私の著作

2018年5月13日 (日)

労働新聞とビジネスガイドの新作

 連休明けには,「連休中はどうしていましたか」と聞かれることが多いのですが,私はとくに外出もせず,いつもどおりの生活をしていました。連休中は人が多くて出かける気にはなりませんし,連休の合間も授業があるので,連続休暇をとれるわけでもありませんでした。たまっている仕事をこなす程度ですが,思うようには進みません。確実に生産性は落ちていますが,事前にスケジュールだけは,若いころと同じように立ててしまうので,帳尻合わせに苦労して,いろいろ周囲に迷惑をかけてしまうことが増えています。
 そんななかでも連載原稿は穴をあけることはできないので,必死に頑張っています。1週お休みになっていた週刊労働新聞の「雇用社会の未来予想図-技術革新と働き方-」の第17回は,「労働組合は今後どうなるか」です。たまたま先日刊行された「電機連合NAVI」とテーマがかぶっていますが,雇用社会の未来を語るときには労働組合のことは避けて通れません。
 現在,労働組合を政策的に論じるときには,現状の衰退傾向にどう対処するか,労働委員会の実務でいうと,コミュニティユニオンや実質個別紛争をどうみるか,また労政審などでの労働組合の代表性をどう考えるかといった問題が思い浮かびますし,AI時代との関係では,自営的就労者が増加するなかでの働く人の新たな組織のあり方というものがあり,それと関係する独禁法関係の論点もあります。これらをすべて論じる必要があるのが,現在の労働組合に関する法政策論の状況であり,まだまだやることはたくさんあります。
 ちょうど先日の大学院の授業で,労働組合と独禁法の関係について少し議論をすることがあり,そこでわかったのは,まずは日本法の枠内で,労働組合がなぜ独禁法の規制を受けないのかというところを,歴史的,比較法的かつ原理的に考える必要があるということでした。
 ビジネスガイドの「キーワードからみた労働法」の第131回は「アブセンティズムとプレゼンティズム」というテーマです。このブログで最近よくとりあげている健康確保とAIという問題と関係しています。
 連休が終わると,もうすぐ梅雨で,そして夏がやってきます。そんななか国会の動向も気になりますし,長澤運輸事件とハマキョウレックス事件の最高裁判決も出される予定であるなど,労働法ウオッチャーにとって熱い夏がやってきそうです。

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2018年5月12日 (土)

講談社現代ビジネスに登場

  講談社現代ビジネスというところから,労働時間について何か書いてもらえないかという依頼があったので,書いてみました(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55457)。ネットの商業媒体に直接寄稿したものは,ひょっとしたら始めてかもしれません(だんだん,どこに何を書いたかわからなくなってきています)。一文ごとに改行されるのには抵抗もありますが,ネット上はそのほうが読みやすいということでしょうね。
 読者は一般人ということで,正確性は多少犠牲にしても用語が堅くならないように注意し,ただ内容は少しエッジを効かせて書いたつもりです。内容への読者の反発はすでに強いようですね。解雇の問題と同様,労働時間の問題も,労働者の関心が高いので,いろいろ個人の思いも強いのでしょう。私の意見が政府寄りだという頓珍漢なコメントもあります(以前に出した新書に対してもそういうコメントがあった)が,「あいつはどっち側の人間か」と決めてから評価するのは誤ることが大きいので要注意です。
 私自身は,労働時間制度改革は,目の前の問題としては大事かもしれませんが,将来を考えると,政策的な重要性は低いと最近よく主張しています。このメッセージは,どちらかというと政治家や政策担当者にこそ向けるべきなのでしょう。私はほんとうは「高プロ」に賛成ではないのですが,その理由は,もっと徹底した規制緩和をすべきというものです。この程度の妥協的な案しか出せない政府に失望すると同時に,それに反対する野党たちにさらに失望しているのです。
 とにかく,労働時間に関して,改革が損か得かという目先の話ではなく,どういう雇用社会を想定して,そのためにどういう法制度が必要かということについて,今回の寄稿が,みんなで議論するきっかけになればと思います。

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2018年5月10日 (木)

