットとなります。デジタル技術を活用して安全にライドシェアサービスを提供したり,利用したりできる社会というのが,DX社会の一つの理想像です。ライドシェア問題は,こういう切り口からも論じてもらえればと思います。

2024年6月21日 (金)

世界史学習の重要性

 昨年の紅白歌合戦にも出ているMrs. GREEN APPLEというグループの「コロンブス」という楽曲のミュージック・ヴィデオ(MV)が問題となっています。日本経済新聞でも,電子版の6月13日に「ミセス新曲MVが公開停止 歴史理解に欠ける表現」というタイトルで紹介されていまいた。「CMに新曲を使っていた日本コカ・コーラは「いかなる差別も容認しない」などとコメントを発表し,同曲を使用した全ての広告素材の放映を停止した」となっていましたが,常識的にはコカ・コーラが事前に知らなかったはずはないので,コカ・コーラも同罪といえそうです。
 このMVのことをもちろん私は知りませんでしたが,YouTubeで,観ることができる範囲で観ました。自分の趣味には合わないものの,それほど騒ぐほどのものかとも思いました。もちろんコロンブスというのは,とんでもないことをやった人であり(Genova 出身のイタリア人で,イタリア名はCristoforo Colombo),アメリカ大陸の先住民にとっては大犯罪者です。
 コロンブスの悪行についてはいまさら紹介するまでもありませんが,そもそも産業革命前の大航海時代に始まる欧州人によるアメリカ大陸や東アジアへの進出は酷いものでした。とりわけスペインやポルトガルが,アメリカ大陸の高度な文明を破壊したことは,人類史に残る蛮行であり,そのことは学校でも教えられているでしょう。ただ世界史は,どの国の立場からみるかによって,描き方もずいぶんと変わります。たとえばオーストラリアの歴史を,(混血を除くと)絶滅したと言われているタスマニア人の視点で書けばどうなるでしょうか。
 世界史の教え方の難しさは,白人文明批判に傾斜しすぎてもいけないのですが,だからといって,今日の私たちが享受している繁栄した文明の原点に,白人の蛮行があったことは否定できないという点にあります。まずは歴史的事実をしっかりおさえて,それをどう評価するかは子どもたちに考えさせるということが必要です。そういうことをやっていれば,今回のコロンブス問題についても,この歌手グループが,もし何か主張があってやったことなら,それはそれで聞いてみようということになるのですが,どうもそういうことではなさそうですね。
 もちろん,日本も他国のことをとやかく言える立場ではありません。明治時代に,西洋国家の植民地にされないよう頑張ったのはよいのですが,西洋国家のマネをして列強の仲間入りをさせてもらい,帝国主義的政策をとったという恥ずかしい歴史もまた拭い去れないものです。日清戦争,日露戦争の勝利と聞くと,何か日本人のプライドをくすぐるようなところがありますが,結局は,欧米のマネをして,仲間に入れてもらおうと頑張り,でも本当の仲間にはしてもらえず,裏切られて虚仮にされてきたのです。先の第二次世界大戦の直前の1939年8月に,ドイツなどとの防共協定の強化に苦心していた平沼騏一郎首相が,総辞職時に述べた「欧州の天地は複雑怪奇……」は ,独ソ不可侵条約の衝撃を示す言葉とされていますが,結局,欧州の情勢をしっかりつかめないままドイツに翻弄されたということでしょう。そのソ連と1941年に日ソ中立条約を結びましたが,1945年4月に破棄通告され,日本政府は最後までソ連を信じていた(条約は更新されないが1946年4月に失効するまでは有効と考えていた)ようですが,結局は,終戦直前にソ連は日本に宣戦布告し,筆舌に尽くしがたいほどの日本人への暴虐を中国大陸でやりましたし,アメリカには広島と長崎に原爆を落とされました。こういう歴史をみると,ひょいひょいと外交の舞台に出ていって,あたかも名誉白人的な気分で仲間に入れてもらい,いろんな負担を押し付けられているような首相をみると,最後は「欧米の天地は複雑怪奇」といって,そのツケを国民に回すのではないかと不安でたまりません。
 さて,コロンブス問題は,企業としては,時代の流れを意識して,企業イメージを損なう表現行為は避けるべきというような話となりますが,より根本には,私たちが世界史をどうとらえているかということと関係します。今回のMVが,なぜダメかということについて,ビジネスの観点から論じるだけではもったいないのであり,せっかくの素材ですから,なぜこれが問題となるのかを,一方的にこのMVはダメだということを押し付けるのではなく,むしろ,MVを支持する理由(表現の自由など)や支持しない理由を挙げながら議論をして論点を浮き彫りにすることが大切だと思います。

