将棋

2018年2月19日 (月)

集中力と負けずぎらい

 17日に,藤井聡太六段が指した二局とも,その集中力はすごかったと思います。盤上没我で,羽生善治竜王(・棋聖)が,しきりに髪をかいたり,有名な羽生睨み(対局者をじろりと睨むこと)をしたりして,落ち着かない様子だったのとは対照的でした。将棋は,優勢になったときに消極的な手を指すことを「震える」と言うのですが,そういう震えが藤井六段にはなかったのです。時間の短い将棋で,重要棋戦の準決勝で,初の棋戦優勝にもう少しで,しかも相手が羽生となると,震えなければおかしいのですが,それがなかったのです。ひたすら最善手を追い求める藤井六段には,「震える」余地などなかったのでしょう。
 決勝のときには,すでに王者の風格でした。顔つきも羽生戦のときからすでに以前と違うような気がしていました。子供っぽさの残る少年の時代を終え,自信と風格をまとった堂々とした青年でした。まさに「男子三日会わざれば刮目して見よ」です。10代の伸び盛りに,修業と鍛錬に明け暮れる藤井六段の未来には輝かしいものがあるでしょう。あとは大学に行けとすすめたり,将棋界の発展のためといった理由で無駄な営業に参加させるとか,周りが,本人が将棋に集中できないような環境を作らないことが大切です。
 実は羽生竜王の指し手も震えていました。羽生竜王の「震え」は有名ですが,これは上記の意味の「震え」ではありません。勝利の執念がにじみ出て手を震わせるのです。羽生竜王の将棋は,プロからみると華麗なところはあまりありません。華麗な指し手という点では,谷川浩司九段のほうが上というのはプロのほぼ一致した評価でしょう。それでも勝利への執念ということでは,羽生竜王に勝てる人はいません。羽生竜王の負けず嫌いは,土壇場で「羽生マジック」と呼ばれるような,相手に間違えさせる鬼手を指すことにも表れています。さらに凄いのは,羽生竜王は棋士としてピークが過ぎつつある年齢になっても,勝利への執念だけはいささかも衰えず,昨年も竜王を奪取するなど成績もしっかり残しているところです。羽生竜王にはスランプがありません。連敗はほとんどないのです。一局ごとへの集中がすごいのです。
 並外れた「負けず嫌い」が,鍛錬するモチベーションとなり,技量を高めていき,実際の勝負では,勝利への執念がこれとうまくかみあって,集中力を生み出すのでしょう。
 実は藤井六段は,この羽生竜王の特徴をそのまま引き継ぎ,それに加えて,谷川九段ばりの華麗な攻めのテクニックも兼ね備えている感じがします。2月17日を境に,同世代の棋士は,すでに彼には勝てないという諦めの境地になっているのではないでしょうか。
  もちろん,世の親御さんは,藤井六段のように子供に育ってもらいたいと考えていると,子育ての仕方を間違えるでしょう。スケートの羽生弓弦選手も同じですが,負けず嫌いと集中力は,傑出した結果を残す天才を生む可能性はありますが,それは将棋とかスケートとか個人競技の世界だからです。社会でうまく生きていくためには,あまり勝ち負けを競わず,他人と仲良くしていくほうが,凡人には必要なことです。
 とはいえ,競争しない人ばかりになっても困ります。適度の競争こそが社会の活力を生みます。ちなみに「負けず嫌い」の人は,実は負け方がきれいです(もちろん子供のときは負けると泣き叫んだりして手がつけられないこともあるのですが)。自分の負けを率直に受け入れ,そして反省して,次の勝ちにつなげることができる人が,ほんとうの「負けず嫌い」なのでしょう。こういう「負けず嫌い」なら,しっかり教育の現場に取り入れてもよいかもしれません。

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2018年2月17日 (土)

