2022年10月 7日 (金)

ミサイルと海の環境被害

 北朝鮮がミサイルを撃ち続けていますが,陸地や船舶・飛行機などに落ちてきて人的被害が出ないかとても心配で,ほんとうにやめてもらいたいです。もしJアラートが鳴ったらどうしましょうかね。どこに逃げたらいいのか,よくわかりません。あんなミサイルが落ち来たら,家の中にいても意味がありませんよね。各自治体はあちこちに巨大なシェルターをつくる必要があるのかもしれませんね。
 人的被害がでなければよかったというものでもありません。ミサイルが海に落ちたあと,どうなるのでしょうか。海はゴミ箱ではないのであり,落とした以上,拾ってもらいたいものです。それに有毒な物質が含まれている可能性が高いでしょう。
 人的被害が一番の懸念事項ではありますが,環境問題という観点からも,ミサイルを撃つこと,さらには軍事演習で海にミサイルを落とすことについて,もっと批判的な目を向ける必要があると思っています。どうしても演習でデータを得ることが必要というのであれば,デジタルツインの活用などもできるのではないでしょうか。
 「海は広いな大きな」ということで,有害物質を流し込んだり,いろんなものを投棄したりしても大丈夫と考えがちです。原発の汚染水の海洋放出なども,政府は健康に被害がないといいます。たしかに,少々のことならそうなのかもしれませんが,世界中でそういう小さなことが積み重ねられると,長い年月を経て海の生態系に影響し,ひいては人間の健康にも影響がでるのではないかと気になるところです。
 日本には水俣病などの悲惨な過去があります。あそこまでひどい有害物質(有機水銀)が放出されることは,今日ではないと信じたいですが,それでも不安はあります。動物性のたんぱく源は,歴史的にも長い間,陸上の動物の肉ではなく,魚に頼ってきた日本人にとって,海や川のきれいさにはこだわるという感覚が,DNA的にあるはずだと思うのです。
 北朝鮮の暴挙は論外ですが,軍事演習でも人的被害や物的被害がないだけで安心せず,要するに,「お魚さん」に被害がでないようにしてもらいたいものです。そういうことを言うと,どれだけの被害があるかの科学的データを出し,軍事演習の効果と照らして判断すべきというような議論になるのかもしれませんが,環境被害の数値化はできるのでしょうか。国土を守るためだから,環境は二の次というのにはやや抵抗があります。甘い議論なのかもしれませんが。

2022年10月 6日 (木)

やっぱり米が好き

 日本経済新聞の926日の電子版にあった「自治体が相次ぎ小麦の生産拡大を支援している。需要が減少傾向にあるコメからの転作を促し,農家の経営安定を目指す。」という記事に目がとまりました。米の需要がどんどん減っているそうで,減反政策も終わり,農家は競争力のある農業生産に取り組まなければなりません。ウクライナ戦争で,小麦不足が言われるなかでは,小麦への転作がいっそう進むのはやむをえないのかもしれません。
 私も若いときには,毎回の食事がずっとパンでも大丈夫でした(それに耐えれなければ留学はできませんよね)。でも徐々に,1日1回は米を食べるようになり現在に至っています。白米も玄米も好きです。もちろんパスタも好きですが,最近は米粉のパスタも悪くないと思っています。パンも米粉のものがあり,味は私には悪くありません。なんとか米をいっぱい食べて,米作で頑張る農民を応援したいです。みんなもっと米を食べましょう。私自身は,食事の量が減っているので,米をたくさん食べるといっても限界があります。11回米を食べるというのは朝のことで,夜はおかずしか食べないようにしています。米にしろ,小麦系のものにしろ,12回以上食べれば,体重が増えてしまいます(もちろん量によるのですが)。だから11回なのですが,米がなくなれば困ります。インディカ米やタイ米はパエリアにはよいでしょうが,日常の食事には物足りません。ということなので,若者にはもっと米を食べてもらいたいです。ハンバーガーが好きな人は,映画「Super Size Me」を1回は観ておく必要があるでしょう。
 おいしい米は,ふりかけなどがなくても,それだけですばらしい味がします。旅館で食べるブランド米となると極上の味で,何もかけなくても,何杯もお代わりできてしまいます(体重の面では危険ですが,幸か不幸か,日常生活ではなかなか手が出ない価格なので,その点は心配ありません)。おいしい米の伝統を守り,日本の素晴らしい食文化を,なんとか残していきたいものです。