電機連合NAVIに登場

 電機連合NAVIの66号に,拙稿「改革の時代に,労働組合は何をすべきか-原点に立ち戻り,未来をみる-」が掲載されています。「労働組合の過去,現在,未来」というコンセプトで書いてみました。「働き方改革」との関連での依頼でしたので,それにからめながら,やや辛口のことを書きました。
  「労働組合」と言っていますが,政策に関して論じる際に念頭においているのは,政策形成に強い影響力をもっている連合です。連合の問題点や課題を指摘し,どうすべきかを,私なりに提言しているつもりですが,耳を傾けてもらえるでしょうか。
 労使自治や組合自治と関連づけた労働組合論は,私が好んでしてきたものです。最近では,あまり書く機会がなく(「不当労働行為」は別),今回のエッセイは,3年前に法学教室416号に書いた論文「憲法の沈黙と労働組合像」以来のまとまった書き物です。
 近年,労働組合を法的に研究する研究者は激減しているのですが,何とか若手のなかから,運動論から一歩距離を置いた労働組合論をやる人に出てきて欲しいものです。ただ,そのためには,労働組合のほうも,もっと魅力的になってもらわなければ困ります。
 ビジネスの世界でもイノベーションが言われています。組織は変革をしなければ衰退していきます。労働組合も同じです。労働組合は何のための存在か,新たなテクノロジーの発展の前で,労働者のために何をしなければならないのかを考えていかなければなりません。まず組織ありきではなく,労働者の利益を代表するという使命や機能を基礎とした労働組合の大胆な刷新と再編がなければ,労働組合の未来は暗いものとなるでしょう。 

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2018年5月 8日 (火)

公明新聞に登場

 4月30日の公明新聞の第5面に私のインタビュー記事が出ています。私は,公明党や創価学会とはまったく関係ないというのは,いつも述べていることですが,どういうわけかよく声をかけてくださいます。別にとくに回避する理由もないので,私の主張を丁寧に聞いてくださるかぎり,取材に応じたり,原稿執筆をしたりしています。
 今回は「フリーランスという働き方」という見出しがついています。最近の私の研究領域は労働法よりも,フリーランス関係にシフトしつつあります。いろいろな人と議論をしたり,勉強をしたりしながら,今後の政策の方向性についても,徐々に固めていこうと考えています。
 ジュリストで4月号から連載が始まっている「働き手・働き方の多様化と労働法」という特集で,私は来年3月号の最終回に登場予定となっています。テーマは,「雇用以外の働き方」で,おそらく番外編という位置づけなのでしょうが,個人的には,大トリで主役をはる気分でいます。こういうテーマで,私に書かせるのは危険であることは,有斐閣のほうも十分に分かっているでしょうから,できるだけ期待にたがわないような大胆なものを書いてみようと考えています。
 そのほかにも,フリーランス関係の仕事がいろいろ舞い込んでいます。労働法以外にも,税法,社会保障法,競争法などの知識が必要となっており,自分自身の問題意識がどんどん広がると同時に,新たな勉強に追われています。こういうなかで他分野の標準的な教科書は入門用として非常に助かります。この点でやはりたどりつくのは,有斐閣のものが多いです。労働法の教科書については,薄味のものには批判的なのですが,他分野の本ではそういうものが助かるのを実感していることからすると,やはり労働法の教科書も薄味であっても,普及という点では意味があるのだなということがわかりました。

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2018年4月22日 (日)

『解雇規制を問い直す』の書評

 今朝の毎日新聞朝刊に,大阪大学の大竹文雄さんの,私たちの『解雇規制を問い直す-金銭解決の制度設計』(有斐閣)の書評が掲載されていました。ご多忙ななか,私たちの本の書評の労をとってくださったことに心より感謝いたします。
 どの新聞や雑誌からも研究者の書評が出なければどうしようと不安になっていたところでしたので,ありがたいことです。さすがに有斐閣の「書斎の窓」では取り上げていただけることになっていますが,それはもう少し先です。
 解雇法制に関して日本で一番詳しい経済学者である大竹さんにいただいたコメントですので,重みは格別です。
 「ルールを透明化することで,今まで泣き寝入りをしてきた多くの労働者,裁判リスクを抱えることを嫌って採用に慎重になっていた企業のどちらにもプラスになる。本書は,日本の解雇規制の歴史,国際比較に加え,解雇に関する経済学的な整理を行った上で,法律の提案がなされている。今後の解雇規制に関する議論は,本書を前提に始めることになるだろう」。
 ほんとうにそうなってくれるでしょうかね。労働法学会からは黙殺される可能性が濃厚ですが,厚生労働省はどうでしょうか。労働政策審議会で議論の俎上に載せてくれるでしょうか。むしろ新しくできた労働政策基本部会あたりで議論をしていただけたらありがたいテーマかもしれませんが。