藤井聡太棋戦初優勝

 フィギアスケートで,羽生結弦の連覇はすごかったですし,宇野昌磨もよく頑張って,見事なワンツーフィニッシュで感動しました。とくに宇野選手は最初の4回転で転倒したのに,残りをよくまとめました。4回転もしっかり跳んでいたことで致命傷にならず銀メダルにつながりましたね。羽生は貫禄です。技がどうこういうよりも,王者の風格です。最後に帳尻をしっかり合わせるということが,いかに難しいことか。私もとても大きな刺激を受けました。20代に戻りたいです。
 そして,もう一人,日本の若者がものすごいことをやってくれました。こちらは15歳です。
 AbemaTVは将棋チャンネルがあるので有りがたいです。朝日杯の準決勝と決勝をLiveで配信してくれました。今日の藤井聡太五段(段位は朝の段階)は,まず午前中,準決勝で羽生善治竜王(二冠)相手に快勝し,午後の決勝では,広瀬章人八段相手に完勝でした。史上初の中学生の棋戦優勝です。朝日杯は全棋士参加なので,若手棋士や一部の推薦棋士だけが参加する棋戦とは異なり,真の実力が問われるものです。これにより,この前に五段に上がったばかりの藤井五段は,六段に昇段です。朝日杯では,名人と竜王に勝ち,決勝もバリバリのA級棋士に勝って,文句のつけようのない勝利です。瞬間的には,現在の棋士の中で一番強いと言ってもよいかもしれません。
 今日の対局は,どちらも藤井六段が先手となったのは運も味方につけていました。藤井六段のほうから攻めることができ,そのまま相手に何もさせないままに押し切ったという感じです。藤井の攻めの圧力の前に,羽生竜王も広瀬八段も角を自陣に打たざるを得ないなどじりじりと押し込まれたという印象です。
 午前中の対局では,羽生竜王は苦し紛れの9九銀というのがあり,怪しげな勝負手でしたが,結局,その銀は終局まで活躍することなく,最後は羽生の玉は5五にまで追いやられ,4七桂で詰みに討ち取られました。あの羽生竜王が,藤井玉にほとんど迫ることができなかったのが印象的で,緩まず相手玉に迫っていく力強さが印象的でした。今年になって,また強くなったのではないか,という印象です。
 広瀬八段戦は,早い段階で角を切って攻め入り広瀬玉を裸にし,相手を防戦一方に追い込みました。途中で広瀬八段に起死回生をねらった勝負手も出しましたが,藤井六段の切り返しが秀逸で,タダの4四桂捨て,さらに最後の決め手のタダ捨ての2七金など,ファンが喜びそうな派手で魅せる手も出ました。 
 スケートの羽生の二連覇も歴史に残る快挙ですし,さらに将棋の藤井六段の優勝も,将棋界の歴史を変える出来事です。2018年2月17日は,日本の若者が大活躍した日として,長く記録に残される日となることでしょう。

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2018年2月14日 (水)

神大生棋士

 神戸大学経済学部に,プロ棋士の学生がいます。今年,四段に昇段した古森悠太君です。藤井聡太五段より一期下になります(年はずいぶん上ですが)。最近では,大学を出ているプロ棋士も多いです(中村太地王座は早稲田大政経学部卒,丸山忠久九段・元名人は早稲田大学社会科学部卒,片山大輔六段・東大法学部卒,糸谷哲郎八段・大阪大学大学院文学研究科卒業などが有名)。藤井五段は,お母さんが高校に進学し東大に行くことを希望しているという噂が流れていますが,高校に行くことが良いことかどうか。パラレルキャリアの時代なので,棋士と何かの両立というのは良いのですが,高校に行き,東大をめざすことで,将棋のほうに悪影響となるとか,あるいは将棋以外のキャリアにも必ずしもプラスにならない可能性があることも,よく考えておく必要があります。10年以上経つと,東大卒というキャリアはそれほど輝いていない可能性もあります。
 ところで,この古森四段と藤井五段が,新人王戦で対戦しました。藤井五段は,羽生竜王との決戦前の対局となり,結果は藤井五段の快勝でした。四段に上がったばかりの新人は勢いがあるものですが,相手の藤井五段の強さは際立っていました。17日の藤井・羽生戦は,オリンピックの真っ最中ですが,マスコミの大きな注目を浴びることになるでしょう。
 先日のNHK杯の山崎隆之八段と斉藤慎太郎七段の勝負はすごかったです。山崎八段の定跡無視の力強い指し回しと,最後の見事な詰まし方で,いま勢いのある若手の齋藤七段の玉を頓死させました。こういう将棋をみると,人工知能がどんなに強くても,人間どうしの対局は面白いと感じるでしょうね。
 この間,王将戦七番勝負は,久保利明王将が挑戦者の豊島将之八段に勝って2勝1敗としました。久保王将は順位戦A級でも豊島八段と並んでおり,名人との二冠に近づいています。棋王戦五番勝負は,渡辺明棋王が,挑戦者の永瀬拓矢七段に勝って先勝です。叡王戦は,なんとC級1組の金井恒太六段とC級2組の高見泰地六段との決勝七番勝負となりました。タイトル戦に昇格したばかりの叡王戦に,タイトル戦初登場の低段位の若手がいきなりタイトルを取ることが確定しているので,スポンサーとしては喜んでいるかどうか。両名にとっては,棋士としての全運勢をこの棋戦に集中したという感じです。好局を期待したいです。
 女流棋戦では,里見香奈女流五冠が,女流名人戦を伊藤沙恵女流二段に3連勝で防衛です。六冠目のマイナビ女子オープンは,準決勝で西山朋佳三段にやぶれて敗退したので,六冠は来年にお預けとなりました。