2022年10月 5日 (水)

古川景一・川口美貴『新版 労働協約と地域的拡張適用―理論と実践の架橋―』

 古川景一・川口美貴『新版 労働協約と地域的拡張適用―理論と実践の架橋―』(信山社)をいただきました。旧版に続き,どうもありがとうございます。旧版は,近年では,ほとんどあまり研究がされていない労働協約の地域的拡張適用(労組法18条)について本格的な分析検討を加えた唯一の文献といえるものでしたが,ちょうど家電量販店での地域的拡張適用が認められる事例(UAゼンセンヤマダ電機労働組合他事件)が出てきたこともあり,新版では,その情報も追加してアップデートされています。
 本書では,地域的拡張適用には,労働者間の公正な競争だけでなく使用者間の公正な競争という意義があり,さらに協約締結使用者の利益に資することに何度も言及されていますが,労働条件が有利に拡張される場合,拡張適用される側の使用者の利益をどう考えるのかという問題がありそうです。当該労働協約の締結主体である使用者ではないという状況は,公正な労働条件の適用を免れているという場合もありえるでしょうが,自分たちの経営体力からすると,高い労働条件は提示できず,労働者もそれに納得して同意している可能性もあります。拡張適用のもつ強制的な性格は,労組法17条の場合によく議論してきましたが,18条の場合にもあてはまるものでしょう(なお,UAゼンセンヤマダ電機労働組合他事件では,協約外使用者2社のうちの少なくとも1社は,拡張適用される協約の条項よりも有利な規定をもっているので,この点は問題となりませんでした)。この点は,具体的には,労働委員会の決議や厚生労働大臣または都道府県知事の決定の際に考慮される事項かが問題となるのでしょう。前に紹介したことがある季刊労働法277号の山本陽大さんの論文「労働組合法18条の解釈について」では,労組法182項で,労働委員会に協約の修正権限が認められていることを考慮して,拡張適用の妥当性についても労働委員会に判断を行わせるのが適切と述べています(26頁)。一方,本書では,労働委員会の裁量を認めることを否定します(2956頁)。ただ,それについての次のような理由付けにはやや疑問があります。
 「労働委員会の裁量を肯定すると,使用者や使用者団体等から地域的拡張適用に対する反対意見が出されたとき(特に協約当事者以外の使用者については想定しうる),使用者等の反対を押し切って地域的拡張の決議に賛成した公益委員については,「公正さを欠いており,再任の際には使用者委員の同意見(ママ)を行使して不再任とするのが相当」との批判や圧力を防ぐことができず,地域的拡張適用が事実上困難となるところ,使用者等の反対による拡張適用ができないのであれば,同制度の存在意義自体が揺らいでしまうであろう」。
 不再任となるのを恐れて使用者側の意見に従うような公益委員がどこまでいるのかわかりませんし,そんなことを言ってしまえば,不当労働行為の救済命令だって,参与意見における使用者委員の意見に従った命令が出ることになりそうです(労組法27条の12第2項を参照)が,実際にはそういうことはないでしょう。ここで重要なのは,労組法18条が,協約適用外の使用者(および労働者)の意思に反して適用される強制的な性格をもつことで,その利益をどこかで考慮する機会がなければならないのではということであり,そのための適切な場としては,労働委員会以外はないであろうということなのです。労働委員会に裁量を認めても,(本書が懸念するように)使用者側が反対したから直ちに拡張適用ができなくなるというわけではなく,使用者側の反対の理由が妥当なものでなければそれを重視しないことは十分にありえます。この程度の判断をすることを労働委員会に認めないようでは,労働委員会制度はそもそも成り立たないのではないかと思います。労働委員会の判断の適否は,決議の内容から事後的に検証されるのであり,そうしたチェックで十分たと思います。ということなので,私は山本説と同様,労働委員会の裁量肯定説に立ちたいです。
 この問題は不利益変更のケースでは,いっそう深刻な話となるでしょう(本書では300頁を参照)。労働協約の効力を,私的自治的正当性の観点からみていこうとする私の立場からは,強制的な拡張適用の正当化をどのように行うかという原理的論点に,どうしても関心が向いてしまいます(なお, 日本労働研究雑誌の最新号747号の桑村裕美子さんの論文「労働法における集団の意義・再考」28頁でも,協約外の労使との利害調整の問題に言及していますので参考にしてください)。17条については,同種の労働者の4分の3以上という要件による高度の民主的正当性によって,私的自治的正当性の欠如を補う(したがって,不利益変更の場合でも裁判所の内容審査をすべきではない)というのが私の立場です(拙著『労働条件変更法理の再構成』(1999年,有斐閣)308頁以下)が,そこでは論じていない18条について,改めて考えてみると,私的自治的正当性の欠如を補う民主的正当性が,「労働者の大部分」への適用では弱く,そうすると労働委員会の決議のところでチェックせざるをえず,しかし,これでも私的自治正当性の欠如を補充するのには不十分なので,司法審査を受けなければならないという結論になりそうです。四半世紀前の宿題という感じで,いつかしっかり議論したい論点です。
 いずれにせよ,18条の立法論的な妥当性,および諸々の解釈論的論点は,同条の趣旨をどう捉えるかというところが重要となります。本書は,私とは違う立場ではあるものの,お二人の壮大な労働協約論のなかで地域的拡張の問題も一貫した形で展開しようとされている点で重要な文献だと思います。