2024年6月20日 (木)

新叡王誕生

 将棋話の連投です。ついに藤井聡太竜王・名人の八冠が崩れました。伊藤匠七段が,2勝2敗で迎えた叡王戦5番勝負の最終局で,藤井叡王に勝ち,初タイトルを獲得しました。竜王戦,棋王戦と敗れましたが,ついに叡王戦で藤井竜王・名人を倒しました。21歳と同年齢の二人は,子どものころからのライバルでしたが,プロになってからは大きく差がついていました。伊藤新叡王にとっては感無量でしょう。
 この将棋は,振り駒で先手となった藤井叡王は,途中で飛車を切って,伊藤玉をほぼ裸にして追い詰めたようにみえました。評価値でも70%を超えて,藤井防衛と思った人が多かったと思います。しかし,伊藤七段は粘り強く指し続けて,決め手を与えません。とはいえ,王手飛車取りがかったときは絶体絶命かと思いましたが,藤井叡王が伊藤七段の飛車をとるタイミングは,その瞬間,馬が伊藤玉から遠くに離れて,伊藤玉が安全となりました。ここで伊藤七段は藤井玉に攻めかかります。藤井玉は穴熊で守られていましたが,徐々に剥がされていきます。その後,伊藤七段は,勝勢になりますが, 1手でも間違えればおしまいというところで,正確な手を指し続けて,1分将棋になっても乱れず,藤井叡王を投了に追い込みました。
 歴史的な1勝でしょう。藤井竜王・名人にとって,タイトル戦での初の敗北(失冠)であり,全冠(八冠)制覇が終わりました。それでも七冠というのはすごいのであり,今回の伊藤叡王の誕生でも,藤井一強時代がただちに崩れるとは思えません。とはいえ,タイトル戦で藤井竜王・名人から3勝したことの意味は大きいと思います。藤井有利になっても,ひっくり返すことができる力があるのは,いまのところ伊藤叡王以外にはいないでしょう。両者の対戦成績はまだ差はありますが,今後は5分になっていくのではないでしょうか。もちろん二人が,真のライバルとなるためには,伊藤叡王は,あと2,3はタイトルを奪取したいでしょう。現在,タイトル戦の途中である棋聖戦は山崎隆之八段が挑戦しており,次のタイトル戦の王位戦は渡辺明九段の挑戦が決まっています。さらに挑戦者決定トーナメントが進行中の王座戦やこれから始まる竜王戦では,伊藤叡王はすでに敗退していますし,王将戦も1次予選で敗退しているので,当分は伊藤叡王がタイトルに登場する機会はありません。早くても来年の棋王戦となるでしょうが,それまでは藤井七冠は,タイトルをすべて維持している可能性は高いでしょうね。

2024年6月19日 (水)

