将棋

2017年4月23日 (日)

名人戦第2局

 将棋名人戦は,佐藤天彦名人が稲葉陽八段に勝って星をタイに戻しました。急戦で,後手の名人が攻め倒した感じです。ただ現在は,将棋界の話題は,名人戦よりも,また名人対将棋ソフトの対戦でもなく,藤井聡太四段がデビュー以来の連勝をどこまで伸ばすかということに移っています。13連勝のことは新聞にも出ていました。しかも,その13連勝目は,NHK杯で,躍進著しい千田翔太六段に勝ったというものです。NHK杯は,放送までは結果は知らされないのですが,これは例外中の例外ではないでしょうか。どのような将棋であったか楽しみです(放送は5月14日です。この日は視聴率が上がるでしょうね)。
 藤井四段は公式戦ではありませんが,炎の七番勝負では,増田康宏四段,永瀬拓矢六段,斎藤慎太郎七段,中村太地六段,深浦康市九段,佐藤康光九段と対局し,永瀬六段に負けただけの5勝1敗と,こちらも好調です。最終局は,23日に羽生三冠が相手ですが,どうなるでしょう。
 これも非公式戦ですが,「第零期 獅子王戦」では,藤井四段は羽生三冠と対局して,羽生三冠の勝ちとなっています。
 14連勝がかかる公式戦は,26日に棋王戦の予選で平藤真吾七段と対局です。羽生三冠にもち勝ち,さらに公式戦無傷の14連勝を達成すれば,また新聞で大きく報道されるでしょうね。

|

2017年4月 7日 (金)

名人戦

 名人戦が始まりました。若手のフレッシュな対決です。初戦は稲葉陽八段が勝ちました。封じ手以降,佐藤天彦名人の手は冴えなかったですね。3四角の飛金両取り以降,後手の稲葉八段が一方的でした。72手の短手数であるのは,横歩取りの激しい戦型からして仕方ないのですが,名人戦としては,若干物足りないものもありましたね。
 佐藤名人は,コンピュータに負けたショックも引きずっているのでしょうか。稲葉八段の充実ぶりもありますが。まだまだ長丁場です。ほんとうの勝負は6月でしょう。

|

2017年4月 1日 (土)

電王戦第1局

 名人がソフトになすすべなく敗れるというのは,20年前ならエイプリルフールのネタだったかもしれません。
 今日の佐藤天彦名人とPonanzaの戦いは,71手で先手のPonanzaの勝ちでした。コンピュータのあまりの圧勝で,言葉もありません。Ponanzaの初手3八金という鬼手に,名人は幻惑されたのかもしれません。手が進んで,後手の名人が8筋突破と桂取りを狙って指した9八角が疑問だったようで,先手が2九飛と桂取りを受け,さらに8八歩と桂取りに打ったところで,もう先手が勝てない変化になっていたようです。どちらの玉にも手がついていませんが,後手の名人に勝ち目はなくなったようで,早めの投了になりました。
 第2局は5月にあります。佐藤名人は,稲葉陽八段との名人戦の真っ最中のなかでのPonanzaとの対局となります。なんとか頑張ってほしいですね。
 棋王戦は,渡辺明二冠が逆転防衛で,千田翔太六段はあと一歩のところでタイトルを逃しました。このあと1勝が若手にとって遠いのです。ここを乗り越えられるかが,一流棋士になれるかどうかの試金石です。ちなみに千田六段は,コンピュータを使って強くなったと広言している棋士です。
 森内俊之九段のフリークラス転出もびっくりしました(順位戦には参加しないということ。名人に復帰する道がなくなる)。永世名人資格者であり,B級1組への陥落はプライドが許さなかったのでしょう。谷川浩司九段はB級1組に落ちても頑張っていますが,このあたりは生き方の違いですね。谷川九段も,もしB級2組に落ちればフリークラス宣言をするでしょうが,本人はB級1組はA級と実力差はほとんどなく,そのクラスにいるかぎり,第一線で指しているという意識をもっておられるのでしょう。ぜひ頑張ってほしいです。
 NHK杯の佐藤対決は,康光九段が勝ち,3回目の優勝となりました。和俊六段は快進撃でしたが,最後は元名人の康光九段の前に敗れました。相撲でいえば,文句なく三賞独占です。決勝の将棋も,最後までハラハラする接戦で,解説の羽生善治三冠も言っていたように,非常に面白い将棋でした。和俊六段は敗れたとはいえ,実力を十分に発揮したと思います。
 康光九段は,2月に会長になり,すでに多忙になっているでしょうが,そのなかでの優勝は見事です。

|

2017年3月19日 (日)

