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2018年3月11日 (日)

半藤一利『昭和史』

  大学受験に日本史と世界史を選択していた私ですが,日本の現代史は十分に勉強していませんでした。高校のときの日本史の先生は土器が大好きな人で,古代史が専門。現代史どころか,中世にやっとたどりつくという授業ではなかったかと記憶しています。勉強は自分でやるものですが,知らぬうちに,現代史は試験にも出ないし,あまり重要性がないという誤った観念が植え付けられていた感じがします。しかし,これからの時代を考えていくとき,まさに教養としての昭和史の学習はきわめて重要だと思います。現在の学校での日本史教育がどうなっているのかわかりませんが,日本の負の面も含めて昭和史をしっかり学校で教えてもらいたいです。
 少し前に読んだ半藤一利『昭和史-1926~1945』(平凡社)はとても良い本でした(もちろん半藤氏の史観には異論もあると思いますが)。日本やアメリカへの憤りや悲しみで,なかなかページが進まないこともありました(そういう感情的な反応が危険なことは承知しているのですが)。
 3月9日の日経新聞の春秋で,73年前の東京大空襲のことが書かれていました。後の原爆投下の悲劇があまりにも大きすぎるのですが,アメリカは,日本の至るところに民間人に対して,空の上から爆弾を落としてきたのです。私たちは現在,北朝鮮からのロケットの脅威を感じていますが,当時はアメリカの爆撃機がしょっちょう飛来して実際に無慈悲に爆弾を落としていたのです。私の母は,生前,アメリカのパイロットの顔をみたと言っていました。それほど低空飛行して,爆弾を落としていたのです。
 その司令官が,日経新聞の記事にも名前が出ていたカーチス・ルメイ(Cartis LeMay)です。「皆殺しのルメイ」「鬼畜ルメイ」です。ルメイのことは教科書には出ていないと思います。後に日本から政府の思惑で叙勲されたのですが,昭和天皇は直接勲章を手渡すことをしなかったそうです。彼の悪魔的な所業を知っていたからでしょう。ただ私も,ルメイのことは,半藤氏の本で知りました。教科書では教えられていなかったことです。
 この本を読んで,断片的にしか知らなかった現代史の知識をもう一度体系化できてよかったです。アメリカを信じるな,ロシアを信じるな,というのは,この本を読むといっそうその感が強くなります。戦後のどさくさにおけるソ連の悪行は,アメリカの原爆投下なみのことです。終戦時に中国大陸に残っていた日本人の悲劇を私たちはしっかり語り継がなければなりません。
 一方で,イギリスのもつ戦略的な重要性というのもわかりました。EUを離脱して孤立化するイギリスは,アメリカにも顔が利き,ロシアを抑える外交力もある点で,日本としてはかつての日英同盟のとき以来の再び重要な国になるかもしれません。
 アメリカは無慈悲にも長崎にまで原爆を落としました。広島でさえ許しがたいことですが,長崎に落とす必要性はどう考えてもありません。日本側が降伏を遅らせたから長崎まで被害にあったという意見もあるのですが,アメリカはもともと原爆を二つ作っていたので,はじめから二つ落とすことは決めていたようです。韓国人が日本人に対する怒りもわからないではないですが,それをよく日本が受け止められていないのは,日本人というのは,こうした残虐なアメリカ人にも本気で怒らないような国民であるからなのかもしれません。
 少し古いものとなりますが,著名な評論家の宮崎哲弥が,文藝春秋special2015年春号の「大人の近現代史入門」のなかで「ヒロシマ・ナガサキこそ戦争犯罪だ」という論文を書いています。そこでは,原爆投下をめぐるアメリカの政治哲学の議論が,日本に有利なものとして援用できると主張しています。アメリカ人のなかでも良識派は,原爆に正当性がないことはわかっていたのです。オバマ前大統領が広島に来たのは,そうしたアメリカの良識派を代表していたからかもしれません。
 過去のことを水に流さそうというのは生きるうえでの重要な地位ですが,国際的な関係ではそうはいかないのです。現に日韓,日中でそういうことが起きています。私たちはアメリカという国を信じてはいけません。といって毛嫌いすることもよくありません。戦略的に対峙することが必要なのだと思います。
 これからの私たちは,正しく昭和史を総括することが必要です。それは,日本が悪くなかったということを確認するものではありません。むしろ日本の弱点をよく知ることが必要なのです。そして弱点から来る誤りを繰り返さないようにするには,どうすればよいのかを,とくに若い世代の人に考えてもらうことが必要なのです。半藤『昭和史』は,ぜひ多くの人に読まれるべきでしょう。宮崎論文も,一読に値するでしょう。
 平成も終わろうとしている現在,昭和の前半史を学ぶ必要性はますます高まっていると思います。

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