労働法・雇用政策

2018年4月20日 (金)

フリーランス

 フリーランス関係の記事が相次いで出てきていますね。昨日の日経新聞では,水野裕司上級論説委員が「中外時報」でとりあげていましたし,今朝の日経新聞では,JILPTの調査で,仕事に対する満足は約7割などの調査結果が紹介されていました。電子版の速報記事でも,労政審でフリーランスの問題に着手すると出ていました。
 先月9日の経済教室でも書いていますが,フリーランスについては,要保護性ばかりをみていてはいけません。デジタライゼーションの進行のなかの中心的な働き方なのだという視点で政策を構築していく必要があります。
 というか,これは最終的には,新たな労働法を作るという作業であり,だからこそ私は大きな関心をもっているのです。実務的な問題にもお付き合いをしますが,基本的には,もっと先の理論的課題をみています。現在,広い研究分野の人を集めた共同研究プロジェクトの構想をもっており,何とか成果にまで結びつけばいいなと思っています。
 週刊労働新聞の連載も,次の4月26日号から2回連続でフリーランスを扱います。

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2018年4月11日 (水)

日経新聞は厚生労働省が嫌い?

 今朝(2018年4月11日)の日本経済新聞の朝刊の「副業という働き方(2)煮え切らぬ厚労省」は,厚労省に対して悪意がある記事に思えたのは私だけでしょうか。
 この記事だけみていると,書いているほうも副業の論点がわかっていないような気がします。
 まず記事の前半は公正取引委員会の動きを紹介するものですが,これは副業のうちの自営業に関するものです。本業の片手間の副業について,どこまで本気で公正取引委員会が相手にしてくれるのか,よくわかりません。自営業の議論の本丸は,副業的なものではなく,本業で自営業をする人をターゲットにしたもののはずです。経産省は,雇用でいま働いている人の起業の促進という目的もあって,副業から切り込んでおり,副業と自営業を一緒にして議論する傾向は,その流れにひきずられすぎているように思います。大きな政策論議をする場合は,副業型のフリーランスと個人事業者型のフリーランスを分け,後者を中心に議論をしなければいけないと考えています。いずれにせよ,先般のような報告書を出しただけで,公正取引委員会が副業問題で頑張っているかのように書くのは,ちょっと贔屓しすぎでしょう。
 一方,記事の後半は,自営業の話ではなく,雇用型副業のことです。こちらは問題状況がまったく異なりますが,ここにも二つの論点が関係しています。第1は,法律上は規制されていない副業を,就業規則などで規制してきたのを今後どうするのか,という人事管理的な論点です。モデル就業規則は,規制でも何でもないので,重要なのは,企業自身が副業に対してどういうスタンスをとるかです。厚労省(労基法)はもともと副業の規制などしていません。モデル就業規則が変わったからといって,企業の人事管理の姿勢が変わらないかぎり状況は変わらないでしょう。
 その問題と,労基法の複数事業場での労働時間の通算規定(38条2項)は別の問題です。こちらは法律の問題です。記事は,この規定が「働く人の選択肢を狭めていると批判を浴びる」と書いていますが,私は,世間が狭いだけかもしれませんが,そんな批判を聞いたことがありません。役所の研究会では,そういう議論があったのかもしれませんが,それはどれだけ世間の声を反映したものでしょうかね。まさに記事にも書かれているように,「合算ルールは絵に描いた餅」なのです。ところが,そのあとに,「しかし組織防衛の意識がブレーキをかける。『合算をやめれば労働時間が増える。責任を問われたくない』(労働基準局幹部)」となっていました。
  38条1項は,複数事業場での通算規定であって,それは同一企業内でのみの通算であると解釈することも可能です。複数企業でも通算するとしてきた厚労省が通達を改めればすむ話で,もし裁判となると,最高裁は厚労省どおりの解釈をしないかもしれません。その程度の解釈問題です。それに繰り返し述べるように,現実には,この規定は機能せず,通算などされていません。つまり,この規定は,副業を阻害していないのです。だから「合算をやめれば労働時間が増える」なんてことも,ありえないでしょう。厚労省は「責任を問われたくない」ということですが,副業を認めるかどうかは企業の判断,副業をするかどうかは本人の判断です。実効性のない労働時間の通算規定を廃棄したからといって,誰が厚労省に過労の責任を問うでしょうか(文句を言う人は,何をやっても文句を言うので相手にする必要はありません。真の問題は,健康管理のことでしょうが,それは労働時間の通算規定では達成できないものです[詳細はまた別の機会に])。
 「労働基準局幹部」が,そんな奇妙な発言をしたとは,とても考えられません。もし,そんなことを言う幹部がいるのなら,新聞記者に余計なことを話さないことこそ,真の組織防衛でしょう。ちなみに,法律の文言上は「通算」であって,「合算」ではありません。もし,その幹部が「合算」という言葉を使っていたのならば,それこそ法律を知らない素人です。ほんとうに,幹部は,上記のような発言をしたのでしょうか。真意が伝わっていないなら,名乗り上げて,しっかり弁明したほうが,厚労省の為です。