ハッシー敗れる

 先ほど終わったNHK杯戦は,佐藤和俊六段がハッシーに勝ちました。ハッシーはあと一歩だったですが残念でした。私は対局中,ハッシーが2八歩を見落として,また二歩をやらかさないかハラハラしていました。 
 佐藤六段は,順位戦は最も下のクラスのC級2組ですが,これで決勝進出となりました。佐藤というと,現名人の佐藤天彦,決勝の相手の元名人でA級棋士の佐藤康光九段など数名いますが,最もマイナーであった和俊六段も,これで一躍有名になったでしょう。大波乱の優勝が起こるでしょうか。C級2組は,かつて櫛田陽一当時の四段が優勝したことがありました。今回は,和俊六段は,何と言っても羽生善治三冠に勝っていますし,前回優勝の村山慈明七段にも勝っており,これで康光九段に勝って優勝すれば,誰もフロックとはいえないでしょう。
 王将戦は,久保利明九段が勝って,王将に復位しました。これで5期目となります。郷田真隆九段は3連敗後,2連勝して粘りましたが,最後に力尽きました。久保九段は,兵庫県加古川市出身の私にとっての地元棋士です。41歳の差し盛りの世代です。まだまだ頑張って欲しいです。久保九段は,順位戦でもB級1組首位で見事にA級復帰を決めていて,好調な1年の締めくくりとなりました。
 A級では振り飛車党は久保九段だけです(かつては広瀬章人九段も振り飛車党でしたが,いまは違います)。振り飛車はアマチュアにとって,わかりやすい戦法なので,久保九段の将棋は人気があります(とはいえ,「さばきのアーティスト」と呼ばれるところなど,レベルが高い将棋です)。
 B級1組からもう一人の昇級は,これまた関西勢の豊島将之(新)八段です。もっと前に昇級しそうでしたが,やっと昇級できました。最後は幸運で,山崎隆之八段が勝てば昇級だったのですが,阿久津主税八段に敗れて,糸谷哲郎八段に勝った豊島七段が昇級を決め八段になりました。一方,山崎八段は大きなチャンスを逃してしまいましたね。豊島七段との直接対決で敗れたのが痛かったです。
 降級のほうは,郷田(前)王将が,飯島栄治七段と,負けた方が降級という戦いに勝ってかろうじて残留となりました。最後に2連勝しての残留はさすがですが,王将は久保九段にとられてしまったので,来年度は再起の年になります。
 B級2組からは,斎藤慎太郎(新)七段が,1期で抜けて昇級。また菅井達也七段もようやく昇級で,次年度のB級1組は,関西勢が,谷川浩司九段というレジェンドがいて,山崎八段という若大将がいて,糸谷八段,斎藤七段,菅井七段という将来有望な若手がそろう激戦となります(ちなみに,糸谷八段は大阪大学の修士号をとったことがニュースになっていましたね)。A級からは森内俊之九段が落ちてくるので,おそらく来年度のB級1組は,谷川・森内という二人の永世名人や丸山忠久元名人,郷田真隆元王将らが降級候補とならざるをえない厳しい展開です。もちろん,谷川ファンとしては,降級しないように,ひたすら応援です。
 棋王戦は,これまた関西勢の千田翔太六段が渡辺明竜王に勝って2勝1敗になり,奪取に王手をかけています。
 何年か前から関西の若手勢は注目を集めてきましたが,2年前の糸谷八段の竜王奪取あたりから,ようやく形になって現れてきているようです。

|

2017年2月26日 (日)