2022年10月 4日 (火)

首相の所信表明演説

 臨時国会が召集され,岸田首相が所信表明演説をしました。そのなかで,「物価高・円安への対応」,「成長のための投資と改革」と並ぶ重点分野の一つに「構造的な賃上げ」が挙げられていました。「構造的」とは何だろうと思いましたが,日本経済新聞の今朝の朝刊では,リスキリングの1兆円パッケージは就職後に改めてスキルを高めた人材が成長分野に移り,生産性を高めて賃上げにつなげる好循環を狙い,「賃上げと労働移動の円滑化,人への投資という3つの課題の一体的改革に取り組む」と説明したとされているので,これが「構造的」ということなのかもしれませんね。
 人への投資⇒リスキリング⇒スキルアップにより,高い賃金を支払ってくれる企業に移動していくという流れは理想的ではありますが,このきれいなシナリオに欠けているのは,自分でキャリアを切り拓いていこうとする自立志向の労働者の存在です。職業教育というとリスキリングのような話になるのですが,これを成功させるために一番必要なのは,労働者の意識改革です。きれいなシナリオは,もちろんまず書かなければならないのですが,それだけでは社会は動きません。私は,そういう問題にずっと前にすでにぶつかっていて,新書などを書いていろいろ訴えてきたのは,労働者や国民に意識を変えたほうがよいというメッセージを届けたかったからです。光文社から20141月に刊行した『君の働き方に未来はあるか?』は,そういうメッセージを込めたものですし(昨年,大阪のある高校の国語の入試問題に使われたのを知って驚きました),文藝春秋から20192月に刊行した『会社員が消える』も同様です。もちろん,私の本くらいではインパクトが弱く,国民の意識改革には不十分でしょう。為政者からの力強いメッセージこそ必要なのですが……。
 また,首相は,年功序列的な職能給からジョブ型の職務給への移行も含め「企業間,産業間での労働移動の円滑化に向けた指針を来年6月までに取りまとめる」と話したと記事には書かれていました。まずは官邸がスローガンをぶちあげて,6月の閣議決定までに官僚にアイデアを出させるという,いつものパターンでしょかね。ただ,こういうやり方では,スピード感はでますが,促成栽培で内容がスカスカなものになりかねません。指針をバンバンだすというのは最近の流行ですが,じっくり構想を練って熟議した立法というものも,期待しています。

 

 

2022年10月 3日 (月)

