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2017年11月25日 (土)

『〆切り本』

 『〆切り本』(左右社)を読みました。〆切りは,作家の人たちにとっては,逃れられない宿命的なものですが,〆切りがあればこそ,おまんまが食えるということで,ありがたいものでもあります(〆切りのないような作品は商業的価値がないことが多いでしょうから)。私のような研究者においても原稿の締切はもちろんあり,そこだけみれば作家と同じような状況ですが,これで生計を立てているわけではなく,切実性は違うでしょう。雑誌や新聞で自分が穴をあけたらどうしようという悪夢にうなされる作家が多いということを知り、少し安心しました。
 この本は,あの谷崎潤一郎や夏目漱石などを始め,多くの著名作家が〆切りに追われて呻吟している生の気持ちを表したものを収録したものです。〆切りを過ぎてから書き出す人たち,〆切りを守ろうと悪戦苦闘している人たち,〆切りに追われるのをおそれて〆切りより早くにきちんと書き上げている人たちなど,〆切り一つをとっても,いろいろ性格が出てきます。これだけ一斉に並べられると,どこかに自分と同じタイプの作家がいそうです。
 それで私はどうかというと,まず私自身,おそらく15年くらい以上,締切が1カ月以内にないという状況になったことはありません。大きな論文や書物の締切がまずポツポツとあって,さらにそれらの初校,再校の締切があって(私は初校や再校でもかなり手を入れるタイプです)というのが基本にあり,そのほかに依頼された雑誌原稿,そして連載原稿がありということで,このスケジュール管理がとても重要です。いちおう毎日プチ締切を作っており(今日は原稿のここまでを書くための締切とか,今日は構想を固めるための締切とか),それを現在ではTodoistで管理していて,朝起きたときにみる最初のメールは,Todoistからの,今日のプチ締切についてのものです。プチ締切をきちんと守っていけば,全体の締切に間に合うということで,この最初のプチ締切の設定がとても大切です。もちろん,予定どおりにいかないのは世の常であり(とくに酒を飲むとグダグダになり,これは作家の方も同様のようで安心しました),たえずプチ締切の再設定はやっています。こういうスケジュール管理にかなりの時間を費やしているので,これも人工知能にやってもらったらという気もしますが,実は自分でやることに楽しみもあるのです。無事にノルマがこなせたら,そのプチ締切を削除するのです。これがとても快感なのです。プチ締切が次々と消えていくところが,マラソンの残り距離が減っていくのと同じような感じで快感なのです。そしてその快感の行く末が原稿の完成ということで,このおかげで,私は幸い原稿を落としたことがないはずです(落としてほしいと頼んだのに,落とすことを認めてくれなかったものが,昨年1件ありましたが,これは主観的には,締切を守らなかった例には分類されていません)。
 もちろんこれは私が律儀だからではありません。追い込まれてしまうと原稿が書けないという気の弱さがあることを自覚しているからです。弱い者は自衛しなければなりません。締切なんてなんぼのものと言えるような豪の人はうらやましいですが,自分に合わない生き方はダメですよね。一番困るのは,自分で自分の後始末をつけれずに,他人に原稿の遅延や不執筆の後始末を押しつける輩ですが,こういう人とはできるだけ付き合わないようにしようと思っています。

 ということで締切にうなされることのある方々は,この本を読んで勇気づけられましょう。それにしても,一番最後の谷崎潤一郎のお詫び文にはぶっとびました。さすが大作家です。       ★★★☆☆(この企画の面白さに★三つという感じです)

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