将棋界の一番ながい日

 A級順位戦の最終局の結果は次のようになりました。
 まず名人挑戦者争いについては,羽生善治三冠が,これまでカモにしていた屋敷伸之九段に敗れて,挑戦者争いから脱落しました。佐藤康光九段(新会長)は,広瀬章人八段との熱戦を制しました。これで,広瀬八段も挑戦者争いから脱落して,稲葉陽八段の挑戦が決定しました。この稲葉八段は,森内俊之九段と千日手で指直しとなっています。森内九段は勝てば残留で,佐藤九段が降級,森内九段が敗れれば,そこで降級です。森内九段は指直し局では粘ることができず無念の投了となりました。いつかは来るかもしれないことでしたが,第18世永世名人で,2013年には竜王と名人という最強タイトルの2冠であったことを考えると,早すぎる降級になってしまいました。それにしても来年のB級1組は,今年以上にたいへんなメンバーで戦われることになりそうです。佐藤九段は,最近のNHK杯でも若手を撃破するなど調子が上がってきていて,今期はかろうじて残留となりました。
 4月からの名人戦は,佐藤天彦名人と稲葉陽八段というフレッシュな対決です。稲葉八段は,初タイトル挑戦が名人戦ということになりましたが,関西の大先輩の谷川浩司九段と同じように,A級1期で一気に名人位に駆け上がれるでしょうか。数年前のNHK杯では,天彦名人が勝っていたと思いますが,それほど対戦はしていないはずです。天彦名人としては,ベテラン相手のほうがかえって戦いやすかったかもしれません(天敵の深浦康市九段は除く)が,どうなるでしょうね。
 女流名人戦は,里見香奈女流5冠が,上田初美女流三段(数日前のブログで女流初段と書いて失礼しました)を200手に及ぶ激戦の末に下して防衛しました。最終局はお互いの執念がぶつかりました。途中で上田さんにも勝ち筋があったようですが,最後は里見さんがうまくかわして,玉を安全地帯に逃がすことができました。
 ところで先日,初の外国人の女流プロが誕生したということがテレビのニュースでも話題になっていました。これを見た人は,プロ棋士が誕生したように誤解してしまいそうな報道の仕方だった気がします。里見さんたちは女流プロではあっても,正式な意味でのプロ棋士ではありません。女流プロをプロ棋士と呼んで間違いとまでは言えませんが,まさに現在里見さんがプロ棋士を目指して三段リーグで奮闘していることからもわかるように,女流プロのトップ棋士でも,本当の意味でのプロ棋士である四段になるのは至難の業なのです。
 女流プロというのは,いわば女性枠だけのもので,将棋のレベルということから考えると,現在は男性しかいないプロ棋士のレベルと格段の違いがあります(ときどき女流が男性プロ棋士に勝つことはありますが。稲葉八段も里見さんに負けたことがあります)。
 外国人が女流プロになるということは,グローバル化という点では良い話のようですし,暗い話が多かった将棋界にとっては明るいニュースでしょうが,それだけのことです。里見さんが四段になったとき,そしていつか男女に関係なく外国人がプロ棋士になったときこそ,ほんとうの価値あるニュースとなるでしょう(日本将棋連盟が外国人に入会を認めているかどうかは勉強不足でよく知りません)。

|

2017年2月19日 (日)