 

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2018年2月 2日 (金)

藤井聡太五段誕生

 藤井聡太四段が,順位戦C級2組で勝って全勝を守り,最終局を待たずに昇級を決めました。C級2組は50名が在籍するなか,C級1組に昇級できるのは3名だけ。しかも成績が同じであれば上位順位者優先ということで,今年C級2組に入ったばかりで順位が45位と低い藤井四段にとっては,全勝する以外は昇級は無理という状況でした。そのようななか,本日の対局前にすでに単独トップの全勝となっていて,そして昨日も勝って楽々と昇級ということで,このレベルでは敵なしというところを見せつけました。史上初の中学生五段の誕生です。このまま毎年順位戦で昇級すれば,一つずつ昇段していきますが,棋戦優勝やタイトル挑戦などがあると,飛び級的に昇段していく可能性もあります。すでに実力的にはB級1組クラスで,七段くらいであってもおかしくない感じです(糸谷哲郎八段は,B級2組在籍時から竜王経験者として八段でした。ようやく来期A級に昇級するので,順位と段位が一致することになりました)。世間では,2月17日の朝日杯の準決勝での羽生善治竜王・棋王との対局で,すでに盛り上がっているようです。
 昨日は谷川浩司九段も,王座戦の予選に登場で,阿部隆八段相手に単手数の快勝でした。攻めの切れが戻ってきていますね。順位戦の残り1局も頑張ってほしいです。
 また昨日はA級順位戦のラス前の一斉対局でした。一番早く終わったのが,羽生竜王・棋聖と,屋敷伸之九段の対局。羽生竜王が勝って6勝4敗で全対局を終えました(最終局は空け番)。この時点でまだプレーオフ進出の可能性が残っています。屋敷九段は2勝7敗で,降級決定第一号となりました。今期は他の棋戦でもふるわず,降級はやむを得ないところでしょう。
 続いて終わったのは,久保利明王将と渡辺明棋王の対局で,久保王将の勝ちです。久保王将の充実ぶりが目立ちます。久保王将は6勝3敗で名人挑戦の可能性を残しました。3月2日の最終局の相手は深浦康市九段です。渡辺棋王は敗れて4勝5敗で,まだこの時点で降級の可能性が残っています。竜王失冠など,冴えない今期を象徴する成績です。最終局の相手は三浦弘行九段です。
 次に終わったのが,行方尚史八段と佐藤康光九段との対局。こちらは行方八段が豪快に攻め勝ちました。3勝6敗となりました。負ければ即降級だったので,この時点で,首の皮一枚つながっています。次の相手は,今日は空け番で5勝4敗の稲葉陽八段です。佐藤康九段は5勝4敗となりましたが,この時点でまだプレーオフ進出の可能性が残っています。次の相手は今日降級が決まった屋敷九段です。
 日付が変わってまだやっていたのは,広瀬章人八段対深浦九段,豊島将之八段対三浦九段の対局でした。この時間帯になると残り時間も少なく,疲れもピークとなってくるのですが,ここでしっかり指せなければ順位戦では生き残れません。
 そのあと,深浦九段が投了しました。これで広瀬八段は5勝4敗です。深浦九段は4勝5敗となり,まだ降級の可能性が残ってします。
 最後に,12時半くらいに,豊島・三浦戦も決着が付きました。三浦九段が勝ちました。プロの評価を聞かなければなりませんが,土壇場の大逆転だったのではないでしょうか。豊島八段は痛い敗戦です。これで豊島八段は6勝3敗となり,久保王将と並びました。最終局,豊島八段は広瀬八段と,久保王将は深浦九段と対局です。ともに勝てばプレーオフです。ともに負けると大変なことになる可能性があります。6勝4敗が最大6人となる可能性が残っています(豊島,久保,羽生,広瀬に加え,稲葉,佐藤康も勝てば6勝となります)。
 降級争いは,三浦九段が勝ったために混沌としてきました。現時点で3勝は行方八段だけで,行方八段は稲葉八段に負ければ降級確定。勝った場合,2人目の降級ラインも4勝6敗となり(3人目の降級ラインは最初から4勝6敗),下の深浦九段と三浦九段がともに負ければ4勝6敗で3人が並び,順位が上の行方八段の残留。深浦九段と三浦九段のどちらか一人でも勝てば勝った方は5勝となるので,行方八段は降級です。
 三浦九段は,最終局に渡辺棋王に勝てば5勝5敗となり残留。負ければ降級です。
 深浦九段は,最終局に久保王将に勝てば5勝5敗で残留。負ければ三浦九段が勝っていれば降級です。
 渡辺棋王は,最終局に三浦九段に勝てば5勝5敗で残留。負ければ,深浦九段が勝っていれば降級となります。
 行方八段以外は自力残留があるということです。渡辺棋王が因縁の相手三浦九段と降級をかけて争うというのも見ものですね。最終局(将棋界の1番長い日)はすべての対局が挑戦か降級に関係するということで,大いに盛り上がるでしょうね。おそらく私の記憶するなかでは最も白熱した最終局となりそうです。