棋聖戦第2局

 藤井聡太棋聖(八冠)に山崎隆之八段が挑戦する棋聖戦5番勝負は,藤井棋聖の先勝で始まり,一昨日の17日,第2局が行われました。結果は,藤井棋聖の勝利でした。後手の山崎八段が飛車を2筋に振る向い飛車戦法を採用しました。評価値は初手から最後まで藤井棋聖優位のままでした。見せ場はいろいろありましたが,藤井棋聖は冷静に対応してノーミスで乗り切り,最後は,見事に山崎玉を詰ましました。なんとか1つは山ちゃんに勝ってもらいたいですが,相手が強すぎますね。
 順位戦も始まりました。C級1組は井上慶太九段などベテラン勢が頑張ったことが話題になりましたが,井上九段の弟子で藤井八冠,伊藤匠七段に次ぐ若手有望棋士である藤本渚五段も勝利でスタートです。昇級の最有力候補でしょう。B級2組は,井上九段と同じ還暦棋士である谷川浩司17世名人の今期はどうでしょうか。順位は5位と昇級に向けては良い位置にいますが,今期は対戦相手が厳しいです。初戦は高崎一生七段に快勝でしたが,このクラスは,今期はC級1組からの昇級組の3人が強いのです。一人は叡王にあと1勝の伊藤七段で,初戦は横山泰明七段に勝ちました。あとの二人のうち,服部慎一郎六段は強敵の丸山忠久九段に勝ち,古賀悠聖六段も北浜健介八段に勝ちました。谷川17世名人は,40歳下のこれら若手3人との対戦があるので,ぜひ壁になってもらいたいです。C級2組は,所属棋士が多いので2日に分けられます。1日目はすでに終わりましたが,このクラスは,実績十分なもののなぜか抜け出せていない佐々木大地七段と八代弥七段が注目です(毎年注目されていますが)。ともに白星でスタートしましたが,対戦相手をみると佐々木七段は今期こそ昇級の大チャンスです。順位戦では冴えないけれどタイトル挑戦経験のある本田奎六段あたりを乗り越えれば大丈夫でしょう。ただこのクラスは1敗でもすると危ないです。佐々木七段の順位は14位とあまりよくないので,全勝で乗り切りたいところです。
 A級順位戦も始まりました(最後の2局以外は,一斉対局ではありません)。初戦は,佐藤天彦九段が永瀬拓矢九段に逆転勝ちで好発進です。ここ何年かは佐藤九段はなかなか挑戦権にからめていませんが,振り飛車転向で新境地を切り開き,名人復位に向けた挑戦権の獲得に期待がでてきています。昨日は,A級1年目の増田康宏八段が,菅井竜也八段に勝ちました。菅井八段はA級では,過去4年は5勝4敗を3回あげて安定しています。今期こそ名人戦挑戦権をつかみたいところでしょうが,出だしでつまずきました。
 明日20日はいよいよ叡王戦の最終局です。このほかB級1組が始まり,C級2組の残りの対局もあります。

2024年6月18日 (火)

復職は4割?

 昨日の日本経済新聞において,「解雇無効で勝訴の労働者,『4割』も復職 厚労省調査」という記事が出ていました。「労務関係者には勝訴後も大半は退職するとの見方が多かったため,復職率の意外な多さが注目を集めている」と書かれていまいた。「労務関係者」は誰を指すのかはさておき,これまでは解雇裁判で労働者が勝訴しても,実際には復職が困難で解決金を得て退職する例が多いので,それであれば,法律で金銭解決制度を導入したほうがよいという主張を私もしてきました。
 では,記事で書かれているように,退職する例が少ないとなると,私の主張の前提が崩れるのでしょうか。まず,記事では,「勝訴後に復職した労働者のうち19%は退職していたことがわかった」とも書かれています。多くの「労務関係者」が退職する人が多いというときには,この復職後の退職を念頭に置いているのであり,結局,全体で3割近くしか復職していないということであれば,解雇の金銭解決の必要性を疑問視しなければならないほどのことではないでしょう。「「4割」も復職」という表現は意外感を与えて読者をミスリードするものであり,気をつけなければなりません。
 また,約3割は復職したままであるという事実についても,評価は難しいところがあります。解雇裁判で労働者が勝訴しても結果的に退職していると考えられていたのは,人的な信頼関係が重視される労働関係において,解雇という極限的なことを企業が行い,労働者が企業を訴えるというこれもまた極限的なことを行ったあと,信頼関係が復元することは困難であるという推察が前提にあり,そのことが,退職例が多いという形で実証されていると考えられてきたのです。上記の推察が正しいとなると,退職例が少ないのは,もっと悲惨なことが起きていることを示唆しています。つまり企業は辞めさせたくても,十分な解決金を払えないので辞めてもらえなかったり,労働者は辞めたくても,再就職は容易ではないなどの理由で,十分な解決金が払われなければ辞められない,ということがあったり,さらにその両方が生じているので,退職が起こらず,仕方なく労働関係が継続している可能性があるのです。そうだとすると,この点からも私たちが提唱する「完全補償ルール」による解雇の金銭解決制度の導入が必要となります。今回の調査の実物を私はみていないので,これらの点はきちんと説明がされているのかもしれませんから,最終的な論評は留保しておきます。
 なお,解雇については,大内伸哉・川口大司編著『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(有斐閣)の冒頭で書いているように,「許されない解雇」と「許されうる解雇」があり,「許されない解雇」は,差別的解雇や報復的解雇のような文字どおりに許されてはならない違法な解雇であるので,解雇無効判決後に退職しない労働者がいても不思議ではありません(たとえば労働組合の役員に対する反組合的解雇が無効となれば退職しないのは当然です)。また,一応「許されうる解雇」の範疇に入っても,解雇事由がそもそも存在しないような解雇などは,実質的には「許されない解雇」であり,やはり退職しない労働者がいてもおかしくありません。こういう解雇も少なくないであろうと予想されることから,復職者が3割程度であれば,それほど違和感はないのです。解雇規制で最も重要なのは「許されうる解雇」をどう扱うかにあり,金銭解決のターゲットは,「許されうる解雇」にあるのです。