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2018年4月14日 (土)

入学試験問題に採用

 日本著作権教育研究会というところから,著作物利用申請書というのが来たので,2018年度の入試に私の著作物が使われていたことがわかりました。入学試験問題での利用は,著作権法36条により可能だと思いますが,大学側から一言連絡があってもよいかなという気もしますね。
 今回は,入試試験問題集への掲載ということでしたので,その団体から連絡がありました。掲載を許可すれば,ちょっとだけ良いランチ1回分程度の利用料が振り込まれるようです(芦屋マダムのランチなら,全然足りません)。
 今回は四天王寺大学という大学の国語の試験で,拙著『勤勉は美徳か?』(光文社新書)のなかの一部分をくりぬいて,その間の4段落を,正しい段落に並べるという問題でした。自分でもやってみましたが,さすがに正答でした。ただ論理がわかっていなければできないので,そう簡単ではないかもしれません。
 いままでも数回,私の著作物について入試採用されたことがありますが,小論文や意味の理解というタイプの出題が多く,今回のように自分の書いた文章の並べ替えという問題ははじめてです。変な文章になっていないか,ドキドキしました。新書の場合は専門の校閲者が一般人にわかりやすいように比較的素直な展開にするよう指示されることが多いので,入試には使いやすいのかもしれませんね。

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2018年4月10日 (火)

私の著作

 最近では,著作物は,ネットで発信が中心になりつつあります。紙媒体でしかみれないものは困ります。最新刊の「Leaders」で,私のエッセイが載っていますが,こういう最先端の人が読みそうな雑誌だから,当然オンラインのものもあると思って,掲載誌は不要と言ってしまったら,実は紙媒体のものはなかったので,結局,私は自分の掲載頁のPDFファイルだけしかみることができませんでした。あとで,私の頁のすぐとなりにフリーランス協会の平田麻莉さんのエッセイも掲載されていることが偶然わかり,彼女から,その掲載頁の写真を送ってもらって確認できました。書店に普通に売っている雑誌かどうかわかりませんが,ご関心のある方は,どうぞ読んでみてください。    
 国立国会図書館の「人工知能・ロボットと労働・雇用の視点」(平成29年度 科学技術に関する調査プロジェクト)の第3部V「技術革新と雇用」の分担執筆をしました。字数制限が厳しく,ほとんど議論は展開できていませんが,公開されていますので,紹介しておきます(http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11065187_po_20180406.pdf?contentNo=1&alternativeNo=2018.2.6)。東京大学の江間有沙が,たいへんな骨を折って,とりまとめをしてくれました。私は江間さんの研究の内容自体は,難しすぎてよく理解できていませんが,自分がやりたいと思っていることに比較的近いことをされているのではないかと思っています。今後も,彼女からいろいろ学ぶことができればと思っています。
 次は補遺ですが,2月上旬にすでに公開されていたのに,連絡を受けていなかったというものです(その点で気分がよくないです)。とにかくインタビューを受けたときに時間がかかったものでしたので,紹介しておきます。
 「AI時代のその先に待つ働き方の未来像とは【前編】【後編】」(インタビュー)Power of Work(http://www.adecco.co.jp/power-of-work/044.html)   
   一方,超アナログの週刊労働新聞の連載「雇用社会の未来予想図-技術革新と働き方-」は,第13回となり,今回は,「テレワークの効用」です。今回と次回はテレワークです。そのあと,自営的就労者の話に移っていきます。23回の連載のちょうど半ばがすぎ,手元では,すでに16回目も脱稿していますが,書きたいネタをあと7回に押し込めれるかが心配です。とにかく週刊ですので,ちょっと油断をしていると,あっという間に締切に近くなりますので,油断をしないように頑張ります。明日から今学期(第1クオーター)の最初の私の授業が始まりますので,時間の管理をきちんとしなければなりませんね。