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2018年1月23日 (火)

出た!光速の寄せ

 久しぶりに谷川浩司九段の光速の寄せをみました。王位戦予選の決勝で,藤井聡太四段を破って勝ち上がってきた大橋貴洸四段が相手。新鋭ですが勝率7割8分を超えるすごい成績です。藤井四段の影に隠れてしまっていますが,若手の超強豪です。
 大橋四段の先手でしたが,途中で千日手が成立。差し直し局で,先後入れ替わり,谷川九段が先手になりました。ただし持ち時間は千日手局で谷川九段が余分に使っていたので,差し直し局の持ち時間は,谷川九段のほうがかなり短くなっています。
 差し直し局では,先手の谷川九段のほうから角交換して銀を繰り出して腰掛け銀となります。互いに銀を向かいあうなか,先に仕掛けたのは後手の大橋四段でした。大橋四段は6筋の歩をつき,一方,谷川九段は3筋から4五に桂を飛んで,さらに3筋を攻めます。後手が9筋の歩をつき,それに応じた谷川。後手の9筋の歩が切れたので,あとで端攻めの危険が残ったのですが,結局,後手に端攻めの順は回ってきませんでした。
 谷川九段は6筋の敵陣に歩をたたいて金を引っ張り出して,飛車取りに角を打ち,馬を作ります。馬で飛車をいじめる間,後手も8筋の歩を8六まで伸ばし,6五歩と合わせて攻めの拠点とします。谷川九段は,後手の6六桂の攻撃を銀で払ったため,後手の歩が6六まで伸びてくる気持ち悪い局面で,谷川は2筋の歩を突いて反撃し,空いた空間に悠然と2三歩と打って,攻めの拠点を作ります。
 そのあと,大橋四段は若手らしく谷川玉に攻めかかりますが,少し駒が足りず,駒を清算したところで,谷川玉は裸になりました。不安ではありますが,大橋の攻め駒は飛車と金と歩2枚だけしかありません。大橋四段は攻めの拠点にするために6六に歩を置きます。
 この手は「詰めろ」ではありません。将棋は,次に相手が何もしなければ詰むという状態を「詰めろ」といいます。終盤では,まずは「詰めろ」をかけることを考えていきます。「詰めろ」は相手が受ければ解消されますが,その受けの際に持ち駒を使ってくれると,相手の攻め駒が減るので自玉がそれだけ安泰となります。また,「詰めろ」に対して,「詰めろ逃れの詰めろ」をかけるというのがあり,プロはこれを目指します。角などがあればそういうことが起こりやすく,自分の「詰めろ」解消して,同時に相手に「詰めろ」をかけることができれば,だいたい勝ちになります。
 逆に,自玉が「詰めろ」でない状態のときは,相手玉に「詰めろ」をかけることを考えていきます。現時点の谷川玉が「詰めろ」ではないということは,谷川九段は大橋玉に「詰めろ」をかければいいわけです。それは十分に可能な状況でした。しかし,光速流は,そんな甘いことをしないから魅力なのです。谷川九段は,詰みがあるとみて,相手玉を詰ましにいったのです。詰ましにいくと,相手に駒をたくさん渡すので,その過程で,自分の玉が詰めろになったり,さらには受けがきかない「必死」の状態になったりします。ですから詰め損なうと,負けに直結します。ということなので,普通の棋士は,自玉が「詰めろ」でなければ,相手に「詰めろ」をかけて着実に優勢を維持して勝ちを模索します。
 しかし,谷川九段は詰み筋を発見したときには,安全勝ちを目指しません。最速の勝ちをねらいます。今回も行きました。2二銀の王手から入って,相手玉を裸にし,銀,成銀,成桂のタダ捨てを何度もして,詰め将棋のような華麗な手順で若手を討ち取りました。31手詰めでした(29手目で相手が投了)。王手の2二銀に17分を使ったあとは,ほとんど時間を使っていなかったことからすると,谷川九段は詰みを読み切っていたようです。
 良い将棋をみせてもらいました。すっかり光速の寄せが出なくなっている昨今の谷川将棋ですが,勢いのある若手を負かして,王位戦の決勝リーグに進出です。順位戦のB級1組は,先日,松尾歩八段に負けて5勝4敗となったので,今期のA級復帰は難しくなりました(一足先に,糸谷哲郎八段がA級昇進を決めています)が,王位戦では,久しぶりの予選突破なので,頑張ってもらいたいです。