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2018年4月 7日 (土)

働き方改革推進法案の閣議決定

 働き方改革推進法案が,閣議決定したそうです。法案はもう公表されているのでしょうか。私は,法案そのものは,まだみていませんが,法案要綱はすでに発表されており,今回のビジネスガイドの「キーワードからみた労働法」でも取り上げました(たいへん申し訳ありませんが,時間外労働に関して,追加と訂正があるので,日本法令のHPでご確認いただければ幸いです)。
 法律案の要綱だけをみていると,たいへんわかりにくいところがあるのですが,要するに,時間外労働についていえば,きちんとした上限規制を設けたということです。私が要綱を読んで理解した範囲で述べると,まず法定労働時間(1週40時間,1日8時間)の例外として,三六協定で定めることができる時間外労働の例外(免罰的効果や強行性の解除の効果)の枠の上限(限度時間:1カ月45時間,1年360時間))に,従来にはない拘束力をもたせ,さらに臨時の必要性に基づき延長できる場合(いわゆる特別条項の場合)の枠(1カ月100時間未満[休日労働の時間込み],1年720時間以下)にも上限を設定して拘束力をもたせました。これに反する内容の三六協定は無効となり,無効な三六協定に基づき時間外労働をさせれば,免罰的効果などは発生せず,労基法32条等の違反となります。また時間外労働(+休日労働)そのものの直接規制として,(三六協定に基づく場合であったとしても)単月100時間未満かつ複数月平均80時間以下の上限が罰則付きで定められています。
 一見,たいへんな規制強化のようでもありますが,よくよくみると,これらの時間数の水準は,それほど厳しいものとは思えません。むしろ遅ればせながら,日本でもようやく絶対的上限(年720時間,月100時間,かつ変形制で月平均80時間)が導入されたということで,これは望ましいことだと考えています。
 他方,高度プロフェッショナル制度については,野党が強く反対しそうです。他の政治案件ともかかわるのでしょうが,反対はやめてもらいたいものです。いつも述べているように,拘束的に働く労働者にはきっちりした労働時間規制をし,他方,創造的な業務などで自己裁量・自己管理的に働くことに適した労働者には労働時間規制を思い切ってはずすというメリハリが,これからの労働時間規制においては不可欠なのです。高度プロフェッショナル制度は,私の求めるものを十分に満たしていませんし,この働き方に対して健康確保などを言い過ぎるのは適切でないと思っています(私案は『労働時間制度改革』(中央経済社)を参照)が,それでも,この程度のもの(私からみれば規制過多です)であっても,国会を通過しないようでは困ります。
 以上のコメントは速報的なものですので,同一労働同一賃金の部分も含め,具体的なコメントは,法案の原文を確認したうえで発表したいと思います。 

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2018年4月 2日 (月)

ヘルステックが面白い

 労働新聞で連載中の「雇用社会の未来予想図-技術革新と働き方-」の第12回目は,「先端技術で健康管理が変わる」です。第11回目はHRテックを扱いましたが,今回は関連する流れで「ヘルステック」です。健康管理とテクノロジーの融合の重要性は,このブログでもときどき言及しているものですが,この技術は労働法にも影響を及ぼすのではないかと考えています。
 労働時間規制の重要性は減り(なくなることはありませんが),より直接的な健康管理のあり方が模索されることになるのです。経済産業省と日本総研の「ウェアラブルなどを活用した働き方改革における健康確保に係る委員会」に参加して,そこでプレゼンをしたり,議論に参加したりしたことをきっかけに,いっそう問題意識が鮮明になってきました。
 従来,労働者の健康確保という研究テーマは,主として労働安全衛生法や安全配慮義務に関する領域とされ,ごく限られた研究者しか取り組んできませんでした。私はこの領域に,自己管理・自己責任論を導入していく理論的可能性を探ろうと思っています。それはインディペンデント・コントラクター(IC)の健康確保という話にもつながります。私の頭の中では,先日の日経新聞の経済教室でも書いたICの法整備のなかの一つの重要分野という位置づけですが,さらにその具体的な規制内容を考えていくと,健康保険などの社会保険の領域にもつながっていくと考えています。
 いずれにせよ,ヘルステックは重要なテーマなので,日本法令で連載中の「キーワードからみた労働法」のなかでも取り上げるつもりです。詳細な解説は,そこを参照してください。さらにできれば今年中に,別の媒体で,具体的な政策提言にも踏み込めればと思っています。