ハッシー強し

 今日のNHK杯は,王将奪取に王手を掛け,先日,A級復帰を決めたばかりの久保利明九段とハッシー八段の対局。先手の振り飛車穴熊の久保九段が,ダイヤモンド美濃のハッシーを完全に封じ込めたように思えましたが,劣勢のなか,決死の馬切りで活路を見いだし,金を犠牲にして龍と飛車を交換します。しかし攻めは,龍とと金の細いもので,一方,久保九段は1段目に飛車を打って,下段からハッシーの玉を追いつめます。久保九段完勝の流れでしたが,ハッシーが玉の逃げ道を作ると同時に攻めも睨んでいた7筋の歩突きで,ついに詰めろがかかる局面まで挽回し,そして最後は入玉もにらみながら,気づけば逆転していました。まさに大逆転ですが,劣勢のときは早指しで相手を調子づかせてミスを誘い,優勢になってからは,ハッシーの正確な指し回しが光りました。最後の大事なところで1分を残していて,万が一にもミスはしないという用意周到さも,ハッシーのプロ棋士としての能力の高さを示すものでした。前回の深浦康市九段相手にも大逆転でしたが,大物相手の連勝で,初優勝も視野に入ってきましたね。あとは昨年のように二歩はしないでくださいね。
  久保九段が昇級を決めたB級1組(ラス前)で,もう一人の昇級者の決定は,最終局に持ち越しとなりました。谷川浩司九段に勝った山崎隆之八段は8勝3敗で,次の阿久津主税八段に勝てば自力で昇級です。阿久津八段は,郷田真隆王将に勝っていれば,久保九段に次ぐ昇級候補の一番手になっていたのですが,敗れて7勝4敗となり,逆に3勝の郷田王将に残留の目が出てきました。ただ最終局で,阿久津八段が山崎八段に勝てば8勝4敗で星がならび,あとは同じ7勝4敗の豊島将之七段と糸谷哲郎八段(6勝5敗)との対局次第となります。順位の関係では,豊島七段,阿久津八段,山崎八段の順番なので,3人が8勝で並べば豊島七段の昇級となります(頭ハネ)。糸谷八段はライバルの豊島七段の昇級を阻止するでしょうが。山崎八段と豊島七段は,昇級すれば初のA級です。高い実力が評価されながら,B級1組で足踏みしている豊島七段,魅せる将棋で天才の誉れ高い山崎八段のどちらが昇級しても関西勢なので,嬉しいところです。阿久津八段も前は1期で全敗して陥落したので雪辱をねらっているところでしょう。
 ハッシーは木村一基八段に勝ち(6勝5敗),木村八段に残っていたA級復帰の可能性を絶ちました(木村八段は,7勝5敗で今期終了)。
 降級候補は,ともに3勝8敗である飯島栄治七段と郷田王将で,最終局で激突します。どちらも,負けた時点で即降級となります。飯島七段は勝っても,畠山鎮七段が勝てば降級です。畠山七段は,敗れれば即降級ですし,勝っても,郷田王将が勝っていれば降級となります。つまり郷田王将は勝てば残留,負ければ降級で,他人の対局結果に関係しない状況です。
 B級1組も,今期の最終局(3月9日)は,A級と同じくらいに盛り上がりそうです。
 タイトル戦は,佳境に入った王将戦(7番勝負)は,郷田王将が一矢を報いましたが,防衛には3連勝しなければならず厳しい状況が続いています。久保九段は王将奪回目前です。
 棋王戦(5番勝負)は,渡辺明棋王(竜王)が,千田翔太六段に勝って,1勝1敗です。勝負はこれからです。千田六段は,NHK杯でも,先週,佐藤康光九段(新会長)に敗れており,調子が下降線にあるのでしょうか。
 来週は,女流名人戦(5番勝負)の最終局もあり,里見香奈さんが女流五冠を守るかが注目されています。上田初美女流3段が2連勝し,里見さんが2連勝して星が並んでいます。ちなみに里見さんはプロ棋士(現在は女流棋士)をめざす三段リーグ(年2期)にも在籍しており,昨日まで7勝7敗です。今日も対局があります。三段リーグは上位2名が四段昇段(プロ棋士になる)で,3位の次点が2回であってもプロ棋士になれます(ただし,その場合は,順位戦のないフリークラスへの編入)。里見さんの今期の成績は厳しいですが,少しでも順位を上げておいて,次期以降の昇段の可能性を残しておいてほしいですね。三段リーグは26歳の年齢制限があり,もうすぐ25歳になる里見さんに残されているのは,時間との戦いになります(勝ち越せば29歳まで延長可)。
 そういえば,三浦弘行九段の復帰戦は,羽生善治三冠との一戦で,因縁の竜王戦の予選でしたが,羽生三冠の勝利でした。メディアでも大きく報道されましたね。

|

2017年2月 3日 (金)

谷川会長入院を案ずる

 もう1日,将棋の話を。谷川浩司九段が,入院という気になる記事が出ていました。病名はわかりませんし,政治家の入院のように,マスコミからの隔離のためのものかもしれません。後者ならいいのですが。静かに休んでほしいです。5日に始まる棋王戦の前夜祭が4日にあるということで,そこに登場して混乱を生むのは適切でないと考えたのかもしれません。棋王が,三浦騒動のきっかけとなった渡辺明竜王であること,挑戦者の千田翔太六段も,三浦不正疑惑の検証に駆り出されていたということもあって,これに谷川会長までそろうと,マスコミはいっそう騒ぐかもしれませんからね。それに谷川会長自身,6日に会長を辞職することになっているので,もはや会長として発言すべきではないという判断をしたことも考えられます。
 何よりも健康第一です。棋士は将棋を指すことが何よりです。谷川九段も1月26日の順位戦(B級1組)では木村一基八段に快勝して星を5勝5敗に戻し,残留を確定させています。谷川九段の症状が悪いとしても,それは会長職のような雑務をやるときだけで,将棋を指しているときには元気になれるというようなものであってくれればと願うばかりです。
 それにしても,三浦不正疑惑の採りあげられ方は少し異常です。これを日本将棋連盟の対応のまずさとして扱うのなら,まず次のような例を考えてみてください。

 A出版社が,著名なフリーライターBに月刊誌の連載記事の依頼をしていた。ところが,Bの連載記事には,一部の同業者から,この連載にネットからの盗用の疑いを指摘されていた。次号の出版時期までの時間的余裕がなかったため,A社はあわてて専門家を集めて検討したが,そこでは盗用の疑惑を払拭できなかった。そのため,やむなく次号ではBの連載記事を掲載せず別の原稿をあて,その理由も掲載し,Bの連載を3カ月間停止することとした。Bはライター人生に影響する措置だとして猛烈に抗議し,A出版社は検証のための第三者委員会を設置した。第三者委員会は盗用の疑惑は確認できなかったが,連載の3カ月間停止はやむなしとの判断を下した。そこでA出版社はBの名誉回復の措置をはかり,連載の再開も約束した。