タイガースCS進出

 阪神タイガースは,レベルの低い3位争いを勝ち抜き,クライマックスシリーズへの進出を決めました。矢野監督は,今年で退任する意向をシーズンの始まる前からすでに表明しており,後任には監督経験者の岡田彰布氏が復帰するようです。矢野監督は4年連続Aクラスというのは見事ですが,昨年,首位を独走しながら大逆転されたことなどもあって,結局,優勝はできませんでした。阪神ファンはやはり優勝を望んでいるのでしょうね。いまさら岡田かという声もあるようですが,ここは優勝経験のある監督に託そうというところでしょう。
 矢野監督の野球は手堅く勝ちに行くということではなく,ドラマを求めるタイプだと言われています。ここで彼が抑えてくれれば,あるいは打ってくれればいいなというような感覚で選手起用をするようです。選手思いなのはよいですが,相手方からすると,くみしやすいと思われていたかもしれません。それでも,ここまで勝てたのは,盤石の投手陣がいて,積極走塁などが功を奏していたのでしょう。しかし捕手を固定できなかったこと,チームの主軸打者である佐藤や大山のポジションを動かしすぎること,外国人打者に恵まれず,その起用にも疑問があったことなど,頂点を目指すには足りないものがあった感じもします。
 藤浪のポスティングや西勇輝の移籍なども噂されていますが,高橋遙人が来年の途中には戻ってくるでしょうし,投手陣はなお豊富であり,それほど大きな損失にはならないでしょう。あとは投手と打者に1人ずつでも良い外国人を獲得できれば十分です。ただ,それが簡単ではないのですが。
 CSはおまけという感じもしますが,選手は岡田新監督へのアピールもあるでしょうから,真剣に戦うでしょう。苦手の横浜球場でのDeNA戦から始まるのは試練ですが,ここを突破すれば,今期はヤクルトとは互角に戦ってきたので,56号の「村神様」さえ注意すれば,ひょっとしてという期待が出てきます。思えば開幕戦でヤクルトに7点差を逆転されたという衝撃の敗戦が,今期の躓きの始まりでした。藤浪の勝ちが消え,その後を投げて打たれてしまった斎藤も岩崎もケラーも苦しいシーズンとなりました。岩崎はケラーに代わって,抑えに抜擢されて,そこそこ頑張りましたが,岩崎が打たれて負けた試合もかなりありました。呪われた開幕試合の挽回をするためにも,ぜひDeNAに勝って,ヤクルトにチャレンジしてもらいたいですね。

2022年10月 2日 (日)

東野圭吾『沈黙のパレード』(文春文庫)

 映画化で話題になっている作品です。最後のどんでん返しが秀逸でした。以下,ネタばれあり。
 あるゴミ屋敷で火事が起こり,そこから二つの白骨死体が出てきました。一つは,その家に住んでいた老女で,もう一つは身元不明の女性です。どちらも火災が原因で死亡したわけではありませんでした。身元不明の女性は,その3年前に行方不明になっていた並木佐織で,菊野市の商店街にある料理屋「なみきや」の長女でした。佐織は歌手志望で,新倉という音楽家の下でレッスンを受けており,新倉は彼女の才能に大きな期待をかけていましたが,突然行方不明になっていました。老女のほうは,死後6年くらい経過しており,その息子の蓮沼は,23年前にある少女殺害事件の容疑者でした。その事件で,蓮沼は完全黙秘をつらぬき,結局,自白がとれなかったため無罪となりました。佐織の件でも,蓮沼につながるものがありました。彼女は店でトラブルを起こしていたことなど,さまざまな状況証拠から蓮沼が犯人である可能性は濃厚でした。23年前の事件で苦汁を飲まされた,当時駆け出しだったの刑事の草薙が,今度は係長としてこの事件を担当することになりました。しかし,今回も送検はしたものの,検察は起訴してくれませんでした。蓮沼の自白はなく,物的証拠も足りないというのです。保釈された蓮沼は菊野市にやってきて,かつての会社の同僚の増村の部屋に転がり込んでいましたが,あるとき蓮沼が増村の部屋で窒息死した状態で発見されます。殺害された可能性は濃厚ですが,蓮沼に恨みをもつ者は,佐織の父,その級友の戸島,佐織の婚約者であった高垣,佐織を指導していた新倉らたくさんいました。そしてどの人にもアリバイがあり,しかも誰も,この事件について何も語りませんでした。
 そこで登場してくるのが草薙から相談を受けた湯川教授です。彼は,蓮沼殺害のトリック(仮装パレードで使う宝箱をつかって液体窒素を運び,それをつかって睡眠薬で眠っている蓮沼を窒息させる)を見破ったのですが,さらにこの事件が23年前の事件と関係していることを指摘し,そのおかげで,草薙らは蓮沼と増村の過去を結びつけることに成功しました。そして徐々に,この犯行が,多くの人の蓮沼への恨みをつむぎながらなされたことがわかっていきます。ただ,蓮沼を実際に殺害したのは,思わぬ人が,思わぬ理由によるものでした。
 沈黙を通して無罪や不起訴を勝ち取ってきた蓮沼に対して,佐織を思う商店街の人たちが沈黙戦術で復讐しようとしたのですが,湯川はそれを許しませんでした。久しぶりに東野ミステリーを堪能しました。