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2018年3月30日 (金)

年度末の雇止め

 年度末です。日本独特の一斉異動,一斉退職が始まります。とりわけ2018年の3月末は,新たに有期労働契約でトータル5年の期間が満了して更新されないために辞めるというパターンが多いのではないでしょうか。もっとも,現在は人手不足なので,それほど雇止めにされる人はいないかもしれません。それでも,労働者本人も使用者も有期労働契約のまま5年を超えてもよいと考えているにもかかわらず,無期転換ルールがあるので雇止めにされたという人の話は,私の耳にも入っています。そうした人のなかには,クーリング期間を置いて復活する人もいます。傀儡法人に転籍させて,5年後に戻すといった脱法的な企てを耳にしたこともあります。いつも言っているように,無期転換権を事前に放棄することが認められれば(放棄の要件は厳格にされるべきなのは当然ですが),こうしたことがなくなると思うのですが,この私の主張は受け入れられていません。
 2018年4月になると,無期転換権を取得する人も現れることでしょう。この大変な悪法(労働契約法18条)は,悪運が強く,景気がよい時期に重なって,企業がすすんで無期転換をしたため,むしろ現実を先取りした規定という印象を与えています。しかし,景気がよくて自発的に無期転換が進むなら,労働契約法18条のような規定は本来不要であったともいえます。それなら,景気が悪いときもあるから,そのときにそなえて同条は必要だという反論もありそうですが,景気が悪いときには5年以下での雇止めが増えるでしょうから無期転換は起こりにくいでしょう。それに,もし経営状況の悪い企業で無期転換がなされると,経営状況はより悪化し,景気もいっそう悪くなるので妥当な政策とはいえないでしょう。どっちにしても問題の多い規定なのです。
 欧州にだって,類似の規定があるではないか,という反論もありそうです。ただ,日本のこの規定の導入(2012年。施行は2013年4月)には,法による強制的な人事改革(非正社員をなくせ)という面があったのです。私は,そこが気に入らないのです。法がこういう強引なことをすべきではないと考えていますし,それをやると,必ず副作用が出てくるでしょう。たとえば,「非正社員をなくせ」というのは,実はみんなを非正社員にするのと同じことになる可能性が高いのです(正社員ばかりになると,正社員でも雇用調整を容易にできるようにする必要があり,そうすると非正社員化していくのです)。
 いずれにせよ,労働契約法18条は,企業に対して,有期労働契約は5年までのところで,その労働者を無期にするか,雇止めにするかの選択を求める意味をもっています。労働者からすると,両者には天と地の差があります。無期になれるという道が開かれたことによって,雇止めのショックは大きなものとなるでしょう。これも同条の副作用の一つでしょう。

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2018年3月28日 (水)