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2018年1月15日 (月)

藤井聡太四段,名人を破る

 テレビのニュースでも報道されていましたが,第11回朝日杯将棋オープン戦で藤井聡太四段が,澤田真吾六段と佐藤天彦名人に連勝してベスト4に進出です(1日に2局します)。澤田六段は藤井四段の20連勝目と歴史的な28連勝目の相手でしたが,今回は澤田六段に快勝でした。澤田六段も今期好調の若手実力者で,実際,この朝日杯でもベスト16に残っているのですが,藤井四段との力の差がはっきりしてきた気がします。もちろんまだ3局しかやっていないし,今後どんどん対局するでしょうから,澤田六段にも奮起を促したいです。
 次は藤井四段の名人との初挑戦でした。時間の短い将棋なので,番狂わせがあってもおかしくないのですが,それにしても1年目の新人がベスト8に上がってきたことでも十分にすごいのに,名人に勝ってしまうのですから,見事なものです。佐藤名人は,この日の初戦は棋王戦に挑戦を決めている絶好調の永瀬拓矢七段に激闘の末,勝っていて,名人の底力を見せていたのですが,その疲れもあったのでしょうか。名人も29歳(もうすぐ30歳)とかなり若いのですが,その半分くらいの年齢の藤井四段のほうがスタミナ十分なのかもしれません。藤井四段が,優勢になったあとも,まったく隙を見せず,名人を寄り切ってしまいました。佐藤名人は,今期は決して調子が良くないとはいえ,藤井四段の棋力が着実に上がっている感じが,素人目からもしました。
 土曜日は,羽生善治竜王が,同じ朝日杯で,高見太地五段に勝ち,次いで同日,糸谷哲郎八段に勝っていた八代弥六段に連勝しました。八代六段戦は激戦で,羽生竜王は受け一方の窮地に陥ったあとの,見事な逆転勝利でした。1分将棋になってからの正確な差し回しは,さすが羽生竜王です。これでなければ勝率7割を超えることはできません。木曜にはA級順位戦で佐藤康光九段に敗れ,今期の名人挑戦の可能性は遠のいたのですが,勢いのある若者に早指しの棋戦で連勝し,この立ち直りの早さも羽生竜王のすごみです。そして,この羽生竜王と藤井四段が準決勝で激突です。八大タイトル戦ではありませんが,藤井四段は国民栄誉賞棋士に勝って,棋戦初優勝へと突き進むことになるでしょうか。
 昨日のNHK杯は,山崎隆之八段が,新鋭の青嶋未来六段に,初手4八銀,三手目3六歩という意表をつく出だしで見事に勝ちました。最後は敵の攻撃をぎりぎりのところで華麗に受け切って,なんと5五の天王山にまで玉を移動したところで,相手投了となりました。裸の玉がひらひらと遁走し,槍や剣が一番飛んできそうなところで仁王立ちになったところで,相手が力尽きて投了するという感じの,格好良い勝ち方です。初手と投了図をみるだけでも価値があるでしょう。ファンを楽しませ,そして勝ってしまう,天才山崎八段の実力を十分に見せてくれました。この棋戦ではすでに羽生竜王を倒しているので,勢いに乗って2度目の優勝となるでしょうか。

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2018年1月 8日 (月)