 

2022年10月 1日 (土)

営業秘密侵害罪

 かっぱ寿司を経営するカッパ・クリエイトの田辺社長が逮捕されました。容疑は,不正競争防止法の営業秘密侵害罪だそうです(21条)。法人も両罰規定(22条)により送検されるようです。
 報道されているところによれば,はま寿司の取締役であった田辺社長が,カッパ・クリエイトに移籍することになり,それにともない仕入れ先データなどを持ち出して,社内で共有し,使用したということのようであり,これをサポートした社員も逮捕されています。かっぱ寿司も,はま寿司も行ったことがありません(どちらも,神戸にはほとんど店舗はないようです)が,両者は似たビジネスモデルを採用していたそうで,ライバルに差をつけられていたかっぱ寿司はかなり危機感をもっていたようです。いかによい品質のネタを安く仕入れるかが勝負の業界だそうで,そうなると,仕入れ先のデータは,業績に直結する最重要データなのでしょう。それを盗まれては,たまったものではありません。同業他社間の移籍となると,当然,こういう秘密持ち出しの危険性は出てくるわけですが,これまで耳にすることが多かった,従業員による技術情報の持ち出しのケースとは異なり,経営幹部が仕入れ先などの営業情報の持ち出しをしたということで,カッパ・クリエイトの企業イメージは大きな打撃を受けることになるでしょう。営業秘密侵害罪では,たとえば営業秘密の取得は「十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する」となっていて,決して軽い犯罪ではありません(211項柱書)。営業秘密の取得についての法人に対する罰金は,5億円以下となっています(2212号)。
 営業秘密の定義は,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」(2条6項)で,秘密管理性,有用性,非公知性という3要件が定められています。実際には,営業秘密とは何かをめぐって争われることもあります。企業としては,事後的に,損害賠償請求をしたり(不正競争防止法では,立証活動の困難性を考慮して,損害額の算定規定があります[5条]),行為者や法人に処罰を求めたりするよりも,事前に侵害を防止することが大切であり,そのためにも秘密管理の強化が求められることになるでしょう。労働法的には,退職時に秘密保持契約を厳格に結んだときの,その有効性というのが典型的な論点としてありますが,実は,これは民法90条の公序良俗違反という一般条項を用いるものにすぎず,その有効性の判断基準は明確ではありません。労働法では,この問題はむしろ不正競争防止法の問題であるという意識が強く,授業でもほとんど扱わないように思います。
 秘密保持契約を結ぼうが,不正競争防止法での刑事罰の厳格化がなされようが,一定の効果は期待できるもののやはり限界があり,根本的な解決手段は,データの持ち出しをいかにしてテクノロジーで阻止するかにかかっているように思います(デジタル・フォレンジック(Digital forensics)の導入なども予防効果があるでしょう)。

2022年9月30日 (金)

「ちむどんどん」最終回

 昨日,理研の雇止めのことを書いたら,今日の日本経済新聞の記事で,理研が雇用上限の10年を撤廃するということが報道されていましたね。自主的に使用者側がこういう対応をするのであれば問題はないと思いますが,昨日ふれたようないろいろな問題が解決されたかどうかは不明で,今後の展開を見守りたいです。
 話は変わって,今日は昼食中に,「ちむどんどん」の最終回を観て,そのあとネットで大リーグの大谷翔平投手が,ノーヒット・ノーランを継続中という情報をキャッチしたので,あわててその試合をBSで観ました。残念ながら8回ツーアウトからヒットを打たれてしまい,そこでちょうどWebミーティングの時間が近づいていたので,仕事に戻りました。無事に15勝をあげたということで,よかったです。打たれたヒットは,遊撃手のグローブにあたっていたので,ちょっともったいなかったですね。8回表に先頭打者で内野安打を打って,ずっと塁に出ていたので心配していましたが,その影響で打たれたというわけではなさそうです。いずれにせよ見事な投球です。異次元の選手であり,どこまで成長するか楽しみです。
 「ちむどんどん」は,全回観ました(朝ドラだから朝に観るということではなく,NHKプラスで好きな時間に観ていました)。私は,これはコメディと思って観るべきだと思っていました。でも沖縄料理やイタリア料理のことを詳しく紹介してくれるなどの付加価値もありました。それに吉本新喜劇でも,ほろっとさせるところがあるのと同じように,家族や恋愛をめぐる喜怒哀楽のストーリーがふんだんに盛り込まれていて,こういうもろもろのサービス精神旺盛なところがよかったです。貧しい家庭が,そんなに大成功しなくても,幸せに子だからに恵まれて終わるというフィナーレも感動的というほどではありませんが,悪い後味ではありません。ということで,私は少数派かもしれませんが,この番組はとても素晴らしいと思っていて,番組が終わるのが悲しいです。