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2018年3月 9日 (金)

経済教室登場

 今朝の日本経済新聞の朝刊の経済教室に登場しています。昨年8月末以来だと思います。今回は緊急登板的な感じで,与えられたテーマはフリーランスでした。前の経済教室でも自営的就労者のことには少し触れていたので,今回はそれをメインに書くという感じです。他のメディアでは,このテーマについては,すでにかなり書いたり,インタビューを受けたりしていましたし,日経新聞でも別のコーナーで登場したことがありました。今回は昨年のWedgeに続く大きな媒体での登場で,とくに経済人の方に向けて書くという感じです。ちょうど2月に比較法シンポジウムをやっていたこともあり,そのときの流れをひきずりながらの執筆となりました。
  とはいえ経済教室は字数が3000字と厳しいので,書きたいことを絞りこまなければなりません。注をつけたいところも多々ありましたが,もちろんそんなことは許されません。これは厳しいのですが,よい勉強になります。
 まず悩んだのはフリーランスという言葉です。これだけで6文字です。自営的就労者という言葉もよく使ってきたのですが,これも6文字です。もちろんインディペンデント・コントラクターは長すぎます。これを最初にあげて,以下,ICとするという方法もあったのですが,あまり読者に親切ではありません。ということで,個人事業者という言葉にしました。個人事業主という言葉も税法などでは使われますが,少し違った言葉にしました。フリーランスよりや自営的就労者より1文字少ないだけですが,頻出ワードなので,字数の削減効果は大きいです。
  原稿のなかでは,経産省の「雇用関係によらない働き方に関する研究会」や現在進行中の厚生労働省の「雇用類似の働き方に関する検討会」などにも言及したかったのですが,これも長すぎるので省略です。政治の動きは直近の新聞報道で出たものに限定しました。
 統計は,総務省の労働力調査で,こちらは「自営業主」という言葉があったので,これは仕方ないのでそのまま使いました。OECDのself-employment は,定義が広いのですが,参考までにあげました。本当は35カ国すべての数字を出したほうが日本の位置づけがわかったのでしょうが,スペースの制約上限定しました。下から9番目というのは,図表上はわからないですが,仕方ありません。
 内容はよく書いているとおりで,私の原稿を読んだことがある人はいつものものでしょうが,今回は下請法に少し焦点をあてました。下請法は適用範囲が限定され,また法のエンフォースメントは公正取引委員会の勧告が中心ですが,より一般的なルールとして,かつ民事上のルールに出来ないかという主張をより明確にしたのが,今回の提言の少し新しいところです。その趣旨は,優越的地位の濫用規制に,労働法的な発想(経済的従属関係にある者の保護という視点)を融合させるというもので,原稿では落としましたが,消費者契約法や,民法改正の途中まで入っていた継続的契約や役務提供契約などの規律も取り入れて,総合的な個人事業者用の契約法を作れないかというのが,今回の提案の肝です。規制色の強いルールはやめたほうがよいという提案もしています(これまでは準従属労働者と真正自営業者を分けるということをはっきりさせていましたが,今回はそれは強調しませんでした)。
 労働組合法と独禁法のはざまにある事業者団体の問題はもっと議論したかったですが,今回は簡単にふれるにとどめています。
 セーフティネットのところでは,社会保障のことはもっときっちり議論しなければなりませんし,労働保険も雇用保険と労災保険は区別して議論すべきかもしれません(フリーランスの廃業時の所得補償は不要という声は強いです)が,これも今後の課題です。
 教育のところはいつもの主張にとどまっていますが,今後はもっと具体的な話に踏み込んでいきたいと思っています。
 でも具体的なところは,ほんとうはみんなで議論してもらえればと思っています。私はアドバルーンをあげて,みんな集まって議論しようという呼びかけをしたと思っています。今回の原稿がそのきっかけになればと思います。
 日本法令で連載中の「キーワードからみた労働法」の次号は「ギグエコノミー」をテーマにしており,そこではシェアエコノミーやオンラインビジネスにフォーカスをあて,下請法ももう少し詳しく紹介しています。