職場のパワハラの法規制

 厚生労働省で「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」というのが立ち上がっていたようです。HPで調べると,2017年5月に第1回の会合があり,座長は中央大学の佐藤博樹さんでした。委員をみると,人選に個別のコメントはしませんが,人数が多いですね。これだけの委員がいるなかで,議論をまとめて10回の会合で報告書を出すというのは,さぞかし大変なことだったでしょう。
 ところで今朝の日経新聞の朝刊(なぜか社会面)によると,「報告書はパワハラの判断基準として(1)優越的な関係に基づいて行われる(2)業務の適正な範囲を超えている(3)身体的・精神的な苦痛を与える――を示した。企業側に相談窓口の整備や相談担当者の研修,被害者のプライバシーを保護するための規定づくりなどを求めた」とし,ただ「焦点だった法規制は労使間の議論が平行線をたどり先送りされた。今後は労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で検討する見通し」ということでした。
 判断基準については,おそらく「業務の適正な範囲」というのがポイントで,本人の主観的な判断だけではいけないということでしょう。法規制となると,定義を明確にする必要がありそうですが,セクシュアル・ハラスメントでも,そこは指針にゆだねるという方法をとっているので(男女雇用機会均等法11条),同じような方法ができないわけではないでしょう。なお,法律で規制するときに,どの法律に入れるのか(快適な職場の実現という観点から労働安全衛生法になりますかね),独立した法律にするのか,ということも気になりますが,さらにパワハラにどのような訳語をあてるのかも気になります。もともと和製英語ですが,「優越的地位の濫用」だったら独禁法みたいになりますしね。ひょっとしたら行政文書では,もう何か固まった言葉があるのかもしれませんが。
 私は『君の働き方に未来はあるか?-労働法の限界と,これからの雇用社会-』(2014年,光文社新書)において,労働法は飽和状態にあり,これからは規制緩和の時代になるので,労働法に頼る生き方ではいけないということを書いているのですが,その際に,飽和状態という評価の留保として,パワーハラスメントの領域は未規制で残っていると書いていました(103頁。もう一つは受動喫煙を挙げていましたが,その後,きわめて不十分な内容ながら労働安全衛生法に入りました[68条の2])。パワーハラスメントの規制で労働法は真の飽和状態となり,あとはエントロピーの法則により衰退に向かうことになるのでしょうが(異論は多そうです),そのパワーハラスメントの法規制そのものがかなり難しいところがあります。拙著『雇用社会の25の疑問-労働法再入門-(第3版)』(2017年,弘文堂)では「パワハラ」を用語解説にあげており(143頁),そこでも示唆しているのは,パワーハラスメントは,企業内の人間関係など企業風土と密接に関係しているので,基本的には,企業人事が自発的に対応していくのになじむものではないか,ということです。今日の法規制は,エンフォースメントの手法が問われるようになっています。権力的規制ではなく,企業に働きかけて(精神面での)健康経営を促すにはどうすればよいか,という視点でのアプローチを,労政審では議論してもらいたいものです。 

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2018年3月13日 (火)

転職力と情報

 労働新聞の連載「雇用社会の未来予想図」は,第6回と第7回の「日本型雇用の強さと限界 上・下」を経て,第8回は「雇用を守るのは自分だ」ときて,今週号の第9回は「適職探しのススメ」です(手元には第12回分のゲラがあるので,ずいぶん前に書いたものという感じです)。
 日本型雇用システムの変容となると,雇用の流動化ということになり,「転職力」が重要となります。第8回と第9回はそういうことに関して書いています。
 2014年に上梓した『君の働き方に未来はあるか?-労働法の限界とこれからの雇用社会』(光文社新書)では,employability に「転職力」という訳語をあて,これを本全体に通底するキーコンセプトにしています。そこでの主たるメッセージは,労働者よ(とくに若者よ),転職力を高め,適職を探せということです。
 もっとも,こうしたメッセージは,昔からあるものですが,強調したいのは情報の取得方法の重要性です。拙著では,第3章「ブラック企業への真の対策」として「情報開示の重要性」をあげていました。そこでは,企業に対して,社風など,ほんとうに転職希望者が知りたい情報をいかに開示させるかが重要というトーンで書いていました。しかし現在では,こうしたことは,社員のSNSの投稿から分析ができます。今朝の日本経済新聞でも,Vorkers(ヴォーカーズ)のことが紹介されていましたが,こういうサービスを活用することで,社員をとおした情報開示が可能となっているのです。労働者が一番知りたい情報は,そこに眠っていると考えてよいでしょう。よいところに目をつけたビジネスです。日経新聞の記事では投資情報に社員の口コミが使えるという内容でしたが,もちろん求職者も使えます。
 昨年上梓した『雇用社会の25の疑問』(弘文堂)の第3版では,新たに「会社は,社員のSNSにどこまで規制をかけてよいのか。」というテーマ(第10話)をとりあげました(第2版までは電子メールの規制をテーマにしていました)が,そこでの私の結論は,会社は社員のSNSに規制をするのではなく,社員による良い投稿を武器にできるような会社であるべきというものでした。優秀な人材の取り合いという状況になっている現在,会社は投資家対策だけでなく,人材確保という面でも,自社の社員の口コミを戦略的に活用すべきでしょう。労働者や学生側からみると,転職力の向上が,いまや口コミという強力な社内情報の取得方法に依存しているのです(フェイク情報への注意は必要ですが)。
 年休取得状況なども簡単にわかります。横並びで比較されると,年休取得率が低い会社は,印象が悪いですね。
 ところで今朝の別の記事で,「パナソニック,1時間単位で有休」とありましたが,これも企業のイメージアップにつながりそうです。もっとも,この見出しはミスリーディングです。労働法屋がこの見出しをみると,年次有給休暇が1時間単位取得か,とまず考え,「それって現行労基法でも2008年改正以降可能だよな」と考えます(39条4項)。それのどこがニュースなのかと疑問をもつのですが,よく内容をみると,「出産・育児など家庭の事情を理由にした有給休暇」がこれまで半日単位であったのが,1日単位とすることを,労使で協議中ということでした。このほか,同じ記事のなかで,法定の年休と法定外の特別休暇のことがごちゃごちゃに書かれていたりして,少しわかりにくかったです(S社が「17年12月,有休のうち5日分を1時間単位で取れる制度を始めた。パートを含めた全従業員が対象だ」という記事は,上述の39条4項の協定を結んだだけのことなので,とくにニュースになるようなことではなく,企業イメージの過剰アップになっていないかという疑問もあります)。
 転職者は,新聞が垂れ流す情報を鵜呑みにするのではなく,転職候補先の会社の社員からの生の情報をみて,それをきちんと自分で解読しようとする姿勢をもち,その解読のための知識を身につけることが必要でしょう。