 Bはとても気の毒ですが,だからといってA出版社の対応はどこまで非難されるべきでしょうか。いろいろな意見があるでしょうが,誰かを悪者にせよという話ならA出版社のほうになるでしょう。しかし悪者(あるいは加害者)を無理に作らなくてもいいのではないでしょうか。誰も悪くないということだってありうるのです。善(被害者)vs悪(加害者)という図式はわかりやすく面白いのでしょうが,それは当事者にとっては迷惑なことです。三浦九段だって,もっと静かな環境で将棋を指したいでしょう。
 ちなみに雇用労働者でいえば,懲戒事由の疑いがある労働者を,しばらく(懲戒ではない)出勤停止(自宅待機)にすることは,通常,有効と認められます。ただ,その場合には賃金は支払われなければなりません。ここが自営業者である棋士と違うところですね。
 プロの将棋は興行であると割り切れば,私なら,三浦九段名誉回復棋戦と銘打って,渡辺明竜王とのリベンジマッチ3番勝負なるものを企画するかもしれません。それこそ棋士を馬鹿にするなと怒られそうですが,どうせマスコミに騒がれるのなら,プロ棋士らしく将棋で決着をつけるというのは悪くないと思います。スポンサーもつくと思いますが。
 さて昨日の王将戦ですが,途中まで先手の郷田真隆王将が優勢でした。3三に成った,と金が,大移動して最終的には後手の久保利明九段の6三の飛車との交換になりました。一方,と金から逃れて2五に飛んだ桂馬は全然働いていません。先手の飛車は1六で攻撃にはまったく参加していませんが,六筋の受けに効いています。先手が101手目に3二飛を打って遠くの8二玉をにらんでいるところでは先手有利と思えました。しかし後手4二歩,先手同飛成りと飛車を4二に移動したところで,後手の2四角が飛車あたりになり少し怪しくなってきました。先手は3三歩と角あたりを止めましたが,ここから後手の猛攻が始まります。118手目に後手が6六の飛車取りに5七銀と打ったところがポイントでした。この手は詰めろ(守られなければ詰んでしまう状況)ではなく,飛車には6七金のヒモがついているので,ここは後手の攻撃の先端にいた7九銀を先手の8九金で払っておけば,先手は飛車はとられますが,後手は2四の角と飛車1枚だけしかないのでなかなか攻めきれないのではないか,と思われました。ここを受け切りさえすれば,先手は5二歩成りといった横からの確実な攻めがあります。ところが,郷田王将は,飛車を6五に逃げてしまったのです。「ヘボ将棋,玉より飛車を可愛がり」という格言もありますが,郷田王将のことですから,そういうことではなく,なにか錯覚があったのでしょう。すかさず久保九段は6六歩と打ち,勝負は決まってしまいました。ここで同飛なら3手前と同じ局面ですが,先後が入れ替わっています。一手パスと同じなのです。しかも,これは詰めろとなっています。
  これは素人にもわかるような凡ミスを終盤の肝腎なところで郷田王将ほどの人がやってしまったということです。とはいえ,119手目でどういう手をさすのかは難しいところですが,いずれにせよ飛車を見捨てて受けを固めて,確実な攻めに期待するしかなかったのでしょう。
 久保九段はこれで3連勝で,王将復位まであと1勝となりました。実は1月26日のB級1組の順位戦でもこの両者は対戦して久保九段の勝利となっています。B級1組では郷田王将は順位は1位ですが,成績は2勝8敗で現在最下位で,明暗が分かれています。それになんと次の2月5日のNHK杯でも両者は対局するのです(こちらは録画なので,すでに対局は終わっているでしょうが)。
 これまで両者の対局は郷田王将のほうがかなり分が良かったのですが,ここにきて久保九段が盛り返しています。いまちょうど郷田王将の不調と久保九段の好調がぶつかってしまって,ここで対局が集中してしまったのは,郷田王将にとっては不運ですね。王将戦はもう厳しいですが,せめて順位戦は残りを連勝して陥落は免れてほしいです。次の阿久津主税八段戦に負けて,現在3勝7敗の畠山鎮七段か飯島栄治七段のどちらかが勝てば,郷田王将のB級2組への陥落が決まってしまうのですが・・・。

|

2017年2月 2日 (木)