羽生永世七冠の国民栄誉賞

 羽生善治竜王(および棋聖の二冠)の,国民栄誉賞の受賞が正式に決定されました。囲碁の井山裕太七冠との同時受賞です。おめでとうございます。井山七冠は現在の七冠で,しかも二度目ということで,現時点の日本の囲碁界の最強棋士としての受賞です。一方,羽生竜王は,現在は二冠ですが,これまでのタイトルの積み重ねで永世タイトルをとり,それが七つすべてに達したということで(できたばかりの叡王戦は除外),いわば過去の棋士人生の総合的な成果が評価されての受賞です。井山七冠の受賞は,オリンピックで金メダルを取った選手に与えられるのに似た意味があるのに対して,羽生竜王はこれまでの長年の功績を讃えるという意味での受賞で,両者には違いがありますね。国民栄誉賞には,こういう二つのタイプがあるということですね。いずれにせよ将棋界としては,羽生竜王の国民栄誉賞の受賞は,多くの棋士にとって励みになることでしょう。将棋界は,AI時代のなかで,いかにしてファンを楽しませる将棋を指すかを,必死に模索していってもらいたいものです(将棋界の盛り上げは,ひふみんこと加藤一二三とは違う路線でお願いしたいです)。
 さて棋戦情報ですが,昨日から王将戦が始まり,二日目の今日,早々に決着がつき,挑戦者の豊島将之八段が,久保利明王将に先勝しました。豊島八段が,先日のA級順位戦で負けていた久保王将に同じ戦型(相振り飛車)で挑んでリベンジをはたしました。完勝でした。
 そのA級順位戦は,8回戦まで進み,王将戦で戦っている久保王将と豊島八段が5勝2敗のトップで,それを5勝3敗の羽生二冠が追っています。羽生二冠は1局多く戦って残り2局で,最終局が,大のお得意さんの屋敷伸之九段が相手なので,次の佐藤康光九段戦で勝てば,7勝まで星を伸ばしそうです。久保王将と豊島八段は,できれば残り3連勝して8勝として,羽生二冠とのプレーオフは避けたいところでしょう。降級争いは今期は3人陥落ですので,熾烈です。2勝5敗の行方尚史八段と屋敷九段はかなり厳しい状況です。問題は,3勝4敗の3人で,広瀬章人八段,深浦康市九段,三浦弘行九段も降級の可能性があります。きちんと計算していませんが,現時点では,4勝3敗の佐藤康九段まで降級の可能性がありそうです。最後まで目を離せません。
 B級1組は,昇級の目がでていた谷川浩司九段は,糸谷哲郎八段に敗れて苦しくなりました。ただ残り2連勝すると,阿久津主税八段の成績しだいでは昇級のかすかな可能性が残っています。降級争いは,松尾歩八段が1勝6敗で大ピンチです。ただ順位の低い斉藤慎太郎七段や菅井竜也王位にも降級の可能性が残っていて,今期大活躍の若い二人も鬼のすみかと言われるB級1組では苦戦していますね。
 B級2組は,若きタイトルホルダーの中村太地王座が5勝2敗で苦戦です。2名昇級のなか,現在4番手。自力昇級はありません。このクラスはあっさり抜けたかったところですが,今期は難しそうですね。
 C級2組の藤井聡太四段は,全勝で現在昇級候補1番手です。ただ新人で順位は低いので,一つでも負けると昇級を逃しそうなので,残り3局は一局も気が抜けません。藤井聡四段は各棋戦で活躍していましたが,最近では,そう簡単には勝てなくなっています。依然として,勝ち数(45勝),対局数(55局),勝率(0.818)はトップですが,叡王戦は本戦まで行くも深浦九段に敗れ,王位戦予選は,新年早々,大橋貴洸四段に敗れました(大橋四段は次は谷川九段との対戦です)。その他の棋戦では,棋王戦は挑戦者決定トーナメントにまで進出しましたが初戦で豊島八段に敗れました(なお,棋王戦の挑戦者は,永瀬拓矢六段に決定し,渡辺明棋王に挑戦します)。王将戦も,菅井王位(当時は七段)に一次予選決勝で敗れました。棋聖戦も大橋四段に一次予選の決勝で敗れました(大橋四段には2連勝していたのですが,前記の王位戦とあわせ,大事なところで2連敗しており,高レベルのライバル争いとなっています)。現在,タイトル挑戦の可能性が残っているのは王座戦ですね。

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2017年12月 5日 (火)

