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2018年2月 5日 (月)

第2の正田彬待望論

 リスク管理という意味では,今回の比較法シンポジウムは,ゼロ点でした。もし私のインフルエンザ罹患が1週間遅れていたら,どうなっていたでしょうか。報告者と裏方の両方をやっていたので,私がたおれるとシンポの開催はできなかった可能性があります。そう思うと,背筋がゾッとします。なんとなく自分は健康で大丈夫という思い込みで,一番ダメなリスク対応をしてしまっていました。結果オーライなだけです。もともとは,Independent Contractor をめぐる海外の動向を知りたいから,人を呼ぼうという熱に駆られて企画したことで,あとは力業でなんとかシンポジウムはできるだろうと思っていたのですが,ほんとうの熱にかかってしまったので,危ないところでした。
 ところで,イタリアの新法(2017年5月22日法律81号)の注目点は,自営的就労者・独立労働者(lavoratore autonomo)に対して,経済的従属性に着目した不公正な取引を規制する法律の規定を援用しているところです。たとえば,2条は,「Tutela del lavoratore autonomo nelle transazioni commerciali(商取引における自営的就労者の保護)」という表題の下に,EUの支払遅延指令(2000年)を国内法化した法律(2002年10月9日委任立法231号「Attuazione della direttiva 2000/35/CE relativa alla lotta contro i ritardi di pagamento nelle transazioni commerciali」)の規定を援用しています。日本でいえば,下請代金支払遅延等防止法(下請法)の規定を適用すると定めたのと同じような感じでしょう。  
 詳細は別の機会にゆずりますが,イタリアは,これまでドイツと並んで,労働者と自営的就労者の中間にある経済的従属的な自営的就労者(準従属労働者)を対象とした法規制(第3のカテゴリーの創設)を行う国と整理されてきました(Alain Supiot「Au-delà de l'emploi」でも,情報が古いので,そのような整理です)。しかし,すでに2015年の法律でそのアプローチは放棄され,従属労働者の範囲を若干広げて(組織的従属性があれば,フルセットの保護のある従属労働者として扱う)と自営的就労者の二分法に戻していました(なぜ二分法に戻したかは,私はどこかでちょっとだけですが書いているはずです[どの論文か忘れました])。その流れの延長で,今度は2017年の法律で,自営的就労者における経済的従属性への対処を,競争法の規制を援用するという方法で行ったのです。もちろん2017年法は,自営的就労者の妊娠,病気,ケガの場合の契約中断(契約は終了させないこと)を求める権利を認めるなど労働法的な規定も設けています。このイタリアの「実験」は,自営的就労者に向けての労働法の新たな展開の可能性を感じさせるものといえるでしょう。
 労働法と経済法の統合というと,正田彬先生のことを思い出します。正田先生の論文は,読んだことはあります(日本労働法学会誌24号の「労働法と経済法の関係についての試論」など)が,あまり印象に残っていません。いま一度,勉強してみる必要があるのかもしれません。いずれにせよ「優越的地位の濫用(abuse of dominant position)」(の禁止)という法理の普遍性が,これから問われていく時代になるのだと思います。第2の正田彬が登場してきてもおかしくありませんね。

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