A級順位戦第9局

 Google の最高裁判決は,AIの問題とも関係してくるので,また後日コメントをしてみようと思っていますが,個人的により大きな関心は将棋です(平和ですね)。少し前のこのブログで,「次の第9局で佐藤九段が深浦九段に勝ち,森内九段が屋敷九段に勝てば,最終局は血みどろの戦いになる可能性がありますね。このとき,もし第9局で,稲葉八段が渡辺竜王に負けて,広瀬八段が行方八段に勝っていれば,最終局は,降級にかかわる3人が,全員,挑戦にかかわる3人と対局することになり,近年まれにみるドラマティックな「将棋界のいちばん長い日」になる可能性があります。」と書いていたのですが,ほんとうにそういうことになりました。驚きです。稲葉陽八段は,渡辺明竜王と激戦でしたが,右玉戦法を採用した渡辺竜王が稲葉八段の猛攻を耐え抜き160手で勝利。負けると降級の可能性が高まる佐藤康光九段は,途中,捨て身の銀捨てなどをするなど鬼手を放ち,それでも必敗の情勢でしたが,大逆転で深浦康市九段に勝ち,最終戦に期待を残しました。こちらは179手です。27手目に指していた1五歩が最後に佐藤玉の逃げ場を作り勝ちをもたらしました。やはり端歩は受けよ,ですね。森内俊之九段は,佐藤九段の結果次第ではまだ降級の可能性があるなか,なんとゴキゲン中飛車を採用しました。私はこの単純な戦法はよく理解できていないのですが,どうも森内九段が終始有利な展開だったようで快勝し,最終戦に残留の可能性を残しました。
  広瀬章人八段は,先日のNHK杯で,永瀬拓也六段に敗れていて心配していましたが,この勝負は行方尚史八段に勝って,三浦弘行九段戦に不戦勝であった羽生善治三冠とともに,プレーオフ進出の可能性を残しました。
 稲葉八段は,最終戦で森内九段に勝てば,挑戦確定。負けると,羽生三冠と広瀬八段がともに負けないかぎりプレーオフ。逆に羽生三冠と広瀬八段は,それぞれ勝って,稲葉八段が負ければプレーオフということです。最大3人のプレーオフの可能性があります。3人のプレーオフになると順位が上の羽生三冠が有利になります。
 それで気になる相手ですが,羽生三冠は屋敷九段,広瀬八段は佐藤康光九段なのです。最終局は渡辺・行方戦以外は,すべて挑戦か降級にかかわる対局となります。屋敷九段は羽生三冠を大の苦手にしていて,たしか17連敗くらいしていたと思います(プロの世界でこれだけの連敗は普通考えられないことです)。名人経験者の森内九段と佐藤九段は,挑戦権をかける若手を相手に底力を出す可能性もあり,現時点では実は屋敷九段が降級候補の筆頭かもしれません。終わってみれば,羽生が挑戦で,森内,佐藤が残留という羽生世代の強さが目立ったということになる可能性もありそうです。最終局(将棋界のいちばん長い日)は2月25日です。
 将棋界はAIの問題などで騒がれていますが,この星取り表と激戦の人間ドラマをみているだけで,ファンは十分に楽しむことができます。

 

|

2017年1月19日 (木)

