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2017年11月28日 (火)

労基法38条1項は改正不要

 今朝の日経新聞で「副業しやすくルール修正- 厚労省,本業との労働時間合算など検討 「働き方」整合性も課題」という見出しの記事が出ており,労基法38条1項のことが扱われていました(条文は出てこなかったですが)。明治大学の小西康之君が「ルールが有効に機能していない」とコメントしているように(なお,小西君を「労働法に詳しい」と形容するのは,日経新聞のいつもの言い方ですが,何か変で,労働法研究者とか,労働法学者とか呼んでほしいです。労働法の詳しさにも,いろいろなレベルがあるので,専門に研究している人にはそれなりのリスペクトがほしいものです),38条1項があるがゆえに副業を禁止しているという例や,副業先が本業がある人を受け入れないという例が,それほどあるとは思えません。したがって,38条1項の規定を変えても,副業との関係では,実態にほとんど影響がないのではないでしょうか。
 理論的にも問題があります。副業を命じられてするような場合なら別ですが,普通は,副業は自分で選択してやります。その場合,たとえばA社で6時間働く場合,その6時間はA社に時間管理責任があります。同じ労働者がB社で5時間働く場合,その5時間はB社に時間管理責任があります。しかし,6時間と5時間を加えて11時間(3時間は法定労働時間を超過),働くというところには,労働者の自発的意思が介入しているのです。そこを飛び越えて通算して,「使用者」側の責任にしようとする発想に,そもそも無理があるのです。
 使用者が労働法上の責任を負うのは,基本的には,自らが指揮命令した範囲においてです。理論的には,その範囲を超えるところまでは責任が及ばないはずです。38条1項は「事業場を異にする」場合にも労働時間を通算するという規定ですが,それを同一使用者における複数事業場のことを指していると解しても,文言上はまったく問題ありませんし,理論的にも正しいのです。むしろ,異なる事業主にまたがった場合にも通算するという行政解釈(昭和23年5月14日基発769号)のほうに無理があります(複数の派遣先に派遣するという場合の通算は,使用者としての派遣元の管理範囲内のことで,認められるのは当然です)。労働者を基準にして判断するという発想はわからないわけではないですが,使用者の責任を過大に認める理論的根拠は薄弱です。しかも行政は,実際上は,複数事業主にまたがる労働時間の通算について取締りなど出来ていないのです。その意味で無責任な行政解釈といえるでしょう。
 労基法38条1項は,行政が誤りを認めて,行政解釈を修正すればよいだけです。これだけのことなら,別に労政審に諮る必要などないのではないでしょうか。
 もっと大事なことに時間を使ってもらいたいものです。たとえば,労働時間規制で健康確保を図るということそのものの妥当性の検討です。自発的に副業をしようとする人について,健康確保が必要であるとすれば,それはどのような方法によるのか,です。これは法律屋がいくら集まっても,その知恵には限界があるかもしれません。  

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