永世七冠

 将棋界が注目を浴びた今年,最後を飾るビッグニュースが飛び込んできました。羽生善治棋聖が,竜王の渡辺明を破って,タイトルを奪取して,これで通算7期目となり,永世竜王の資格を獲得しました。七大タイトルすべてで永世資格をとるのは前人未踏ですし,今後,まずそんな人は現れないでしょう。そもそも永世タイトルを一つでも取っている棋士でさえ,ほとんどいません。それを7つ全部とるなんてことは,普通ではとても想像もできないことなのです。
 もっとも羽生新竜王のこれまでの活躍からすれば,もっと早く永世七冠が実現してもおかしくありませんでした。それを阻んできたのが,若きライバルの渡辺永世竜王でした。ここ10年以上,竜王というと渡辺明でした。2001年に初奪取してから9期連続という強さで,一度,森内俊之九段に一度取られ,それが糸谷哲郎八段に渡った空白期がありましたが,2年前にその糸谷八段からあっさり取り返して指定席に戻った感じでした。昨年は三浦問題がありましたが,代わりの挑戦者の丸山忠久九段をなんとか退けて防衛でした。そんななか今期の竜王戦の挑戦権を得たのは,ことしタイトルを二つ若手に奪われている羽生棋聖だったのです。
 渡辺竜王は,たとえ不調であっても竜王戦に調子を合わせてくるので有名で,今年も,いくら羽生棋聖が相手であっても,渡辺防衛は堅いのではないか,というように思っていました。ただ渡辺竜王は,今シーズン不調で,負け越し状況でした。
 竜王戦が始まっても,渡辺竜王の調子は上がってきませんでした。竜王戦の途中にあったA級順位戦でも羽生棋王に敗れていました。羽生棋王も,今年はタイトルを失っただけでなく,全体的にもかなり負けていて,勝率も低迷していました。しかし,この竜王戦は別でした。思い切った攻め将棋で,渡辺竜王を圧倒しました。
  羽生世代を押しやって王者として君臨しようとしていた渡辺竜王も,ここ数年は伸び悩んでいる感じがします。名人に挑戦できていないという点も,マイナスポイントです。しかも今年,得意の竜王戦で,何度も挑戦をはねのけていた羽生棋王に,いま敗れてしまうというのは意外です。いろんなところで世代交代が起こっていますが,将棋界だけは,世代交代がなかなか起きないのは,この羽生と渡辺の関係がまさに象徴的です。
 羽生新竜王は,渡辺棋王に最近かなり勝っていて,苦手意識を克服できている感じがあります。いったんやっつけたと思った年長棋士が,不死鳥のように蘇ってくるのは,若手にとっては脅威でしょう。というより羽生新竜王は,今年自分からタイトルをとった中村太地王座や菅井竜也王位の果敢な攻めの棋風を吸収してパワーアップして,それを渡辺竜王にぶつけたというような感じもします。
 さて今年の将棋界は,ほかにも話題があります。もちろん藤井聡太の快進撃もそうですが,目の肥えたファンは,おそらく豊島将之八段に目が離せないでしょう。すでに王将挑戦を決め,A級順位戦でも5連勝で,名人戦挑戦に近いところにいます。現時点ではナンバー1の呼び声が高いが,まだ無冠の豊島八段が,王将,名人を両方奪取するのかが,現在の棋界の注目なのです。もちろんA級順位戦は,まだ中盤で,二冠(竜王・棋聖)に復帰した羽生新竜王も実は5勝2敗で,いい位置につけています。終わってみれば,羽生が竜王・名人という二大タイトルを手に収めていたなんてことになるのでしょうか。

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2017年10月22日 (日)

竜王戦始まる

 竜王戦が始まりました。初戦は渡辺明竜王を,挑戦者の羽生善治棋聖が攻め倒しました。素人コメントですが,竜王が1筋から,挑戦者が2筋から,それぞれ突破していく単純な斬り合いになり,全般的に竜王が淡泊に指しているなと思いました。竜王は今期不調で,ここまでも負け越しています。竜王戦に間に合わせて復調かと思っていましたが,初戦をあっさり落としてしまいました。調子が上がっていないのが心配ですね。
 順位戦では,A級は5局目の途中で,一部は6局目に突入しています。昨年名人に挑戦した稲葉陽八段が2勝4敗でピンチです。順位がいいとはいえ,3人降級ですので,安心できません。1勝は,行方尚史八段が1勝3敗,屋敷伸之九段が1勝2敗です。好調なのは豊島将之八段で4連勝です。羽生棋聖は2勝2敗,渡辺明竜王が2勝3敗と出遅れています。毎年安定している広瀬章人八段は3勝2敗で,豊島八段を追っています。
 豊島八段は前に書いたように絶好調で勝率も8割を超えていて,藤井聡太四段と争っています。豊島八段は先日三浦弘行九段に敗れましたが,それでも24勝4敗,勝率0.857という好成績です。一方,藤井四段は,これを上回る37勝6敗,勝率0.860です。勝ち数,対局数は,今後,藤井四段が大失速しないかぎり,年間ナンバーワンになりそうですが,勝率は豊島八段とのデッドヒートとなりそうです。もっとも,対戦相手のレベルを考えると,豊島八段のほうがきつい相手とやっているので,勝率だけで実力を測れるわけではありません。それでも藤井四段の数字がすごいことに変わりはありません。
 B級1組は,今年も混戦ですが,谷川浩司九段は,郷田真隆九段に勝って4勝1敗と好調です。後手の谷川玉が上部までつり出されて危なくみえていたのですが,プロの目からはそうでもなかったようです。快勝でA級復帰の可能性も出てきました。郷田九段は2勝3敗となりました。トップは糸谷哲朗八段で,菅井竜也王位に勝ち,4連勝です。菅井王位は,2勝3敗となり,連続昇級でA級へという可能性は小さくなりましたね(いままでこのブログで「竜也」を「達也」と間違えていたことが何度かあって,菅井王位にはたいへん失礼しました)。阿久津主税八段は,斎藤慎太郎七段と,千日手指し直しという激闘を制して勝ち,4勝1敗となりました。菅井王位と並ぶ若手ホープの斎藤七段は2勝2敗です。このほか,ハッシーは,木村一基九段に敗れて1勝3敗,木村九段は初勝利で1勝4敗です。1勝が3人,2勝が5人,3勝がいなくて,4勝が3人という状況で,降級争いが熾烈になってきています(今期は1人しか陥落しません)。
 渡辺棋王への挑戦者を目指すトーナメントは,ベスト4が出そろいました。豊島八段をやぶった三浦九段以外に,黒沢怜生五段,佐藤天彦名人,永瀬拓矢六段が残りました。棋王戦挑戦者決定トーナメントは,ベスト4に残ると敗者復活戦があり,2敗したら終わりというルールです。渡辺棋王としては,佐藤名人が出てくるのを,いちばん恐れているでしょうね。ファンとしては,三浦九段対渡辺棋王の因縁の対決もみてみたいですが。三浦九段としては,あの事件のきっかけをつくった竜王に盤上でリベッジしてみたいでしょう。