谷川浩司会長を助けよう

 私は谷川浩司九段のファンですから,以下に書くことはもちろん贔屓目が入っています。  
 日本将棋連盟の会長の辞職は引責辞任という形になりそうですが,むしろファンとしては対局に集中してもらえるという点で賛成です。
 三浦弘行事件に関する第三者委員会の調査報告書(概要版)がネットでアップされていました(https://www.shogi.or.jp/news/investigative_report_1.pdf)。なかなかよくできた報告書で,法律家が書いたらしい緻密な構成となっています。
 これによると,三浦九段がクロであるとはいえないということであり,もちろんシロであるとも断定してませんが,そもそも白黒を付けるということは不可能なものです。ただ三浦九段の疑惑を根拠づけるとされた事実について,どれも確認できなかったということです。とくに指し手の一致率について疑惑を根拠づけるようなデータが出なかったことが大きかったと思います。
 疑惑の4対局(対久保九段,対丸山忠久九段[2局],対渡辺明竜王)についての調査は,棋士(匿名)の意見聴取を基礎とした分析で,結論としてクロとはいえないということですが,調査書も認めているように,あまり強い説得力をもつものではありません。棋士は天才集団ですが,そこでも6割以上勝つ棋士とそうでない棋士との間には決定的な差があります。やはり誰の意見を聞くかは重要ですので,匿名の棋士の意見はほとんど意味がないと思います。
 そうなると,トップ棋士が直接対局して感じたものが,やはり大切となりますが,丸山九段は疑惑を感じなかったと言っていましたし,あの渡辺竜王も対局直後は感じていなかったようです。最初に疑惑を指摘したのは久保利明九段ですが,彼は三浦九段が対局で31分離籍していたと主張していたのに,それがビデオでの確認により誤りであったということが明らかになりました。この事実誤認が報告書でも度々指摘されていることから,第三者委員会の判断に大きく影響したのでしょう(これについては久保九段の弁明も聞きたいところです)。
 では,日本将棋連盟にどこまで責任があるのか。報告書にも出てくるのですが,三浦九段にも怪しい弁明があったことは事実だったのです。そして報告書の結論も,連盟が三浦九段に今回の措置をしたことはやむを得なかったということなのです。そこについては,第三者委員会は,実によくプロの棋士の仕組みにも配慮した説得力のある判断をしています。マスコミは,次の報告書の第6の末尾の部分をしっかり読まなければなりません。
 「以上の事情を総合考慮すると,連盟の三浦棋士に対する本件処分は,連盟の連盟所属棋士及び公式戦に対する規律として許容される範囲内の措置であり,やむを得ないものと評価されるべきである。ただし,以上述べたとおり,本件処分は,連盟の目的達成のために,三浦棋士個人に不利益が生じた場合といえるため,上記2(4)のとおり,失われた利益の多寡を含む上記総合考慮の諸要素等に照らし,連盟が三浦棋士に対し,何らかの補償を検討することが適切である。
 なお,本件処分は,本件疑惑に対してやむを得ず行われた措置であり,「処分」という表現はいささか適切さを欠くといえる。もっとも,措置が内容的に許容されるものであった以上,表現が適切でない点は,措置の効力を否定するものとまではいえない。
 また,連盟が本件処分のような措置を採るためには常務会の決議が必要と解されるが,本件処分の決定は常務会を構成する一部のメンバーで行われており,本来の決議はなされていない。しかし,2016年10月11日の時点において,三浦棋士からの休場の申し出等を踏まえ,同棋士を竜王戦七番勝負に出場させない方向性については常務会の全理事間で共有されていたといえること,数日以内に決定に参加していなかった理事の事後的な追認を得ていること,三浦棋士が休場の申し出を撤回した時点以降連盟として緊急の対応を余儀なくされたこと等を考慮すると,この手続上の問題も,本件処分の措置としての効力を否定するものとまではいえない。
 さらに,連盟の三浦棋士に対する通知書には本件疑惑について直接的には言及されていない点で若干正確性は欠くものの,通知書全文を見れば実質的には本件疑惑も含んで総合的に判断したことは明らかであり,本件疑惑について直接的に言及しなかったのは,三浦棋士の名誉に対する配慮もあったといえることから,不合理であるとまではいえず,やはり本件処分の措置としての効力を否定するものとまではいえない。」
 雇用労働者に対する懲戒処分の有効性判断を想起させるような表現が使われていますが,要するに,三浦九段に適切な補償をすることは必要だ(報告書は,最後に,「連盟は,三浦棋士を正当に遇し,同棋士がその実力をいかんなく発揮できるよう,諸環境を整え,一刻も早く将棋界を正常化されるよう要望するものである。」としている)が,連盟という組織の措置として今回の出場停止処分はやむを得なかったものであり,手続的にも問題はなく,有効なものだということなのです。
 ちなみに最後の「第7 本調査を踏まえた当委員会の提言」は,将棋界の将来もみた格調高いものとなっています。

 今回の三浦問題は,コンピュータと人間との戦いという大きな歴史のなかの1頁を刻むものとなるかもしれません。この春にはついに現役の名人の佐藤天彦が,コンピュータの最強ソフトと戦います。4月から始まる人間同士の名人戦よりも,こちらのほうが世間を注目を集めるでしょう。新しい会長には,そういう新しい時代におけるプロ棋士という職業集団のあり方をしっかり考えていってもらえれば,ファンとしては嬉しいです。
 同時に,私たちは人間同士の戦いもまだまだ楽しんでいたいのです。ハッシーが8日のNHK杯戦で,土壇場で深浦康市に大逆転勝利したような将棋こそ人間の勝負の面白さです。谷川九段の「光速の寄せ」だって,もっともっと味わいたいのです。谷川九段は順位戦でB級1組のなか厳しい状況にあります。ここでずるずる負けてB級2組に転落するようなことがあると,引退ともなりかねません。そんなことになったら将棋界の大きな損失です。三浦九段が被害者(それは事実ですが),谷川九段が加害者という図式で,谷川叩きをするようなことは,ぜひしないようにしてください。谷川九段は,違法行為をしたわけでもなければ,無効な行為をしたわけでもないし,非倫理的な行為をしたわけでもないのです。
 心身の不調も言われている谷川九段を助けるために(それは,もっと良い将棋を指してもらうためにです),ファンはもっと声をあげましょう。

|

2017年1月13日 (金)