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2018年2月22日 (木)

水町勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて』

 水町勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて』(有斐閣)をいただきました。いつも,どうもありがとうございます。現政権の同一労働同一賃金政策を牽引してきた水町さんが,法改正に備えて,啓蒙のために出版したというところでしょうか。個人的には,この政策には反対で,より広い観点から非正社員問題を理論的に論じる本を執筆中ですが,それはともかく,どうしてこういう政策が出てきたかを知るうえでは,とても参考になります。
 資料的な部分が多いですが,政策に深く関与している人の立法経緯の解説的な本となると,有斐閣がやはり強いですね。本書でとくに助かるのが,法改正案がまだ出ていない段階で,要綱の内容を条文化までしてくれて,その解説もついているところです。そもそもネットの要綱のPDFは縦書きでとても見にくくて苦労していたので,有りがたいです(私の日頃のペーパーレスの主張とやや違っていますが)。
 もっとも,実際の法改正の時期は少し先延ばしになったという報道もあります(同一労働同一賃金は野党も賛成なのでしょうが,時間外労働の上限規制強化だけ先行させると企業負担が重すぎるということで政府はバランスをとったのでしょうかね。そうなると,同一労働同一賃金推進派にとっては,とんだとばっちりというところでしょう)。法案審議や可決後の施行が遅れそうになると,法改正の内容についても,もう一もめあるかもしれません。様子見をしていた感のある最高裁判決(長澤運輸事件とハマキョウレックス事件)の動向も気になります。
  有斐閣からは,私がすでに予告していた『解雇規制を問い直す-金銭解決の制度設計』も届きました。こちらは,読んですぐに実務に役立つというようなものではなく,法学と経済学の学問的コラボを味わってもらいたい本です。私たちの提案に則したモデル条文もつけていますが,これはLinuxのようにオープンソース的なもので,研究者に改良を加えていってもらえればと思います。なおモデル条文の別表1は特に具体的には掲げていませんが,そこには解雇禁止を定める法律が盛り込まれることが想定されており,今後,その内容は可変的です。別表2以下は,具体的な金銭補償額が図表化されていますが,これも可変的で,毎年改訂されていくことが想定されています。法律はルールだけ定め,その内容は経済学者の手により改訂され,ネットで公開されていくというようなことができれば,これも新たな立法の形式として面白いのではないかと思います。本の中でははっきり書いていないので,追記しておきました。

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2018年2月20日 (火)

フリーランス労働法?