2024年6月17日 (月)

AIと倫理

 6月12日の日本経済新聞で紹介されていたFTの翻訳記事「AI,脱炭素に祝福と呪い 電力を大量消費する利点は」は,AIと環境問題との関係を考えるうえでの重要な問題提起しています。「最新のAIモデル用のデータセンターは,途方もない量のエネルギーと冷却用の水を消費する。気候変動という喫緊の課題に関して言えば,AIは解決策というよりも,むしろ問題を引き起こしているのではないだろうか。」というのです。
 私の立場は,今後,AIの活用が進み,本格的なAI社会が到来することを前提に労働政策を考えるべきだというものです。しかし以前から指摘されている環境負荷の問題について,いまだに明確な解決策が示されていないということであれば,AI社会の到来という前提それ自体に疑問が出てくるかもしれません。
 EUのAI法をはじめ,日本政府も推奨しているAIの国際規制といった動きは,AIの軍事利用などの特定分野での利用の禁止や制限にはつながるものの,「適正な」利用ができれば,それまでを抑制しようとするものではありません。たとえば,EUのAI法も,最小リスクのAI利用のカテゴリーになると規制はありません。
 ところがいくら適正に利用しても,環境に大きな負荷を与えるならば,その利用を抑制せざるを得なくなります。人類の生存が最優先の課題であることは言うまでもありません。記事では,「AIが環境に与えるマイナス面があまりに明白であることを踏まえると,その良い面を把握することはなおさら重要だ」と書かれていました。AIを使って気候を制御することができても,それにより環境破壊が進むと意味がありません。巨大IT企業には,その社会的責任として,AIのもたらす地球環境へのプラスとマイナスに関する分析を含め,いかにして地球の持続可能性に配慮し,実際に取り組んでいるかということについて,情報発信をし続けてもらう必要があり,政府やマスメディアは,私たち国民にその情報をわかりやすく伝える必要があるでしょう。
 サミットのテーマが軍事や経済の話に偏りがちななか,ローマ教皇Francesco(イタリア語読み)が人類の最大の問題にAIがあるとして演説をしたのはさすがであると思います(イタリア語でなされたスピーチはYouTubeで全部観ました)。技術は決して中立的なものではないのであり,使い方次第では害悪をもたらす,AIは道具(strumento)なのであり,それを利用する場合の倫理(etica)が重要だ,と言っていました。教皇は,algoreticaという聞き慣れない言葉を使っていましたが,Vaticano(バチカン) のAI問題への取り組みに向けた本気度がうかがえます。最後には「sana politica」という言葉を繰り返していました。「健全な政治」という意味でしょう。G7という政治舞台にわざわざ登場したローマ教皇からの強いメッセージです。現在の世界のリーダーたちで大丈夫でしょうか。

2024年6月16日 (日)

