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2018年6月 3日 (日)

中山七里『テミスの剣』

 アマゾンからの推薦にしたがい,中山七里『テミスの剣』(文春文庫)を買ってみました。どんでん返しがあると帯に書いてあったので注意しながら読んでいきましたが,最後になるまでわかりませんでしたね。最後は急展開でした。ドラマ化されたそうですが,そう言われればドラマ向きだなと思いました。以下,ネタばれあり。
 不動産業者とその妻を殺し金品を奪った強盗殺人事件で,ある若者が逮捕されました。この業者は闇の副業があり,それが高利貸しでした。高利貸しリストの中から当日のアリバイがない者を探したところ,楠木明大という青年だけが残りました。乱暴な捜査で有名な鳴海は供述調書を強引に作成し起訴しました。本人は無実を主張しましたが,本人のジャンパーに,殺された業者の血痕が付着しており,それが決定的な証拠となりました。地裁判決は死刑,高裁の女性判事も悩んだ末に地裁判決を維持し,最高裁も上告を棄却して死刑が確定しました。楠木は刑務所で自殺しました。
 その後数年経ち,鳴海(すでに定年退職)とコンビを組んで楠木の事件を担当していた渡瀬は,ある殺人事件を追うなかで,犯人がこの事件と似た殺し方をする事件にぶつかりました。犯人の迫水は逮捕されて自供したのですが,渡瀬がさらに追及したところ,この迫水から,不動産業者の事件についても,自分が犯人であったと自供したのです。迫水は,不動産業者からは金を借りていなかったので捜査線上には浮上していませんでした。彼はカギの修理工をしていて,以前にその不動産業者のカギを修理したことがあったので,家の中のこともわかっていたのです。さらに血痕の付着していたジャンパーは,実は鳴海がねつ造したものであることも明らかになります。鳴海は楠木が犯人であることについて全く疑っていませんでした。だから証拠のねつ造は,犯人を適切に処罰するための方便くらいに考えていたのです。
 こうして,過去の死刑判決が冤罪であったことが明らかになり,警察はこれを隠蔽しようとします。渡瀬は周りに迷惑をかけることにためらいながらも,正義をつらぬくためにどうすればよいか悩みます。その末に,信頼する恩田という検事に相談します。迫水の供述調書を恩田に渡したところ,恩田が週刊誌にリークし,マスコミが事件を担当した刑事,検事,裁判官を徹底的に糾弾します。関係者はすべて追放されています。
 迫水は優秀な弁護士のおかげで無期懲役ですみます。そして,模範囚であったため23年後に仮出所しますが,出所後すぐに刺殺されてしまいます。
 迫水を殺した犯人を探すなかで,迫水の出所前の奇妙な行動がわかります。また渡瀬の捜査から,迫水が不動産業者の殺人事件のときに,ある人物に目撃されていたことをつかみます。それが裁判では出てきませんでした。
 楠木の裁判は,無気力な国選弁護人,検挙率が高いために多少の行き過ぎを大目にみられていた警察官による証拠のねつ造,雑な事件さばきをした検察,被告人の無罪という叫びに心をゆさぶれながらも,証拠を信じて死刑判決を書いた裁判官という諸要素がからまり,おそるべき冤罪が生まれてしまいました。
 しかし楠木の死刑は,避けることができるものでした。上記の目撃者の証言があったならばです。鳴海と渡瀬たち警察が丁寧に捜査をしていたら,証言が得られていたかもしれません。この目撃者は決して自分からは証言できない事情がありました。そして,その目撃者は,他人の手を借りて,迫水を抹殺させていたのです。その目撃者が誰かは読んでのお楽しみです。
 冤罪つぶしの組織の圧力と個人の正義感の相克というのは,よくあるテーマのような気がします。ただ,そういう本人の葛藤というよりも,純粋にストーリー展開に楽しめました。この作者の本はもう少し読んでみましょう。これもお風呂の友です。 ☆☆☆(☆三つ。五が満点)。

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