 今朝の日本経済新聞で,「フリーランスに最低報酬 政府,労働法で保護検討」という記事が出ていました。いよいよフリーランスの問題に,本格的に政府が取り組むのか,ということで喜ばしいと思ったのですが,記事をみていると,いろいろ突っ込みどころがあります。プロからみたコメントは,ちょうど昨日,フリーランスについて原稿執筆依頼があったばかりなので,書くエネルギーはそこに取っておきます。なお私の政策提言は,英語でよければ,15日に流れたNHKのRadio Japanを聞いていただければよいし,拙著『AI時代の働き方と法』(2017年)の第7章に詳しく書いています。
 ただ少しだけ書いておくと,最低報酬という点は,家内労働法の延長線上の話なのでしょうが,フリーランスのニーズに必ずしも合っていないように思えます。昨年,フリーランス協会主催で,フリーランスと労働法についてのマスコミ向けのブリーフィングをしたときにも論点になったものですが,フリーランス側は,その時点では,必ずしも最低報酬などの強制的な規律を望んでいませんでした。厚生労働省にやらせると,家内労働法からスタートというようなことになってしまうのでしょう(みなさん家内労働法の最低工賃の設定の手続がどのようなものかご存じでしょうか。それを知れば,とてもフリーランス向けに適合的とは思えません)。あるいはクラウドワーカーの現状を見よ,ということになります。こういう発想でこの問題にアプローチをしてはならないというのが,私がずっと主張していることです。
 そもそも,政府はフリーランスのことを扱っている余裕などないのではないでしょうか。厚生労働省は,経産省の動きが気になるのでしょうが,本丸の雇用労働者のほうの働き方改革が暗礁に乗り上げそうになっています。4日前にも書いたように,きちんと労働法制がわかっている人をブレーンにつけなければ,また失言が起こりかねません。労働法のなかでも,労働時間法制はきわめて複雑で,労働法専門の法律家しか正確なアドバイスはできないでしょう。東京には労働法の研究者はたくさんいるので,ちょっとアドバイスを受ければすむ話だと思うのですが,アドバイスを求める側が,どこが地雷かわかっていない可能性がありますね。
 今朝の日経新聞で日本総研の山田久さん(拙著『労働時間制度改革』(中央経済社)の書評を日経新聞でしてくださった方)も,私がブログで書いたのと同じようなコメントをされていましたが,まさに「本質の議論」をしなければならないのです。野党は敵失に欣喜雀躍するのではなく,日本の将来にとって必要な労働時間制度を一緒に作り上げようというような建設的な議論をすべきです。裁量労働制などを含む広義のホワイトカラー・エグゼンプションは,解雇の金銭解決と同様,導入の是非を論じる段階ではなく,どのような制度にするかを議論すべきです。10年後の日本人から,あのとき何であんな小さいことで時間を空費していたのか,ということにならないようにしてもらいたいです。といっても,現在の国会議員に,そんな未来のレピュテーションを気にしろというのは無理なことかもしれませんが。

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2018年2月16日 (金)

人材と競争政策に関する検討会報告書

 昨日,公正取引委員会が,「人材と競争政策に関する検討会報告書」を発表しました。事務局は,もともと芸能人の専属契約の問題などについて関心をもっていたようで,人材獲得競争をめぐる独占禁止法上の問題について検討しようとした,たいへん興味深いものです。
 もとより私もインディペンデント・コントラクターらを自営的就労者と呼んで,その人たちに対する法的規律のあり方を考えていくべきだと,しつこく述べており,競争法上の問題はそのなかの主要な部分を占めるものです。競争法上は,むしろ優越的地位の濫用といった切口が主たるものとなるでしょう(報告書でも若干取り上げられています)が,この報告書は,発注者側の人材獲得について競争制限的な行為が行われているという点にフォーカスをあてています。
  いずにれせよ,今後の自営的就労者をめぐる法的問題の研究にとって,重要な意味をもつ報告書だと思います。私自身は,公正取引委員会の範囲内の問題にとどまらず,むしろ民事上の新たなルール形成が必要と考えており,そのために,現在,法分野の横断的な共同研究ができないかと考えているところです。
 それはさておき,この報告書の発表に合わせてということなのですが,事前にNHKのWorld Radio Japanから,フリーランスのことについて私のコメントをほしいということで,取材に答えていました(取材は13日)。報告書の内容とは直接関係するものではなく,フリーランスがなぜ重要となっているか,どのような問題が起きているか,それについて,どのような政策的課題があるかという,いつもの論点について,15分ほどのインタビューでしたが,答えています。
 その内容が,英訳されて昨日流れました。私の生の音声(日本語)も5秒ほどですが,流れています。初めてのラジオ出演です(いろんな仕事があるものですね)。関心のある方は,ここからアクセスできます(ちょうど6分40秒くらい経過後にフリーランスの話が登場しし,私へのインタビュー内容はその1分後,さらに私の声は1分後くらいに登場します)。
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/upld/medias/en/radio/news/20180215200000_english_1.mp3

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