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2018年3月 3日 (土)

最新重要判例200労働法(第5版)

 弘文堂から刊行している『最新重要判例200労働法』の第5版が届きました。予定よりもかなり早く改訂作業が終わりました。重要な最高裁判決などを新たに収録する一方,いくつかの判例を解説に落とし込んで,200件ちょうどにしました。長澤運輸事件やハマキョウレックス事件のように近いうちに最高裁判決が出ることが確実なものも,一時的なものにはなりますが,現時点での重要性に鑑み収録しておきました。いよぎん銀行事件のように,泣く泣く落としていた裁判例も,やはりその重要性に鑑み復活させました。
 最新重要判例200労働法の改定作業は,私の仕事のなかでは,従来型の労働法の枠組みのなかでの判例の整理という位置づけで,何か新たなものを創造するという研究者としての本来の仕事とは別のものです。しかし,これはこれで自分の頭を解釈論の世界につなぎとめておくために必要なことで,もしこの作業がなくなると,私は現在の労働法から,糸の切れた凧のようにどこかに跳んでいくことになるでしょう(法科大学院で授業をする実質的な資格もなくなるでしょう)。自分の研究の発展のためには,そうなったほうがよいという気持ちが頭の片隅にはあるものの,この本は,私の著作のなかでは,多くの読者に支持をいただいている数少ないものの一つなので,大事にしたいという気持ちも強いです。ということで,弘文堂のお許しがいただけるかぎり,今後も改訂作業は続けて行ければと思っています。

 

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2018年2月28日 (水)

法学者への挑戦-解雇規制を問い直す

 『解雇規制を問い直す』(有斐閣)には,いろんな顔がありますが,執筆者のほうからいろいろ言うのはどうかという気もしますが,一つだけ法律系の研究者に,ぜひ論じてもらいたいことがあります。ここでは書きませんが,これまでの解雇規制との決定的な違いの部分です。この本の法学面での価値を一言でいえば,そこにあるのです。

 不当な解雇をすれば無効になる,それが,不当な解雇をしても金を払えば有効になる(あるいは労働契約を解消できる)というのはけしからんというのが,これまでよく聞かれた議論でした。だから額を上げればいいだろう,ということをしたのが本書ではないか,と簡単に考えられては困ります。経済学の立場から見ると,それほど違和感がないかもしれない「完全補償ルール」は,労働法学者からは衝撃が大きいでしょう(労働組合も,評価にとまどうかもしれません)。でもその表面的な衝撃だけで,本書の解雇法制における真のイノベーティブなところが見落とされてしまっては困ります。
 ヒントは,本書が,規範としてみた場合に,「金を払えば解雇できる」と言っているのではないということです。では,本書は何を言っているのでしょうか。
  本書の法学上の重要性はそこであると考えています。そして,そのことに気づいたときに,私は背中に震えが来たのです。後から聞くと,たいしたことではないように思えるかもしれませんが,少なくとも従来の解雇法制の議論にどっぷり浸っていた私にとっては,その瞬間は衝撃でした。モデル条文など,その後のことは,いわば設計図レベルの技術的な部分で,見直しはいくらでも可能です。大事なのは,設計図の根拠となる設計のコンセプトです。その部分を是非指摘して議論してもらいたいです。
 もちろん,本書は,経済学の立場からは,完全補償ルールが,その理論的根拠を示されたこと(これについても,法学においてしっかり議論されていく必要があります),さらにその額まできちんと推計されたことは,偉大な業績です。
 個人的には,本書のもう一つのハイライトは,第3章(川口大司=山本陽大)だと思っています。同章の,OECDのEmployment Protection 指標の分析のクオリティは,おそらく世界最高のレベルでしょう。経済学者がよく活用するOECDのデータを,ここまでしっかり経済学者と法学者の双方の視点から分析したものはないでしょう(世界中の文献を全部調べたわけではありませんが)。この第3章は,独立して,論文として英語で発表することになるはずです。こういう業績は,これまでの論文評価の基準に乗りにくいものですが,学術的な価値がきわめて高いものであり,しっかり日本の法学界でも評価されるべきだと考えています。まさに本書の狙いとした法学と経済学のコラボの象徴的な部分なのです。

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