三浦騒動の影響を受けるA級順位戦

 今期のA級順位戦は,前代未聞の変則形態となりました。昨年末に谷川浩司日本将棋連盟会長から出された発表により(http://www.shogi.or.jp/news/2016/12/post_1492.html),三浦弘行九段は12月までの出場停止期間に2つの不戦敗があったことを考慮し,今回は自動的に残留となり,残りの対局もなし(すでに決まっている対戦相手は不戦勝)となります。その結果,A級からの降級は2名ではなく1名となり,来期は本来の10名ではなく11名で戦うことになります。11名というのは,かつて(1984年)大山康晴名人が,ガンの手術で休場したために,降級とはならず,翌年は順位11位となったという例を覚えていますが,今回の三浦九段もそれと同じような取扱いになるようです。来期のA級は降級が3人となります。
 それで今期のA級ですが,10日,羽生善治三冠と佐藤康光九段は,羽生勝ちで,佐藤康光九段は1勝6敗で苦しくなりました。羽生三冠は次の三浦戦が不戦勝になり,自動的に7勝2敗となります。同日行われた渡辺明竜王と深浦康市九段は,渡辺勝ちで4勝3敗ですが,すでに名人挑戦の可能性はなく,残留も確定しました。深浦九段は敗れて3勝4敗ですが,三浦戦が残っていたことがラッキーで自動的に4勝4敗となり,残留が確定しました。渡辺竜王は,今期の三浦九段の唯一の勝利の対局に敗れたのが痛かったですね。まあこの一局が例の三浦騒動を引き起こしたのですが……。
 11日は,全勝の稲葉陽八段が行方尚史八段に勝ち7連勝。これで残り2局連敗しても,最悪でもプレーオフ進出は確定し,名人挑戦にぐっと近づきました。行方八段は4勝3敗で挑戦の可能性はなくなりました。
 12日は,広瀬章人八段が屋敷伸之九段に勝ち5勝2敗。プレーオフ進出の可能性を残しました。屋敷九段は3勝4敗で,同星の深浦九段より順位が上ですが,深浦九段のように三浦戦の不戦勝がないので,降級の可能性が残っています。
 これで稲葉八段が残り2戦のうち一つ勝てば名人挑戦決定。羽生三冠は残り1戦,広瀬八段は残り2戦を勝つと,稲葉が2連敗した場合にかぎり,プレーオフの進出可能性が残ります。降級は,1勝の佐藤康光九段と,三浦戦の不戦勝でラッキーな2勝目をあげた森内俊之九段と,3勝の屋敷九段のなかからの1人に限られました。佐藤九段は,残り2連敗すれば降級。1つ勝っても,2勝5敗の森内俊之九段が残り2戦のうち1つでも勝てば降級。残り2連勝して3勝6敗になった場合は,少し複雑です。次が森内九段と屋敷九段戦であるため,屋敷九段が森内九段に勝って4勝目をあげれば,森内九段が最終戦に勝っても3勝どまりなので,順位が佐藤九段よりも下の森内九段の降級となります。一方,森内九段が屋敷九段に勝って3勝5敗で並んだとき,最終戦で森内九段(対稲葉八段)か屋敷九段(対羽生三冠)のどちらかが敗れれば,どちらかが3勝6敗となるので,順位の上の佐藤九段は残留で,敗れたほうが降級。森内九段と屋敷九段がどちらも敗れて3勝どまりであれば,順位が下の森内九段が降級。要するに,屋敷九段が降級するのは,佐藤九段と森内九段が残り2連勝し,自身が2連敗した場合だけとなります。
 次の第9局で佐藤九段が深浦九段に勝ち,森内九段が屋敷九段に勝てば,最終局は血みどろの戦いになる可能性がありますね。このとき,もし第9局で,稲葉八段が渡辺竜王に負けて,広瀬八段が行方八段に勝っていれば,最終局は,降級にかかわる3人が,全員,挑戦にかかわる3人と対局することになり,近年まれにみるドラマティックな「将棋界のいちばん長い日」になる可能性があります。

|

より以前の記事一覧