2022年9月29日 (木)

理研の大量リストラ問題について

 理化学研究所において有期雇用の研究者の大量雇止めが話題になっています。事件の詳細はわかりませんが,おそらく労契法18条の無期転換ルールの影響でしょう。5年の無期転換が科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(イノベ法)で10年になっているので,(同条施行の2013年4月から起算して)20183月に起こるはずであった有期の研究者の雇止めが20233月まで引き延ばされていましたが,いよいよ「そのとき」が来ているということです。前に専修大学事件の東京地判で語学教員の事案について紹介しましたが,今回は一線の研究者も含まれているようなので,より事態は深刻です。
 労契法18条は悪法ですが,本来5年(イノベ法などの適用があれば10年)も雇っているなら無期にせよという理屈は,わからないではありません。ただ,これは有期にするか,無期にするかを,5年あるいは10年のところまでに判断せよということでもあり,そこで無期にならなかったら雇止めになるということを織り込み済みの法的ルールなのです。その意味で,無期転換回避目的の雇止めは違法という理屈はやや苦しいところがあると考えています。
 もちろん雇止めは簡単にはできるわけではありません。かつての判例の雇止め制限法理を成文化した労契法19条があるからです。ただ,同条は,10年の期間を超える更新の期待に合理的な理由がないと判断されれば,雇止めそれ自体の正当性審査に入るまでもなく雇止めが有効となる可能性のある規定でもあります。財政的に余裕がない研究機関側が,労契法19条の制約を乗り越えて有効な雇止めを行う方法は,この法理に詳しい弁護士などに聞けば,それを見つけ出すこと(不更新条項,更新上限条項など)はそれほど難しくないでしょう。かりに,このような方法を使用者が模索したとしても,その行動を頭ごなしに非難することはできないと考えています。
 もちろん,無期にできないから雇止めにするというのは,研究者側にはやりきれないところがあるでしょう。ましてや,それが無期で雇うだけの財政的余裕がないということであれば,財政支援を十分にしない国を恨みたくもなるでしょう。ただ,これは労働法だけでは解決が難しい問題で,研究者の研究環境をどのように確保するかという観点からも議論すべきもののように思います。
 ところで,労契法18条は,無期転換後の労働条件は従前と同一でよいとしているので,実は財政的な面だけが理由であれば,有期契約を10年で切らずに更新して無期転換すればよいともいえそうです。有期から無期に転換した研究者には,特別な就業規則を設けて,最初から無期で採用されている研究者とは違った処遇を用意することは可能です(そこでも,まったく法的な問題が起こらないとは言えませんが,詳細は省略します)。処遇が他の無期の研究者並みでなければいやという研究者もいるかもしれませんが,雇止めになるよりは,雇用の安定を得て,従来の処遇を維持できて,研究環境を維持できるメリットは大きいと考える研究者も多いでしょう。雇止めにするか,従来の無期研究者と同じ地位を付与するかという選択肢しかないのではなく,処遇を維持したまま無期にするという第三の選択肢(これこそが労契法18条が想定している本来の選択肢)もあるのです。もっとも,第三の選択肢に対しては,無期である以上,テニュアの研究者として,しかるべき処遇を認めるべきであり,半端な処遇はすべきではないという説得力のある反論もありそうです。そう考えると,労契法18条が想定していた第三の選択肢は,研究機関にはあてはめるべきではないのかもしれません(そうだとすると,期間の特例を設けるより,そもそも労契法18条それ自体の適用除外とすべきことになるでしょう)。
 また無期になると,能力不足が判明したり,財政状況がいっそう悪化したりしたときの解雇が難しくなり,研究者全体の処遇を低下させなければ雇用を維持できないことになりかねません。そうなると,優秀な人材が転職したりヘッドハンティングされたりする可能性が高まるでしょう。有期の研究者の雇用や研究環境の安定を考えたがゆえに,研究機関の存続に影響するようなことになれば,それは本末転倒でしょう。
 こうなると,解決策はおのずから限られてきます。研究機関には十分な財政支援をすべきであると同時に,一方で,研究者の能力審査は厳密にし,能力がない研究者には去ってもらうという解雇ルールが求められるということです。能力を度外視した雇用保障のためには財政資源は使わないが,今回の理研問題のように能力がある研究者まで雇用や研究環境を失うことがないようにお金を使うということが明確にされれば,国民の納得する税金の使い方といえるでしょう。研究機関(とくに税金が入っている国の研究機関)は通常の民間企業とは違うところがあり,国の将来を支えることになる研究には,徹底した能力主義が求められるということです(ただし安易な成果主義は,成果の出にくい基礎的な研究が不利になるので避けなければなりません)。もちろん,実はこれは民間企業でも同じことなのかもしれないのですが。

