経済

2018年2月 9日 (金)

適温経済の終焉?

 Goldirockという言葉が,経済界ではよく使われます。適温経済という意味で,この言葉がどこから来たかということは,たびたび解説されているので,ここであえて書くまでもないことでしょう。童話の世界の言葉です。インフレもなく(過熱もせず),景気後退もない(冷え過ぎもしない),ちょうど良い具合に経済が進んでいるという状況に慣れてしまうと,いざ大きな変化が起きたときに,すぐに対応できなくなるかもしれません。
 トランプ政権がなんだかんだ言って支持されているのは,アメリカ国内の経済が好調だからでしょう。安倍政権もそうです。野党は雇用/労働政策については格差問題くらいしか攻撃できないのですが,失業率も低く,内定率も高く(若年者失業が少ない),非正社員が増えているからといって,最低賃金も着実に上がり,非正社員から正社員への転換も進み,法律もそれを後押ししている(労働契約法18条)というような状況で,さらには春闘にまで介入して賃上げ要請をしている政府に,国民は不満をもちようがないのです。インフレは,政府や日銀の思いとは異なりなかなか進まないのですが,それは国民にとってはありがたいことでもあります。北朝鮮のような国難に,アメリカと連携して対処できるのも,安倍政権しかなさそうだということまで,安倍政権に有利に働いています。
 しかし,日米の政権も,適温経済が終わると,どうなるでしょうか。現在のような幸福な状況はいつか終わるはずです。すでに,先週来,アメリカでも日本でも株価の大幅下落が起きており(といっても昨年秋からが異常な株高状態だったので,本来の水準に戻る調整局面に入ったということにすぎないのかもしれないのですが),不穏なムードが漂っています。少なくとも日本企業の業績は好調で,企業の評価が下落したから株価が下がったわけではないようですが,景気とは心理的なものなので,今後の動きは予断を許さないものとなっています。
 経済が悪くなれば,政権は危なくなり,思い切った将来志向の政策を打ち出せなくなります。気がかりなのは,現在の雇用・労働政策が,「働き方改革実行計画」にしばられてしまっていることです。この計画の遂行のためにエネルギーを使いすぎて,もっと大胆な改革が遠のくことが気がかりです。あの実行計画は,ファーストステップにすぎないのです。そこからさらにホップして,ステップして,ジャンプする必要があります。
 高度プロフェッショナル制は,中途半端な改革ですし(それでも野党が反対しているのですが),同一労働同一賃金は看板に偽りがある怪しげなスローガンです。解雇の金銭解決は計画の中にさえ入っていません。インディペンデント・コントラクターに対する政策も,正面から取り上げられていません(テレワークといったところでは出てきていますが)。
 これまでの順風の経済が止まりそうになっている現在,政権が思い切った雇用・労働政策に打ってでるチャンスが徐々に遠のいていかないか心配です。後から振り返って,あのときにもっとやっておくべきだったということにならないことを祈りたいものです。

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2018年1月 5日 (金)

大発会の高値に思う

 日経平均が26年ぶりの高値というのが,今朝の日本経済新聞の1面トップです。741円(3.3%)の上昇は,日本経済への期待の表れでしょう。1千万円の株資産をもっている人は,1日で33万円,株資産を膨らませたことになります。一般に,株価が上がると百貨店で富裕層による高額商品の購入が増えるらしく,昨年秋以降の好調な株式市場の影響で,Jフロントの株が前年末に急上昇したという記事も数日前に出ていました。そういえば元町にある神戸大丸もいつも混んでいますね。
 一方で,株式市場の好調さは,一般市民の生活になかなか波及していないようでもあります。街中をみると,必ずしもそうではないようにも思いますが,賃金が上がらないことで,財布のひもがそれほど緩んでいないことは事実のようです。むしろ食料品の値上げなど,生活に近いところでの値上げが(たとえ小規模であれ)次々と起こっているので,財布のひもはむしろ締められているのかもしれません。もっとも,消費の質が,コトからモノへということで,実は消費の主力が,より目に見えないところにシフトしているだけなのかもしれませんが。
 いずれにせよ,株式市場の高揚が,一般市民になかなかダイレクトに波及していないとすれば,それは,一般市民の金融資産への投資が低いこととも関係しているのでしょう。異常な低金利にもかかわらず,漫然と銀行に預金をしている人が多数なのでしょう。北朝鮮問題や不安定なアメリカの外交政策など世界情勢の不確定要因が高いなかでは,リスクの高い金融商品に投資する気にならず,賃金も上がらない以上は,ここは確実に銀行に預金をしながら,もう少し様子をみておいたほうがよいと考えている人が出てきても不思議ではありませ。冷静に考えると,世界情勢が安定する時代など,二度と来ないのかもしれないのですが。

 NISAやIDECOなど,政府は個人の資産を金融市場にもってくる策を講じていますが,なかなかうまくいっていません。多くの人が,金融リテラシーを十分に身につけていないことが大きいと思いますし,身近に適切なアドバイスをしてくれる信頼できる指南役がいないことも問題だと思います(銀行の資産運用係や証券会社の営業が信頼できるか,という問題ですね)。
 投資というのは,リスクをうまく制御しながらリターンを求めるものであり,実はこれは株だけでなく,日本社会全体において欠けていることのようにも思えます。リスクを怖がらず,現実をしっかりみながら,想定外のことが起きても,過剰反応をせず,前向きに冷静に対応するというのは,金融商品への投資以外にも,いろんなところにもあてはまります。たとえば,自分のキャリアについて,リスクをとりながらもチャレンジしていくということにもあてはまりそうです(研究の世界も同じです)。
 いずれにせよ,株式市場の高揚が,外国の投資家を潤わせるだけで,一般の日本人に還元されないのは,あまりにももったいことです。日本人が,日本企業の将来にもっと夢をかけて投資をし(投資は,既存の企業だけでなく,AI時代を見越して必死にリスクをとって起業しようとしている人たちにも向けられるべきでしょう),それによって日本経済がもっと活力を得て,そして投資家としての労働者やその家族も潤うという好循環を実現するためには,どうすればよいか。政府は,もっと真剣に庶民のレベルにまで立ち降りて,投資教育をすべきでしょう。

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