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2017年10月11日 (水)

今日は王座戦第4局

 久しぶりに将棋のことでも書きましょうか。
 あの藤井聡太四段はどうなっているかというと,29連勝のころの勢いはないものの,現時点で35勝6敗という立派な成績です。連勝が止まったあとも,16勝6敗と好成績です(現在6連勝中)。一昨日は,叡王戦四段戦で2連勝し,本戦トーナメント進出を決めました。佐々木大地四段には1回負けていましたが見事に雪辱しました。
 まだ前半少し過ぎたところで35勝というのは立派な成績です。歴代最高勝率は十分に狙える位置にいます。いくつかの棋戦で敗退してしまったので,対局数はそれほど増えていかないでしょうが,NHK杯など目立つ棋戦は残っていて,今後が楽しみです。
  王座戦は,NHKの番組で進行役をしている中村太地六段が2連勝して,羽生善治王座を角番に追い込んでいます。先日は羽生王座が勝って初勝利。ここからが大切です。ここで勝てるかどうかが,中村六段が,佐藤天彦名人のように羽ばたけるかどうかの分岐点となるでしょう。星が並んでの最終局となると,どうしても経験豊富の羽生王座が有利となります。今年は菅井竜也王位があっさり初挑戦で羽生の牙城を崩して若きタイトルホルダーになっていますが,中村六段は,すでに羽生王座とはタイトル戦を何度かやっていて手の内を読まれているところもあります。今日の対局が大勝負でしょうね。
 順位戦のA級は,前期の挑戦者の稲葉陽八段が,豊島将之八段に敗れて3敗目で残念ながら挑戦者争いから脱落です。豊島八段は快調に4連勝です。羽生二冠にすでに勝っているのが大きいですね。その他は団子レースで,むしろ3人降級となる今期は,誰が降級となるかも注目です。
 B級1組は,ただ一人50代で頑張る谷川浩司九段が,山崎隆之八段に勝って3勝1敗。良いスタートになりました。とはいえ,B級1組は,A級とほぼ同じくらいの実力者が並んでいて強敵が残っているので油断はできません。ぜひ昇級してもらいたいですが。今期は降級が1名で,現在,木村一基八段が4連敗で苦しい状況になっています。
 秋は竜王戦です。昨年は三浦騒動で大もめでしたが,今年は静かで,渡辺明竜王対羽生二冠という黄金カードとなります。熱戦を期待しましょう。
 久保利明王将への挑戦権を争う王将戦リーグは,今期は天彦名人,渡辺竜王,豊島八段,糸谷哲郎八段に,郷田真隆前王将,深浦康市九段,斉藤慎太郎七段といった豪華メンバーで,目が離せません。王将戦リーグはいつも実力者がそろういます。今期は羽生二冠がいないのは寂しいですが,それだけにみんなにチャンスがある大混戦です。絶好調の豊島八段は王将,そして名人というタイトルを虎視眈々と狙っています。叡王戦の八段戦,棋王戦トーナメントも順調に勝ち残っています。藤井四段と並んで,ここ数年足踏み状態だった豊島八段が一気にブレイクするかも大注目です。 

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