2022年9月28日 (水)

年功型処遇変更のシナリオ

 岸田首相は,先日のアメリカ出張で,ニューヨークの証券取引所での講演をした際に,労働市場の改革についてアピールしました。日本語版が外務省のHPで掲載されています。5つの優先課題があるとしたうえで,「第1に、「人への投資」だ。 デジタル化・グリーン化は経済を大きく変えた。これから,大きな付加価値を生み出す源泉となるのは,有形資産ではなく無形資産。中でも,人的資本だ。だから,人的資本を重視する社会をつくりあげていく。まずは労働市場の改革。日本の経済界とも協力し,メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを,個々の企業の実情に応じて,ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す。これにより労働移動を円滑化し,高い賃金を払えば,高いスキルの人材が集まり,その結果,労働生産性が上がり,更に高い賃金を払うことができるというサイクルを生み出していく。そのために,労働移動を促しながら,就業者のデジタル分野などでのリスキリング支援を大幅に強化する。」とされています。日本語版ではキーワードは盛り込まれているのですが,英語版でみると,少しインパクトが小さい感じもしました。いずれにせよ,経済界と協力して年功型の処遇を変えるということを,すんなりそのまま信じるほどアメリカの投資家は甘くないと思います。労働市場改革は,新しい資本主義などと同じように,それだけではほとんど意味がない言葉です。
 年功的な職能給を職務給に変えるというのですが,経済界も協力してというのは,どういうことなのでしょうかね。経団連が音頭をとって,職能給を止めようということになるのでしょうか。そもそも年功型の処遇は,どうして存在しているのかが重要です。私も,年功型の処遇は変わっていくと考えていますし,企業は変えていくことになるでしょう。ただ,それを引き起こすのは技術革新などの客観的な要因です。年功型処遇は,長期雇用や企業内人材育成というものと密接に関係しているものです。これが日本型雇用システムです。まずは,このシステムの功罪をしっかり総括して,何が問題であるのかをきちんと示す必要があるでしょう。年来の労働市場改革の試みがうまくいっていないのは,このような総括をしないまま,票になりそうなところだけ手を入れていこうとするからです。同一労働同一賃金という名の不合理な格差の禁止規定なども,その類いです。
 DXによる定型的な業務の消滅,非定型的な業務に従事するプロ人材の需要の増大,技術革新のスピードによる企業内人材教育の難しさ,外部労働市場から労働力を調達する必要性などがあいまって,これまでの日本型雇用システムが激変して,それが賃金体系などに影響していくという一連の大きな構造改革を見据えた改革提言でなければなりません。
 「スローガン」というのは,ときには必要ですが,それが行きすぎると,あとに失望がきて,政府の信用がなくなります。国内だけでなく,国外での信用も落とすようなことはやめてもらいたいものです。いずれにせよ,この問題では,解雇改革にどこまで本気で取り組めるかは避けて通れません。岸田首相は,解雇改革に本気で取り組めるでしょうか。まずは山本陽大さんの『解雇の金銭解決制度に関する研究』をしっかり読んで勉強してもらいたいものです。

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