交流戦が(ほぼ)終わる

 一昨日あたりから,少し咳が出て気管支に不快感が出てきました。これが出てくるとかなり長引くというのが,いままでのパターンですが,例年は冬から春であったのが,今年は梅雨入り前の時期で,ちょっと感じが違います。桂ざこばさんが喘息で死亡したと聞いて驚いていますが,たかが咳と軽視してはならないと改めて認識しています。プールに通うことも考えましょうかね。
 話は変わり,プロ野球は,交流戦が終わりましたが,この間,阪神ファンにとっては辛い試合が続きました。日本ハムとの,雨で流れた甲子園での試合が1つ残っていますが,現時点で611敗で「Booby賞」確定です。もっと負けている感じですが,投手陣の頑張りで,まだこの程度の成績でとどまっています。他のセ・リーグのチームも,それほど勝っているわけではないので,まだ2位にとどまっていて,首位の広島と3ゲーム差で十分に射程圏内ですが,あまりに打てない試合で,観ていてフラストレーションがたまります。木浪の骨折は痛いですが,ライバルの小幡の調子が出ていないので,ルーキーの山田脩也を抜擢してもよいのではないでしょうかね(岡田監督は,そういうことはしそうにないですが)。大山の不調はとてつもなく痛いですが,今シーズンは大山に期待せずに乗り切れないかと思いはじめています。ノイジー(Neuse)も使わないでよく,サトテルは守備が少しましになったようなので,しばらくは3塁で様子をみて,外野は前川,近本,森下で固定してよいでしょう。

 

 

2024年6月15日 (土)

PugliaサミットとMeloni首相

 日本では,今回のG7サミットは,プーリア・サミットと呼ばれています。プーリアはPugliaと書いて,「リ」は「li」でも「ri」でもない「gli」で,日本人には発音が難しい言葉です。
 ところで,イタリア国内はいろんな町に行ったつもりではありますが,Puglia州は,BariとLecceくらいで,その他のところには行っていません。今回サミットが開催されたホテルは,Borgo Egnaziaというホテルで,初めてその名前を知りました。アドリア海(Mar Adriatico)に面しているリゾート地のようですね。ホテルのあるPugliaは州(Regione)の名前で,県(provincia)の名前でいえばBrindisi,市町村(comune)の名前でいえばFasanoです。まあFasanoサミットと呼んでもよいかもしれません。場所は,Pugliaの州都のBariとBrindisiのちょうど中間にあります。
 Bariは,イタリア労働法の大物であったGino Gigni が教えていたこともあるBari大学があり,山口浩一郎先生の親友のBruno Veneziani 教授もいました。私も山口先生の紹介でBrunoに会いにBari大学に行ったことがありますし,Brunoには日本で講演をしてもらったこともあります。ということで,Bariには縁があります。Brindisiは降りたことはありませんが,移民が流れ着く港のある町として有名です。
 今回のサミットで,Giorgia Meloni イタリア首相は,開会挨拶(discorso d’apertura)で,サミットの場所をここにしたのは偶然ではないと言っています。南部(sud)の州を選んだのは,グローバルサウス(sud globale)の国々との対話をしたいというG7議長国としてのイタリアのメッセージが込められているとし,またこの場所は,西洋と東洋の架け橋となるところであり,大西洋とインド太平洋とを結ぶ中間にある地中海の中心場所という意味もあると述べています。排外的な主張をする極右政治家とはまったく違う,まさにG7の議長国にふさわしい世界情勢を視野に入れた政治家という姿を見せようとしていたと思います。
 ところで昨日の日本経済新聞で,「メローニ伊首相,欧州の「陰の権力者」に  保守束ねEUで発言力」というタイトルの記事が出ていました。たしかに,Meloniが率いる「イタリアの同胞(Fratelli d‘Italia)」はサミット直前にあった欧州議会選挙でイタリアに割り当てられている76議席のなかで最も多い24議席を獲得しました(得票率は28.8パーセント)。また,Meloniが率いる欧州議会内の欧州保守改革党(ECR)は,第4勢力に躍進しました(720議席のうち76議席)。このほかは,中道右派の最大グループで,EU委員長のvon der Leyenが率いる欧州人民党(EPP)が190議席のトップで,イタリアの同盟(Lega)やフランスのLe Penが属する国民連合(Rassemblement National)などが参加するID(アイデンティティと民主主義グループ)は58議席を獲得しています。Meloniは,経歴からすると,極右と呼ばれても仕方がないのですが,首相になってからは,欧州と歩調を合わせて,現実的な政策をとり,保守勢力をうまくとりこんでおり,日経の記事に書かれているように,今後,EU内でも影響力を高める可能性(ある立場からは危険性)があります。今回の堂々たる演説からもわかるように,欧州を率いるような大政治家に化けるかもしれません。最近のイタリアの政治情勢をきちんとフォローしていているわけではありませんが,少なくとも今回出席した首脳のなかで,彼女が今後最も長くサミットに参加しそうな人ではないかと思いました。

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