労働法から広がるハラスメント法
10月1日から,改正男女雇用機会均等法により,求職者等に対するセクシュアルハラスメント,いわゆる「就活セクハラ」の防止措置が事業主の義務となりました。同日には,労働施策総合推進法によるカスタマーハラスメント対策も義務化されています。世の中にあるさまざまなハラスメントに,法が網をかけていくこと自体は,望ましい方向でしょう。ただ,今回の規制には,従来のハラスメント規制の対象が増えたというだけでは捉えきれない問題があるように思います。
就活セクハラで気になるのは,被害者が,その企業との雇用関係にないという点です。男女雇用機会均等法11条が保護の対象としてきたのは,「その雇用する労働者」でした。これに対して,新たな規定が対象とする求職者等は,まだその企業に雇用されていない人たちです。
もちろん,求職者も,採用後の従業員も,セクハラから保護すべき存在であるという点では同じです。人格や尊厳を守るという大きなくくりでは,共通の説明ができるでしょう。被害を受ける側からすれば,採用前か採用後かによって,被害の深刻さが変わるわけでもありません。
しかし,保護の必要性が共通することと,企業に保護義務を課す原理が共通することとは,別の問題です。雇用する労働者については,使用者の安全配慮義務(労働契約法5条)があります。安全配慮義務そのものは労働契約だけに認められるものではありませんが,労働契約関係にあるからこそ求められる配慮もあります。使用者の指揮命令のもとで働く人を,使用者がどのように保護すべきかという問題です。
これに対して,求職者には,まだその企業との間で労働契約関係がありません。同じ契約上の義務を,そのまま想定することはできないでしょう。とはいえ,求職者は,企業にとってまったく関係のない一般の人でもありません。採用という接点があり,企業はその人の就職の機会を左右しうる立場にあります。新卒採用の場合には,その影響度は大きいでしょう。その意味で,求職者は,無関係な第三者とも,雇用する労働者とも異なる,中間的な位置にいるといえそうです。この関係における保護義務を,どのような原理から導くのかという点は,理論的な検討を加えてみたいところです。
カスタマーハラスメントには,これと別の方向から,雇用関係の外にいる人が登場します。就活セクハラでは被害者が雇用関係の外にいるのに対し,カスハラでは,加害者となる顧客等が,被害者を雇用する企業の外にいます。企業には自社の労働者を保護する義務がありますが,顧客等に対して,従業員に対するのと同じ指揮命令や懲戒を行うことはできません。労働者を守る必要性を確認するだけでは,企業が外部の加害者にどう働きかけるべきかという問題までは解けないのです。
ここでは,これ以上,原理の検討には立ち入りません。ただ,こうした展開をみていると,労働法のなかに置かれた規定から,雇用関係の枠を越える,より一般的な「ハラスメント法」が少しずつ姿を現しているように感じます。個々の被害への対応を積み重ねるなかで,従来の枠組みには収まりきらない原理が必要となっているのでしょう。これは,私の今後の研究プロジェクトの一つにしようと考えています。当然のことながら,ハラスメント防止にいかにデジタル技術を使うかという「デジタル優先主義」も絡ませるつもりです。
いずれにせよ,今回の改正は,ハラスメント規制の一つの節目であるとともに,労働法から何が広がっていくのかを考える入口にもなりそうです。

